状況の把握とベリーの苦手な事
「はあ。それでちなみに、その氷の剣ってどうやって作るんだ?」
現実逃避していても何の解決にもならないので、とりあえずため息を吐いて気を取り直した俺は一番気になったところを聞いてみる。
「あれほど強固な氷を作れるケンなら、すぐに出来ると思うぞ」
「この剣全体に氷をまとわせる感じらしい。氷を貼り付けるって表現していた奴も過去にはいたな」
そう言ったハスフェルが、装備しているあの大きな剣を抜いて見せる。
「これに氷をまとわせる? ううん、ちょっと表現が曖昧すぎてよく分からないなあ」
ギラリと光る抜き身の剣を見ながら考える。
もっと具体的に教えてもらえるのかと思っていたが、まあ彼らは氷の魔法を使えないんだから、これは仕方がないのかもしれない。
ちなみにシャムエル様は、素知らぬ顔で机の上に移動して尻尾のお手入れの真っ最中だ。
「なあ、今思ったんだけど、それなら俺なんかよりベリーに手伝ってもらう方がずっと早いし確実なんじゃあないのか?」
すると、何故か三人は揃って困ったような顔で俺を見た。
「ええ、何だよ一体?」
驚く俺に、一旦剣を収めたハスフェルが大きなため息を吐いてから首を振った。
「ベリーは、大森林の奥地にある本来のアサルトドラゴンの生息地域へ確認に行ってくれた。どう考えても、こんな時期にアサルトドラゴンが住処を変えるなんて不自然だからな」
「地脈が整って以降に大繁殖が頻発しているって話はしたと思うが、もしもアサルトドラゴンの大繁殖なんて事が起これば、それはちょっと冗談では済まない事態になるからな」
「ええと、それはどういう状況?」
聞きたくないけど、聞かないともっと怖い気がして恐る恐るそう尋ねる。
「言っただろうが。アサルトドラゴンはドラゴンとは名が付いているが、竜種では無くあくまでも言葉も通じない単なる強いジェムモンスターだ。なので当然だが大繁殖の可能性は常にある」
「ここで大繁殖が分かれば、ベリーと森林エルフの皆で対応してくれるさ。だが、今回新しくアサルトドラゴン達が住み着いた場所は大森林の外。つまり森林エルフの管理外の地域になるんだ」
ハスフェルとギイの説明に俺は首を傾げた。
「ええ、つまり森林エルフの皆さんは担当地域が決まっている?」
驚く俺に、またハスフェル達が困ったように顔を見合わせる。
「決まっているわけではないんだが、正直に言って彼らのほとんどは大森林から、いや、この木の住処からほぼ出ない。彼らにとって外の世界はあくまでも研究対象というか……自分達とは関わらぬ世界なんだよ。見回りも兼ねて森へ定期的に出て行くのは、狩猟組と呼ばれる、狩りをして食料となる獲物を持ち帰るハンター達と買い出しを担当する商人だけだよ」
「ええと、それって……」
「だからまあ、アサルトドラゴンの群れが外の森に棲みついたと聞いて、彼らも困っていたらしい。
「言ったように元々の生息地域で大繁殖が起これば狩猟担当の森林エルフ達や、場合によってはケンタウロス達に対応を頼む事もある」
「だが今回の群れは、そもそも何故元の群れから分離したのかがよく分からないらしくてな。なのでまずは調査、それから駆除って流れになるみたいだ」
また、駆除って言ったし。
「成る程ね。じゃあ、俺が出るのはその駆除の時かな?」
「調査はベリーがやってくれるらしいから、任せていいと思う。氷の術については、実を言うとベリーはあまり得意ではないらしくてな。扱えない訳ではないのだが、氷の剣を作るような繊細な術の行使なら、ケンの方が確実だと言われたよ」
「ええ、ベリーは魔法なら何でも出来るんだと思っていたよ」
でも、確かに言われてみればベリーがいろんな魔法を使っているのを何度も見たけど、氷の術を使っているところは一度も無い気がする。
一緒にお酒を飲む時に使っていた透明な氷だって、全部俺が用意していたからな。
「へえ、これはちょっと嬉しいかも。賢者の精霊が苦手な術を、俺の方が上手く扱えるなんてさ」
内心ちょっとドヤ顔になりつつ、思わず右手の上にまん丸な氷のボールを作ってみる。
お風呂に入る度に作っていたから、完璧な円形のボールを簡単に作れるようになったんだよな。
それを見たスライム達が、一斉に跳ね飛んできて俺の周りに集まる。
「はいはい、ほら、遊んでおいで」
笑ってそう言った俺は、開けたままだったテントの出入り口目掛けて力一杯氷のボールを放り投げてやる。
「きゃ〜〜!」
「待て待て〜〜〜!」
歓声を上げたスライム達が一斉に跳ね飛んでボールを追いかける。
「よし、じゃあもう一つ!」
さっきよりも大きめの、今度はラグビーボールを作って放り投げてやると、一部のスライム達が慌てたように戻ってきてラグビーボールに殺到した。
そのあとはのんびりとハスフェルが出してくれたお酒を飲みつつ、追加で作った氷のボールで遊ぶスライム達を見て和んでいたのだった。