今日の予定
「じゃあ、好きに食ってくれよな」
即席水浴びを終え、全員揃って俺の部屋に戻る。
でもって、つい今までの習慣でがっつり大量の料理を出しそうとして、苦笑いして手を止めた俺だったよ。
「いくらあいつらがたくさん食うって言っても、今までとは出す量が違うんだって」
苦笑いしながらそう呟き、適当に色々取り出してやる。
「おお、美味そうだ。じゃあ、いただきます」
今ではすっかりいただきますとごちそうさまが習慣になったハスフェル達が、嬉しそうにそう言って早速肉メインで色々とお皿に取っていく。
「ええと、シャムエル様はタマゴサンドと、あとは何がいる?」
タマゴサンドを二切れと、自分用の野菜と鶏ハムをがっつり挟んだのを取り、ちょっと考えて岩豚のカツサンドも一切れ取ってからシャムエル様を振り返る。
お皿を手にしたシャムエル様は、カリディアと二人並んで高速ステップを踏んでいる真っ最中だ。
それにしても、相変わらず見事なまでのシンクロっぷりだ。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜っじみ! ジャカジャカジャン! ええとね、タマゴサンドとカツサンドもください! あ、コーヒーはここにお願いします!」
久々の味見ダンスを披露しながらの、シャムエル様の予想通りの答えに笑った俺は、リクエストの岩豚カツサンドも追加で取って差し出されたお皿に並べてやった。
ちなみに今日はホットコーヒーにしたので、ショットグラスが一瞬で下げられていつもの盃が取り出されたので、コーヒーはスプーンですくって入れてやったよ。
「じゃあ、いただきます。うん、どれも美味しい」
ホットコーヒーを飲みながら、のんびりと朝食をいただいた。
この人数だと取り合いにもならないので、なんだか気が抜けてしまい、食べながらちょっと寂しくなって潤みそうになった目をさりげなく擦ったのだった。
「はあ、美味しかったです! ごちそうさま!」
タマゴサンドと岩豚カツサンドをかけらも残さず綺麗に平らげたシャムエル様は、残りのコーヒーをぐいっと飲み干してからせっせと尻尾のお手入れを始めた。
「うん、美味しかったな。さてと、今日は何をするかねえ」
このところずっと、暇になったらひたすら料理をしていたので、逆にのんびりしろと言われても何をしたらいいのか分からないよ。いざとなったらベッドで従魔達とくっついてゴロゴロするか。
「実は、サイプレス達からちょっと相談があると言われていてな。まあ、これは恐らくだが俺達の本来の仕事がらみの可能性が高いから、ケンは無理に一緒に聞く必要はないと思う」
そんなことを考えていると、おかわりのコーヒーを飲んでいたハスフェルが真顔でそう言って俺を見るので、思わずコーヒーを飲もうとした手が止まった。
「そっか、じゃあ俺はどうするかなあ」
確かに相談事が神様の役割的な話なら、あえて俺が一緒に聞く必要はないよな。
君子危うきに近寄らず、だ。あれ、ちょっと違うかな?
「それで相談なんだが、場所はシャムエルが知っているので、俺達の従魔も連れてケンは外へ水遊びに連れて行ってやってくれるか? ここでは思いっきり走る事も出来そうにないからな」
ギイの言葉に納得する。
「そっか、じゃあ俺は従魔達を全員引き連れて出かければいいんだな。OK、じゃあそれで行こう」
「すまんな。悪いがよろしく頼むよ」
「構わないって。神様の役割的なそっち方面は、全面的にお任せするので頑張ってくれたまえ」
「まあ、いざとなったらお前にも何か頼むかもだけどな」
にんまりと笑ったハスフェルの言葉に、何故か、ギイとオンハルトの爺さんが揃って吹き出して大爆笑していたのだった。
待て待て、今こそ君子危うきに近寄らず! だぞ!
迂闊に引き受けると、絶対にまた死ぬような酷い目に遭うんだ……あ、自分で今、フラグ立てたかも。
遠い目になった俺は、黙って残りのコーヒーを飲んだのだった。
はあ、久々のホットコーヒー、美味しいなあ……。
「じゃあ、一休みしたら俺は出かけるから、あとはよろしくな。あ、昼飯は渡しておくべきだよな?」
サイプレスさん達と一緒なら、また野菜メインの食事になるだろう。
ふと思いついてそう言うと真顔の三人によろしくお願いしますと叫ばれて、思いっきり吹き出した俺だったよ。
って事で、手持ちの作り置きを肉メインで色々と、それから燻製も追加で入れた重箱の弁当もあったので、それも適当にまとめて渡しておいた。
「それなら、一度こっちが料理を提供して食事会をしてもいいかもな。この辺りの寿司や刺身みたいな魚料理なんかは、恐らく知らないだろうからさ」
魚料理も欲しいと言われて、作り置きしてあった握り寿司や鉄火巻き、それからちらし寿司あたりも色々とまとめて渡しておいた。
「ああ、確かにそれはいいかもしれないな。ぜひお願いするよ。生魚を使った寿司や刺身は全く新しい料理だし、彼らとしても知識の補完にもなるだろうからな」
「そうなると、恐らく俺の元いた世界の話になるんだろうけど、まあ、その辺りは適当に、だな」
「ああ、そっちは無理しなくていい。仮に聞かれたとしても、話したくない事を無理に話す必要は無いからな」
最後は真顔でそう言われてしまい、なんだか不意に胸がいっぱいになった俺だったよ。