のんびりな時間と昼食
「はあ、パンツまでびしょ濡れだよ。サクラ、お願いします」
「はあい、じゃあ綺麗にするね〜〜!」
水遊びが一段落したところで一旦陸に上がり、水が滴る前髪をかきあげつつそう頼むと、跳ね飛んできたサクラが一瞬で広がって俺を包んでくれる。戻った時には、もう服は綺麗に乾いているし濡れた髪もサラサラ。もちろんパンツまで綺麗に乾いているよ。
「ありがとうな。完璧だよ」
笑ってサクラをおにぎりにしてやりつつ、まだ浅瀬で遊んでいるマックスやビアンカ達を見る。ちなみにイグアナコンビと大型犬サイズになっているセーブル、それから大型犬のサイズになったティグも参加しているよ。
「あっちは、まだまだ遊び足りないって感じだな。はあ、俺はちょっと休憩だ。寛ぎたいから大きめの椅子になってくれるか」
足元にいたアクアを見ながらそうお願いすると、一瞬でベッドサイズの背もたれ付きの大きなソファーが現れた。
「ええと、これくらいでいいですか?」
「おう、完璧だよ。じゃあ失礼しま〜〜す」
笑ってそう言った俺は、ソファーに座って手足を投げ出して背もたれに体重を預けた。
ポヨンと少したわんだスライムソファーは、そんな俺をしっかりと受け止めてくれている。
「はあ、快適だな。おお、ほらおいで」
水遊びには加わらず周りの草むらで遊んでいたマニが、俺が休憩したのを見てすごい勢いで走ってきた。そのまま俺の横に飛び込んで来て、腕の中に頭を突っ込んでくる。
「相変わらず甘えん坊だなあ。ああ、ここひっつき虫がいっぱいだ」
甘えてくるマニを撫でてやったら、首の横から胸元の辺りが妙にざらついている。
何事かと思って覗き込むと、小さな粒々がいくつも毛に引っ付いているのが見えて思わず吹き出す。
これは通称ひっつき虫、もちろん虫と名前がついているが植物だよ。盗人草とも言われる、トゲトゲのある小さな草の種で、側に来た動物の毛に引っ付いて移動して別の場所で根付く。
自力で移動出来ない植物の種の、生存競争の方法の一つだ。
俺も子供の頃に虫取りに行って、靴下がひっつき虫だらけになって酷い目にあった事がある。
「サクラ、マニの毛に付いているこれ、取ってやってくれるか。それから、多分草むらで遊んでいた他の子達にもいっぱい付いていると思うから、そっちもよろしくな」
苦笑いしながら、近くのいくつかを引っ張って取ってやる。
「ご主人、無理に引っ張ると毛が抜けるからお任せくださ〜い!」
得意げなサクラの声がした直後に、さっきの俺のように一瞬で伸びたサクラに包まれるマニ。
だけど、慣れているので別に驚きもせずにじっとしている。
俺の時よりも少し時間がかかって戻った時には、いつものふかふかなマニに戻っていた。
「ありがとうな」
笑ってもう一回サクラをおにぎりにしてやり、それからふかふかになったマニも抱きしめてやった。
「ああ、いかんいかん。このままだと本当に寝てしまいそうだ」
しばらくマニを抱っこして寛いでいたんだけど、冗談抜きで意識が飛びそうになったのでそう呟いてなんとか起き上がる。
「ええ、起きちゃ駄目です。もっと一緒に寝んねするの〜〜」
そう言いながら俺の腹に、マニが甘えて頭をグリグリと擦り付けてくる。
「そろそろお昼なんです〜〜人間は朝昼晩と一日三回飯を食う必要があるんです〜〜〜」
笑ってマニの顔をおにぎりにしつつ、言い聞かせるように顔を覗き込んでそう言って笑う。
「人間は面倒だにゃ。そんなのお腹が空いた時に食べればいいだけなのに!」
呆れたようにそう言われて、思わず吹き出した俺だったよ。
「でも、俺は腹が減ったので食べま〜す!」
「それなら仕方ないね。じゃあ起きるにゃ」
笑った俺の言葉にマニがそう言い、起き上がってソファから飛び降りてその場で思いっきり伸びをする。
「おお、さすがは猫科の伸びだね。そんなの俺がやったら絶対腰を痛めて終わるぞ」
思わずそう言い、とりあえず立ち上がって俺も頭上に思いっきり腕を伸ばした。
「じゃあ、とりあえず弁当でも食べるか」
すっかり頭上に上がった太陽を見上げながらそう呟くと、サクラがすぐにいくつか弁当を取り出してくれた。
「ご主人、どれにしますか?」
「ううん、案外腹減っているからこれかな」
やや小さめの重箱を取る。これは、確か岩豚の角煮と燻製肉が入ってるやつだ。
もちろん二段目にはがっつり煮物や野菜も入っている俺仕様の弁当だよ。
「ちょっと太陽が眩しいから、さっきのテントに戻って食べるか」
振り返ってテントを見てそう呟き、弁当は一旦収納してテントへ向かう。
「あはは、いないと思ったらそこにいたのか」
テントに入ると、ニニとカッツェが机の横でくっついて熟睡中だった。
「仲が良くて結構だね」
笑って手を伸ばしてニニとカッツェを撫でてやってから椅子に座る。
「じゃあ、いただきます! あ、サクラ〜麦茶をお願いするよ」
「はあい、冷えたのでいいですか?」
跳ね飛んできてくれたサクラが、ちゃんとカップに入れた冷えた麦茶と追加用のピッチャーも出してくれる。
「ありがとうな」
笑って受け取り、まずは弁当を包んでいる風呂敷を解いたのだった。
さて、午後からはもう一回水遊びかな?