シャムエル様の行方?
「あれ? そう言えば……シャムエル様がいないぞ?」
風呂敷を解いて三段の重箱を取り出した俺は、蓋を開けながら不意に気が付いて慌ててそう言いながら周りを見た。
しかし、いくら探しても何処にもいない。もちろん俺の肩にも頭の上にもいない。
「ええと、確かここに降りた時にはいたよな。どこに降りるんだって話をしていたから間違いなくあの時はいた。でもって……水遊びを始めた時には、確かに俺の肩の上にもマックスの頭の上にもいなかったぞ。うええ? もしかして川に落っこちて流されたなんて事あるか? あれでも一応神様だぞ!」
まさかの川に落っこちて流された案件の可能性を考えて血の気が引いたよ。慌てて開けかけた重箱の蓋を音を立てて閉めた俺は、大急ぎで立ち上がって川に向かって走った。
「あれ? 急にどうしたんですか? ご主人。食事の前に水遊びですか〜?」
不思議そうなアクアの声が聞こえて振り返ると、テントにいた子達が全員俺の後を追って走ったり跳ね飛んだりしてついて来ていた。
「いや、水遊び前までいたシャムエル様が、いつの間にかいなくなっていたからさ。もしかして、さっきの水遊び中に川に流されたのかと思って、探しに……」
そこまで考えて我に返る。いや待て。万一にもシャムエル様が本当に水に落ちたり流されたりしたら、俺は気がつかなかったとしてもアクア達は絶対に気がつくだろう。そして、本当に流されたとしたらアクア達がそれを放置するわけがない。って事は……?
「ええと、シャムエル様って……何処に行ったか分かるか?」
恐る恐るの俺の質問に、アクアとサクラが顔を見合わせる。
うん、上から見ていたら肉球マークが動いて指先同士が向き合ったから、あれで顔を見合わせているんだろう。多分。
「えっとね。ここに降りてアクア達がテントを張った後に、ご主人が川に向かって走り出したのを見てシャムエル様はいつもみたいに突然消えちゃったんだよ。落っこちたんじゃあなくて、ヒュンって感じで空中に消えちゃいました。でもアクアは、きっとシャムエル様には神様のお仕事があるんだと思ったから、何も言わなかったんだよ」
「お、おう……そうなんだ。ええと、ちなみにそういう事って頻繁にあるのか? その、シャムエル様が急に消えちゃうみたいな」
「えっと、そんなにいつもってほどじゃあないかな? たまに、だと思うよ」
少し考えたアクアの答えに、とりあえずシャムエル様川流れ事件では無かった事に、安堵のため息を吐いてその場に膝をついたのだった。
「はあ、まあ神様のお仕事なら仕方がないな。そのうち、用事が済めば帰ってくるだろうさ。よし、じゃあ俺は腹が減ったから飯にしよう!」
立ち上がって膝を払った俺は、そう呟いて川を見る。
俺が水遊びをしに来てくれたんだと思ったらしいマックスとビアンカが、キラッキラに目を輝かせて待ち構えていたんだけど、さすがにそれは無理。
「ええと、ごめんよ。今から俺はテントに戻って飯にするから、マックス達は遠慮せずに川で遊んでいてくれていいぞ〜〜!」
苦笑いしながら手を振ってそう言ってやると、マックスだけでなく水遊びをしていた子達が一気に全員揃ってしょぼ〜んってなったのを見て、思わず吹き出す。
「だから食べて一休みしたらそっちへ行くからまた後でだって。俺の食事が終わってからまた遊ぼうな」
そう言ってやると、これまた面白いくらいに一気に元気になるマックス達。
「そうなんですね。分かりました! では待っていますので、ご主人はしっかり食べてください!」
ご機嫌でワンと吠えたマックスがそう言い、大きくジャンプしてまた川に飛び込んで行った。当然ビアンカもそれを追いかけて川に飛び込む。
一声吠えたセーブル達も次つぎに川に飛び込むのを見て笑った俺は、テントに戻ろうとして思わず吹き出したよ。
だって、楽しそうに遊び始めたマックス達を見たスライム達が、さっきのマックス達みたいに一斉にしょぼ〜〜んってなっていたんだからさ。
「俺も食べたら行くから、先に行って遊んでいてくれていいぞ。ほら、遠慮せずに行っておいで」
笑ってそう言いながら両手を広げてやると、アクアが大きく一回ジャンプしてから俺の手の中に跳ね飛んで飛び込んできた。
「ほら、行ってこ〜〜い!」
一度おにぎりにしてやってから、思いっきりフリースローで川の方に向かって放り投げてやる。
さすがに、いくら自力で軌道修正出来るとはいっても、この距離をひとっ飛びにするのは無理だったらしく川手前の石の河原に落ちてまたジャンプする。そのあとは自力で何度も跳ねてから、川に飛び込んでいった。
「ご主人、サクラもお願いしま〜〜す!」
「ご主人、アルファも〜〜〜!」
それを見たスライム達が大はしゃぎで一斉に跳ね始めた。
「よしこい! 順番にな!」
腹は減っているけど、これを放置してテントに戻るなんて選択肢は俺には無い。
次々に飛び込んでくるスライム達を、一度おにぎりにしてから朝よりも力を入れて思い切り遠くへ放り投げ続けたのだった。
結局、最後のクロッシェを放り投げた俺は、その場に座り込んでしまうくらいに疲れていたのだった。
はあ、お疲れ様。よし、とりあえず食おう!




