色々とまずい事って何?
「ちょっと! お願いだから寝ないで! 腹ペコな私を置いて寝ないで! 起きて〜〜〜〜!」
予想通りすぎる腹ペコなシャムエル様の叫びに、堪えきれずに吹き出す俺。
「はいはい、じゃあ、ちょっと待ってくれよな」
シャムエル様を顔にしがみつかせたままそう言って立ち上がった俺の言葉を聞いて、シャムエル様が瞬時に机の上に移動する。
「では、腹ペコなシャムエル様にはこれをどうぞ。デザートのお菓子が欲しかったら、それはまた後でな」
目を輝かせてステップを踏み始めたシャムエル様を見た俺は、さっき取り分けて自分で収納しておいたお皿を笑顔で取り出してそう言いながら目の前に置いてやる。
ショットグラスには、追加で入れた俺のカップから麦茶を入れてあげた。
「わあい、さすがは我が心の友だね。私が欲しいものをちゃんと準備して待っていてくれるなんて、もう最高! では、いっただっきま〜〜〜す!」
はい、またしても創造神様から我が心の友発言いただきました!
脳内で突っ込みつつ、ご機嫌で岩豚の角煮を齧り始めたシャムエル様の尻尾をこっそり突っついた俺だったよ。
「はあ、ごちそうさまでした! いつもながら美味しかったです! デザートもお願いします!」
かけらも残さず綺麗に平らげたシャムエル様は、ご機嫌でそう言うとちっこい手を胸元で握りしめながら上目遣いに俺を見上げた。
「はいはい。おおいサクラ〜〜! 遊んでいるところを悪いんだけど、シャムエル様がデザートのお菓子をご希望なんだ。ちょっと来て出してくれるか〜〜」
最近では、何かあった時の為にと思って食料は俺も色々と収納して持っているんだけど、デザートは基本的にほとんど食べないし果物くらいしか持っていないので、素直にサクラを呼んだよ。
「はあい、ちょっと待ってね〜〜〜〜!」
川の中にいたらしいサクラが、俺の声に気づいてすぐに川から飛び出してきてくれて、そのまま跳ね飛んでこっちへ来てくれた。
「ええと、何がご希望ですか?」
机の上に飛び上がってピタリと止まったサクラの質問に、目を輝かせたシャムエル様が空の大皿を一瞬で取り出す。
「全部乗せ巻きをお願いします!」
「はあい。一本でいいですか?」
差し出された大皿に、即座に丸ごと一本全部乗せ巻きを取り出してそう尋ねる。
うん、シャムエル様の食欲をよく分かってるな。
「とりあえず一本あればいいです。ええとあとは焼き菓子を色々と、それからクッキーも色々お願いします!」
余裕一人前以上弁当食った後で、さらにどれだけ食うんだよ! って突っ込んだ俺は間違っていないよな。
結局、大皿に盛りきれなかったクッキーは別のお皿に山盛りにされ、俺の希望でアイスオーレも用意された。
もちろん俺はアイスオーレだけだよ。
「じゃあ、せっかくだからケンにもあげるね」
そう言って差し出されたバニラクッキーを一枚だけ受け取る。
「これこそまさしく神様からのお裾分けだな」
まあ、クッキーの一枚くらいなら食後でも食べられるだろう。笑ってそう呟いた俺は一枚のクッキーを有り難く頂いて、アイスオーレと一緒に美味しく食べたのだった。
「それで、何がそんなに忙しかったんだ?」
アイスオーレを飲みながらの俺の質問に、全部乗せ巻きを平らげたシャムエル様が困ったような顔で俺を見上げる。
「ええとね。後でハスフェル達から詳しい説明があると思うんだけど、結構色々とまずい事になっているみたいなんだよね」
マドレーヌを手にしたシャムエル様の言葉に、俺は思わず椅子ごと後ろに下がった。
「何だかめっちゃ嫌な予感がするんですけど〜〜〜」
「気のせいです!」
ここだけキリッと断言されても、嫌な予感が倍増しただけだよ。
「とりあえず、その色々とまずい事になっているみたいだって部分を詳しく!」
カップを置いた俺の言葉に、わざとらしく大きなため息を吐くシャムエル様。
「だから、そこはハスフェル達からね」
テヘペロって感じにそう言われて、もう俺の嫌な予感は天井知らずに上がり続けたのだった。
『おおい、今何処にいる?』
その時、まさに図ったようなタイミングでハスフェルからの念話が届いた。
『おう、郊外の川辺で午前中いっぱい従魔達と一緒に水遊びをして、ちょうど昼飯を食い終わったところだよ。予定では午後からもう一回水遊びをする予定だったんだけど、シャムエル様から何だか嫌な予感のする話をされてさあ……』
『ああ、実はそうなんだよ。俺達も正直に言って少々困っていてな。ちょっとお前の力を貸して欲しいんだよ。とりあえず、場所は分かるから今からそっちへ行くよ。それまで遊んでいてくれていいからな』
若干投げやりに聞こえるその言葉に、もう俺の嫌な予感は確定事項になったよ。
『正直に言って絶対聞きたく無い気がするんだけど、でも、そもそもお前らの話を聞かないって選択肢は俺には無いんだよな?』
『そうだな。すまんがそこはもう諦めてくれ』
困ったように笑いつつも断言されてしまい、割と本気で遠い目になった俺だったよ。




