ここでの食事事情と水事情
『おおい、そろそろ起きてくれよ〜〜』
ようやく笑いが収まったところで、タイミングよくハスフェルからの念話が届いた。
『おう、おはよう。今従魔達と戯れていたところだ。ええと、朝食ってどうするんだ?』
飛びついてきたマニを抱きしめてやりつつ念話で尋ねる。
実は昨夜の夕食は、森林エルフの皆さんが別室に用意してくれて代表の皆さんと一緒に頂いたんだけど、明らかに野菜多めのメニューばかりだったんだよ。
卵料理が一品しかなくてシャムエル様が明らかにしょんぼりしていたし、肉料理も無いわけではないがどう見ても添え物程度の量しか無かった。
さりげなく聞いてみれば、森林エルフの皆さんは特に菜食主義ってわけではないんだけど、基本的に普段から大体こんな感じの食事なんだって言われて、肉大好き小学男子なハスフェル達は揃って苦笑いしていた。
それで、食事を終えて部屋に戻ったあと、予想通りに全員が俺の部屋にまた集まってきて、ハスフェル達はもう一回夕食を食べるハメになったのだった。
まあ、俺はお付き合いでちょっと飲みながらつまんだ程度だけど、ハスフェル達は無言で肉ばかり食べていたよ。
『ちなみに質問なんだが、手持ちの食料はどんな感じだ?』
苦笑いしたハスフェルの質問に、俺は笑って胸を張った。
『今はこの人数だしな。お前らが一年位ここで籠城しても大丈夫なくらいに肉ならあるよ。調理済みのももちろん色々あるし、各種ジビエも、ギルドでしっかり捌いてもらったのがまだまだあるからな』
各種ジビエは、ギルドから引き取った収納袋をそのまま収納してある。
一応食料を管理してくれているサクラによると、他の食材も余裕でまだまだ在庫があるので、当分の間、何があっても食糧の心配はしなくても大丈夫みたいだ。
『それなら、ここで滞在中は基本的に自分達の食事は自分達で用意すると言っておいても構わないか?』
俺は平気だったけど、毎回あの食事はハスフェル達にはかなり辛いだろう。
俺は笑いを堪えつつそれでいいと念話を返したのだった。
って事で、とりあえずまずは身支度をする。
ここの客室は広いんだけど、部屋には水場もトイレも無い。
トイレは、部屋を出た部屋の並びにあってお客様用ではあるが共用スペースになっている。しかもトイレに併設されている水場は、本当に手を洗う為だけのもので洗面台もとても小さい。
で、水場はというと別の場所にあったんだけど、これが凄かった。
まあ、ここは大きいとは言っても木の中なわけで、当然と言えば当然なんだけど水は豊富にある。
壁面に取り付けられた蛇口っぽいのを回すと、ドバーって感じに水が勢い良く吹き出したのだ。
そして顔を洗って洗面台みたいなのに流れ落ちた水は、そのまま洗面台のそこにある穴に流れていってしまった。
ハスフェル達の説明によると、この巨大な木の表面近くに何本もの水脈のようなものがあって、木の根が地下から吸い上げた水をそれを通して循環させているらしい。
この使用済みのいわば下水も流した先にいくつもの濾過装置があって、そこを通してまた水脈に戻しているんだって。
木の中にある水脈自体にも浄化能力があるらしく、戻した水も問題なく飲めるんだそうだ。
もちろんその水脈は木が成長するためのものなんだけど、この水はそれを横から拝借している状態らしい。とはいえ全部の水脈から水を取っているわけでは無いので、使っているのは木の成長には問題ないくらいの量なんだって。なんか凄い。
ちょっと懐かしい蛇口もどきで顔を洗って、いつものようにサクラに綺麗にしてもらってから気がついた。
これだと、従魔達に水浴びをさせてあげられないぞ。
そもそも水浴び出来る場所が無いし、すっかり見慣れたあの水が流れる段々になった水槽と違い、すぐに水が流れてしまう洗面台では水を溜める場所もない。
水を止めた蛇口を見て、明らかにしょんぼりするスライム達とマックス達。
「ええと、後で水浴びの出来そうな部屋があるか聞いてみるから、今はこれで我慢してくれるか?」
そう言ってとりあえず手持ちの一番大きな木桶を出してそこに水を溜め、スライム達には小さくなってからそこに入ってもらい、俺は取り出した大きな布を水に濡らしてマックス達をせっせと拭いてやったのだった。
まあ、こうすれば体を綺麗にするのもそうだし、気化熱でちょっとは涼しくなるだろうからな。
「いざとなったら、ファルコ達に乗って外に出て、どこかの川で水遊びタイムだな」
特にここにいてもする事もないので、それも楽しいだろうな、なんて考えつつせっせとお空部隊の子達も濡れた布で拭いてやったのだった。
途中から来たハスフェル達も、俺のやっているのを見て、それぞれ木桶を取り出して並べて同じようにスライム達に水遊びさせて鳥達を拭き始めたのを見て、お互いの顔を見合わせて揃って吹き出したのだった。