従魔達と一緒のお出かけだ!
「ええと、従魔達を全員連れて行くのはいいんだけど、勝手に出て行っても構わないのかな?」
食事を終えて弁当を収納したハスフェル達が立ち上がるのを見て、俺も立ち上がりながらふと思いついてそう尋ねる。
「ああ、サイプレスには俺が言っておくから、好きにしてくれて構わないぞ」
「了解。じゃあお前らが行ったら、俺も出かける事にするよ。ええと、だけど勝手に出て行って戻って来られるかな?」
現在位置を聞かれても、正直言って俺は全然分からないぞ。
内心焦る俺の呟きに、左肩に留まっていたファルコが笑いながら俺の頬に頬擦りしてきた。
「ご主人、ご心配なく。この場所なら我らがもう覚えましたから大丈夫ですよ。空からなら、いつでも帰って来られますよ」
「そっか。ファルコは頼りになるな。いつもありがとうな」
頼もしいその言葉に、笑って両手でファルコの頭をおにぎりにしてやったのだった。
ううん、この羽毛の撫で具合もなかなかに良き、だね。
「ご主人、ファルコばっかりずるい!」
「ご主人、私も撫でて〜〜〜!」
ご機嫌でファルコをおにぎりにしていると、ローザとメイプルがそう言って俺の脇の下に頭を突っ込んで来て、出遅れたブランとネージュが慌てたように俺の腕に飛んできて留まった。
「はいはい、順番な」
苦笑いしつつ順番におにぎりにしてやると、それを見た猫族軍団の子達だけでなく、他の子達までが次々に飛びついてきたもんだから、俺は笑いながらもふもふの海へと沈んでいったのだった。
いやあ、朝から何のご褒美ですか?
「はあ、キリがないって。ほら、行くぞ」
しばらくの間、楽しく揉みくちゃにされていたんだけどようやく我に返って起き上がってそう言いながら立ち上がる。
そのまま全員を引き連れて部屋を出て行き、とりあえず渡り廊下へ出る。
「ええと、何処から出ればいいんだ?」
部屋の外へ出たのはいいものの、周りを見回して困ってしまった。
「確か入ってきた時は、大きな扉から中に入ったんだっけ。勝手に開けていいのかな?」
もしかして、扉に鍵的なものがついていたりしたら、勝手に開けっぱなしで出ていくのはまずい気がする。
立ち止まって困っていると、駆け寄ってくる人がいて慌ててそっちに向き直る。
「魔獣使いのケン様ですね。いかがなさいましたか?」
初めて見る顔だったけど、相手は明らかに俺が誰だかわかっているみたいだ。
「ええと、ハスフェル達はサイプレスさん達と話をするからって、それで俺は従魔達を連れてちょっと外へ出ようと思ったんですが、どこから外に出ればいいのか分からなくて困ってました」
ここは素直に言うのが正解だろう。そう考えて現状を説明すると、その男性はにっこり笑って軽く手招きをした。
「では、外への扉までご案内しますのでどうぞこちらへ。ああ申し遅れました。私はラーゼンと申します。副代表の一人です」
「副代表、ですか?」
何となく予想はつくが、一応そう尋ねる。
「はい、サイプレス殿を筆頭にする各枝の代表以外にも、実務を担当する人が大勢います。その中でも副代表と呼ばれる者達がおりまして、代表の補助や、代表に万一の事があった場合には次の代表となる者達の事です」
予想通りの説明に納得してラーゼンさんを見る。彼もサイプレスさん達と同じような長いローブを身につけている。
年齢不詳なのは森林エルフが全員そうなのでおいておいて、彼も体はかなり細いけどひ弱な感じは全くしない。
でも何となく、ちょっと代表の方々よりも若い感じがしてちょっと親近感を持った俺だったよ。
ラーゼンさんの案内でしばらく渡り廊下を歩き、いくつか階段を上がって到着したのは広いロビーみたいな場所。ここって最初に入って来た場所のような気がするぞ。
「ここの扉から出入りいただけます。すみませんが右手を出していただけますか?」
右手を差し出しながらそう言われて、不思議に思いつつ素直に右手を差し出す。
「では、刻ませていただきます」
彼の右手には小さな水晶みたいな透明の石があって、小さな声でそう言った彼がその石を俺の右の掌にグイッと押し込んだのだ。
「うええ、ちょっと待ってくださいって!」
突然の事にそう叫んだが、俺の右手をしっかりと掴んだままグイグイとその石を押し付ける。
これ、見覚えがある光景だぞ。
ここでようやく冷静になって黙って見ていると、透明な石はあっという間に俺の掌の中へ吸い込まれるように消えてしまった。
「はい、これでもう貴方の右手はこの扉を開けます。ここから外に出入り出来ますので、どうぞこの扉をお使いください」
にっこり笑って手を離され、そう言って扉を示される。
成る程。どう言う仕組みかは分からないけど、さっきの水晶みたいなのがこの扉の鍵になっていて、従魔の紋章みたいに俺の手の中にその鍵が入ったわけだ。
なので、その右手で扉を開ければ鍵が反応して扉が開くわけだな。
「ええと、では失礼します」
ちょっとワクワクしながらそう言い、軽くラーゼンさんに一礼してから扉のノブを握った。
ぐいっと押すと、軋む事もなくゆっくりと扉が開いた。
「おお、凄い。ありがとうございます。では行ってまいります」
振り返ってそう言い、開いた扉から外に出る。
予想通り、ここは最初に来た時に降り立った大きな舞台みたいになった広い場所で、従魔達が全員出て来たのを確認してから笑顔で手を振ってくれるラーゼンさんに俺も笑顔で手を振り返してからそっと扉を閉めた。
「よし、じゃあまた適当に分かれて乗ってくれるか。スライム達は落ちないように確保をよろしくな」
「はあい、確保はお任せくださ〜〜い!」
「しっかり守るから安心してね〜〜〜!」
全員のスライム達も一緒に来ているので張り切った返事があちこちから聞こえ、お空部隊の子達プラスアルファな面々がそれぞれ一気に巨大化する。
俺も巨大化したファルコの背中に上がって定位置に座る。従魔達もそれぞれいつもの定位置に収まり、スライム達がしっかり確保してくれる。
「よし、じゃあ出発進行〜〜!」
何故か俺の右肩に座ったシャムエル様が、ご機嫌でそう号令をかける。
「では参りますね」
軽く羽ばたいたファルコの体がふわりと浮き上がり、一気に上昇していく。
他の子達もそれに続き、一気に樹上へ出た。
「うわあ、すっげえ高い!」
巨木を上から見ると、その大きさがよく分かる。もう地上は遥か下で霞んで見えないくらいだ。
「じゃあ、川があるのはあっちだよ〜〜! レッツゴ〜〜〜!」
ちっこい指で示す方角に向かって、お空部隊の子達は一気に加速して行ったのだった。