氷の剣の試作品
「それにしても、氷の剣ねえ」
追加でもう一つ氷のボールを作って転がしてやった俺は、自分で収納している予備の剣を一つ取り出してみた。
これはバッカスさんの店でハスフェル達に選んでもらって購入した剣だ。
「これに氷をまとわせる? そのまま凍らせるのではなく?」
ゆっくりと鞘から抜き、右手で持ってじっくりと眺めつつそう呟く。
「氷をまとわせる?」
もう一度そう呟き、とりあえず一度やってみる事にした。
「凍れ!」
剣を見ながら、一言だけ声に出してそう言ってみる。
次の瞬間、文字通り剣が凍った。氷の剣、ではなく単に剣が凍った。
だって、長い剣がそのまま全体に楕円状に凍ったので、どこからどう見ても剣ではなく鈍器になったんだよ。
まあ、これはこれで攻撃力はありそうだけどな。
それを見て隣で吹き出す三人の声を聞き、俺も遠慮なく吹き出したよ。
「あはは。なあ、剣が鈍器になったぞ。これはどうだ?」
「あはは、確かにこれはどう見ても鈍器だな。だがこれでアサルトドラゴンをぶん殴ったら、間違いなく剣ごと砕けるだろうな」
大笑いのハスフェルの言葉に、ギイとオンハルトの爺さんも頷きつつ大爆笑している。
「やっぱりそうなるか〜じゃあこれは失敗だな。ううん、どうすべきだ?」
とりあえず、剣ごと砕けるといけないので、そのままそっと足元に置いておく。この氷は試しに作ったので普通の氷だから、この気温ならすぐに溶けるだろう。
「この、まとわせるってのがよく分からない感覚だよな。そのまま凍らせるとさっきみたいになるし、う〜〜ん。どうすればいいんだ?」
そう呟きながら少し考えて、やや短めの別の剣を取り出しこれも鞘から抜いてじっくり見てみる。
「あ、そうか。剣に布を巻き付けるみたいに、氷を巻き付ける感じで凍らせてみればいいかも」
不意に思い出したのは、ハスフェル達が剣の手入れをする際に柔らかい革で剣を拭いていた姿だった。
「よし、一度やってみるか」
一応布を取り出して剣に巻きつけてみて、実際に目で見てしっかりとしたイメージを頭の中で考える。
恐らくなんだけど、この、そもそも魔法を使う時って成功した時のイメージが凄く大事なんだよな。
例えば俺が作る氷。ギンギンに冷えた硬い氷。
テイムする際に使った、最強のティグの咬合力にさえ勝った俺の氷。
バイゼンで、あの岩食いの侵入を止めた城門をガッチガチに凍らせた巨大な俺の氷。
そしてお酒を飲む時に作っている、完全に透明な俺の氷。
全部、そのイメージを必死に思い描いて頭の中で何度も反芻していたものだ。
多分あれと同じで、この氷の剣も出来上がった時のイメージが大事なんだと思う。
「待てよ。そもそも氷の剣って、どんな感じなんだ?」
目を閉じて思い出したのは、元いた世界で何度も見た、SF映画のビームサーベルみたいなあれ。氷では無いけど何となくあれが俺の持つ氷の剣のイメージに近い気がする。
「よし、あのイメージでいってみるか」
小さくそう呟き、抜き身の短剣を高々と掲げる。
「凍れ!」
セリフはさっきと同じだけど、頭の中で思い描いているイメージはさっきとは全然違う。
すると、パキパキと音を立てて剣の周囲に氷が薄く凍り始めた。しかも、さっきとは全く違い全体に、剣に巻き付くみたいにして凍っていく。
「うおお。ネジ状に凍った! なあ、これはどうだ?」
その結果、巨大なネジみたいになった剣を見て思わずハスフェル達を振り返る。
軽く叩いてみたが、強度はそれなりにありそうだ。
「うむ。ちょっとその剣、貸してもらってもいいか?」
真顔のハスフェルが、そう言って右手を差し出す。
「おう、いいぞ」
そのまま渡すと、真顔で立ち上がったハスフェルは凍った短剣を軽く振った。
ブンと、意外なくらいに大きな音を立てる凍った短剣。
「これは良いかもしれんな。この剣は、バッカスの店で購入した剣だな。万一折れたら弁償するので、ちょっと本気で手合わせしてみても構わないか?」
「おう。遠慮なくどうぞ」
これまた真顔でそう言われて、苦笑いしつつ頷く。
まあ、あれは本当に予備で買った剣だから、まだ一度も実戦では使っていないから、万一壊れても別に気にしないって。
こちらも真顔のギイが立ち上がり、やや長めで幅の広い長剣を取り出して抜いた。
恐らく総ミスリル製と思われるその輝きに目を見開く。
俺が使った剣は、確かミスリルがちょっとだけ入った鋼との合金で、手入れのしやすさを理由に購入したものだ。
そんなのと、あのミスリルの長剣を合わせれば間違いなくその瞬間にこっちが折れる。
「いいか」
「おう」
しかし、真顔の二人はそう言って互いの剣を構えた。
オンハルトの爺さんは黙って見ているだけで何も言わない。
「「せい!」」
二人の口から同時に声が聞こえ、真正面から力一杯剣を打ち合わせる。
絶対に折れたと思って思わず目を閉じたんだけど、その後に何度も打ち合わせる音が聞こえて慌てて目を見開いた。
何と、俺が作った氷の剣試作品二号は、ミスリルの長剣を相手に全く折れる事なく相手をしていた。
いや、それどころかギイの剣を押し返す勢いだよ。
「ケン! これは良い。今度は長剣を使ってこのやり方で作ってみてくれるか!」
とりあえず手合わせをやめたハスフェルが、子供みたいにキラッキラに目を輝かせながらそう言って俺のところへ駆けてきた。
同じくらいに目を輝かせたギイもその後に続く。
「「これを使ってくれ!」」
二人から大きな剣を差し出されて、受け取りつつ思わず笑っちゃったよ。
試しにと思って適当に作ってみた氷の剣だったけど、どうやらなんとかなりそうで、密かに安堵のため息をこぼした俺だったよ。




