代表の皆さん達
「どうぞ中へ。ちょうど定時報告会があったばかりで今なら全員集合していますからね」
「はあ、ではお邪魔します」
笑顔のサイプレスさんにそう言われて、なんとなくハスフェルとギイを先頭にして大きく開いた豪華な扉から中に入る。ちなみに二人の後ろに俺とオンハルトの爺さんが並び、従魔達はその後ろから一緒に部屋に入って行った。
入った部屋はかなり広く、真ん中には大きな円卓が置かれていて、そこには全部で九人の森林エルフ達が座っていた。
「戻ったかサイプレス。一体何があったのだ……おや、ハスフェルではないか!」
「おお、ギイも一緒か。久しいのう、いつ以来だ?」
「これは驚いた。二人揃って来るとは何かあったのか?」
「確かに会えて嬉しいが、揃ってくるなんて何かあったのか?」
部屋に入ってきた俺達を見て、部屋にいた全員が揃って驚いたように立ち上がったが、そのうちの四人がハスフェルとギイを見るなり嬉しそうにそう言って駆け寄ってきた。
駆け寄って来たのは全員がサイプレスさんと同じような服装の男性達で、どうやらこの四人はハスフェル達と既知の仲のようで、笑顔で久し振りだと言いながら腕や肩を叩き合っている。
「いや待て。その後ろにいるジェムモンスターと魔獣は何だ?」
「何故、何故魔獣やジェムモンスターがここにいるのですか!」
そして、同じくハスフェル達に駆け寄りかけたが、俺達に続いて部屋に入ってきたマックス達に気付いた途端、杖を手に即座に身構えてそう叫ぶ男性と女性。
この二人は他の人達とは明らかに服装が違っていて、どう見ても俺達と同じように武装している。恐らく軍人か、もしくはそれに準ずる職業の方達なのだろう。
とはいえ、二人が装備している革製の胸当てや籠手には全面にわたって優美な装飾が見事に彫り込まれているし、男性が腰に装着しているのはやや細身の剣で、女性の方はレイピアっぽいかなり細身の剣だ。
どれ一つとっても、芸術品として美術館とかに飾られていてもおかしくないレベル。
オンハルトの爺さんが言っていた通り、森林エルフのものつくりの技術は相当のようだ。
そして残り三人は全員が女性で、こちらはサイプレスさんのようなローブっぽい服装だ。
だがこの三人は、自分の仲間達と笑顔で話すハスフェルとギイを揃って戸惑うような表情で見ているので、どうやらこの三人はハスフェル達とは初対面と思われる。
ここまで完全に部外者状態な俺が冷静に判断したところで、軽く咳払いしたサイプレスさんが俺を振り返った。
「では、まずは我が仲間達にケン殿を紹介させていただきます」
にっこりと笑ったサイプレスさんは、そう言って軽く俺の腕を引いて自分の横に立たせた。
「皆、聞いてください。彼は魔獣使いのケン殿。ここにいる魔獣もジェムモンスターも、全て彼の従魔達です。そして、彼は異世界人です。彼がこの世界に来てくれた事で、我らの世界は、崩壊の危機から救われたのです。皆、この言葉の意味は、言わずとも、分かりますね?」
一言一言、区切りながら俺の背に手を当てて彼らの方を向かせて、はっきりとそう言うサイプレスさん。
当然、最初は訝しげに俺を見ていた全員の顔が見事なまでに真顔になった。
そして、先ほどのサイプレスさんのように一斉にその場に片膝をついて深々と頭を下げた。
でもって、さっきのサイプレスさんと全く同じ言葉が全員の口から出るのを聞いて、俺はもう一回さっきと同じセリフを叫ぶ羽目になったのだった。
最近は、このシチュエーションは無かったので久々の救世主様扱いに、割と本気で遠い目になった俺だったよ。
ベリーまで参加してくれて、跪いたまま顔を上げない代表者の皆様を説得するのにかなりの時間を要し、ようやく全員が立ってくれたところで改めてオンハルトの爺さんも皆に紹介してもらい、ここで急遽椅子が追加されて、俺達もひとまず座らせてもらった。
ここで、サイプレスさんから改めて代表者の皆さんを紹介してもらった。
まず、最初にハスフェルに駆け寄り話をしていた男性達は、菩提樹の枝代表のペルタムさん、月桂樹の枝代表トラヴァさん、杉の枝代表のロウトスさん、檜の枝代表のシャガルさん。
この二人を紹介された時に、花粉症の元凶コンビ! って思った俺は間違ってないよな?
それから武装した二人は、柘榴の枝代表のクエルクスさんと桜の枝代表のティーリアさん。
ここまではハスフェルとギイとの古い知り合いらしい。どれくらい古いのかは……聞かなかったけど推して知るべし。
そして、ハスフェル達とは初対面だったのが残りの三人の女性で、椿の枝代表のリーリアナさんと、薔薇の枝代表オルヒデアさん、そして最後が楓の枝代表のヴィオーラさんだ。
笑顔で挨拶を交わしながら、ちょっと営業時代に戻った気分になっていたのはナイショの話だ。