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朝市再び

 ぺしぺしぺし……。

 頬を叩かれて、俺は薄眼を開けてもふもふの海にもう一度沈んだ。

 ぺしぺしぺし……。

 うん、3回目ともなるともう分かる。

 これはシャムエル様……目を開けると、すぐ目の前でドヤ顔で頬を叩いていたラパンを見て、俺は笑って小さなウサギサイズのラパンを捕まえてやった。

 残念でした! 今日のペシペシ担当はラパンでした。

「おはよう、ご主人!」

 嬉しそうに笑ってそう言うラパンを、俺はおにぎりみたいにふもふしてやる。

 最高の手触りの毛玉だよ。ああ、朝から癒される……。


「いい加減起きなさい。もうお日様は高いよ!」


 ラパンのもふもふを堪能していた俺の頭の上から、シャムエル様の呆れたような声が聞こえて、俺は返事をして、仕方無しに幸せのふわふわもふもふ空間から起き出した。

 大きな欠伸の後、ニニと揃って大きな伸びをする。

 それから何となく、習慣で台所へ行って水場で顔を洗う。うん、やっぱり顔を洗うと眼が覚めるなあ。

 後ろをついて来てくれたサクラが、早速顔を洗った俺を綺麗にしてくれた。

 おお、濡れた顔も一瞬でサラサラになった。浄化の能力様様だね、有難や有難や。


 ベッドに戻り、外していた防具を順番に身に付け、サクラが綺麗にしてくれた靴下を履いて分厚い革靴を履く。

 よし、これで準備万端だ。


「皆はどうする? 俺は、このまま広場の屋台へ行って朝飯にするけど?」

 昨日、屋台でコーヒーの良い香りがしている店を見つけたので、今日は屋台でこっちのコーヒーも飲んでみようと思うので、自分ではコーヒーは淹れない。

「はーい! 行きます!」

 元気に返事をするマックスとファルコ、スライム達だけでなく、ニニもベッドから起きて来たので、結局また全員で出掛けることになった。

 サクラには、また鞄の中に入ってもらう。これだけで、入れ放題の冷蔵庫付き四次元鞄の完成だ。



 宿泊所を出た俺は広場へ向かう途中マックスのすぐ隣を歩き、ニニはマックスのすぐ後ろを並んで付いて来るようにした。スライムのアクアはニニの上で、ラパンはマックスの上に乗っている。ファルコはもう俺の左肩が定位置になったみたいだ。

 こいつらがデカいのはもう仕方がないが、何となく出来るだけ威圧感の無い並び方がこれだって事が、俺達にも分かってきた。


 広場では相変わらずの大注目の的だが、皆も若干慣れて来たのか、マックスやニニを見て、悲鳴を上げて走って逃げる人や武器を構える人は、昨日よりも少なくなったみたいだ。

 よしよし。この調子で毎日顔を出して、皆にも慣れてもらおう。


 昨日とは違う店で、分厚く焼いた肉をそのまま挟んだバーガーを買う。お、ここのはレタスっぽい野菜も入ってる。うん、そうだね。野菜も食わないとね。

 包み紙代わりの乾燥させた葉っぱで巻いてくれたバーガーを受け取り、すぐ近くにあったコーヒーの良い香りをさせている屋台を覗いた。

 持っているカップを渡せば、銅貨一枚で、本日のコーヒーを淹れてくれるらしい。銅貨一枚って事は、百円ぐらいか。安いんだろう……多分。

 俺は鞄に手を突っ込んで、こっそりサクラに頼んでカップを出してもらった。

 預けてある巾着の中から、一つだけ道具を出したりも出来るんだ。すげえな、サクラ。

 感心しながら、取り出したカップと金を渡してコーヒーをもらう。

 ちょっと薄い気もしたが、十分美味しいコーヒーだったね。たっぷり淹れてくれたから遠慮無く飲めたよ。


 広場の端で、マックスにもたれながら、バーガーを食べてコーヒーを飲む。朝からボリュームたっぷりだが、あっという間に完食したよ。

 のんびりと残りのコーヒーを飲みながら眺める景色は、旅行のパンフレットに載っていた、有名なドイツの古い街並みにそっくりだ。

 うん、素直に綺麗だなって思ったね。

 コーヒーを飲み終えた俺は、また朝市を見に行ってみる事にした。


「おお、あれってもしかしてイチゴか?」

 大粒のイチゴが、カゴに盛られて綺麗に並べられている、その隣にあるのは、どう見てもサクランボっぽい。

「どちらも今年一番の出来だよ。見てるなら買っとくれよ」

 店番をしていた大柄なおばさんが、俺に声をかけてきた。

「ほら、気になるなら味見しなよ」

 半分に切ったイチゴをくれたので、素直に口に入れる。

「何これ、甘っ!」

 大粒のイチゴは驚くほどに甘かった。

 うん、これは買いでしょう! 俺、いちごって実は大好きなんだよね。

 目を輝かせる俺を見て、おばさんは笑顔になった。

「じゃあ、こっちも食べてみなよ。これも大粒だから甘いよ」

 試食にと渡されたのは枝の折れたサクランボだ。うん、食べてみたがサクランボ以外の何物でもないよ。しかも、俺の知ってるサクランボよりも美味しい!


 ちょっと考えて、イチゴの籠を三つと、サクランボも一緒にもらう事にした。ええい! こっちも三つ、まとめ買いだ!

 それぞれ包んでもらい、順番に鞄の中に入れていく。中ではサクラがせっせと入れた物を飲み込んでくれている。

「いちごは潰れやすいから気を付けて持って帰ってね。たくさん買ってくれてありがとうね」

 おばさんは、俺の横にいる大きなマックスを見てちょっとビビったように笑い、すぐ側で大人しく座ってるニニを見た。

「あんただね、新しく街へ来た魔獣使いってのは。昨日からあちこちで噂になってるけど、この子達は本当に大人しいんだね。私の曾祖父さんはテイマーだったんだよ。私は知らないけど、婆さんがよく言ってた。小さかった頃は、家にはいつもスライムがいたってね」

「へえ、そうなんですか。スライムなら、ここにもいますよ」

 俺は手を伸ばして、マックスの背中からアクアを降ろしてやった。

「へえ、スライムってこんなんなのかい。話には聞くけど初めて見たよ。触って見ても良いかい?」

 恐る恐る手を伸ばすおばさんに、俺は笑ってスライムを触らせてやる。

「へえ、つるつるしてるんだね。思ったよりも可愛い。触らせてくれて有難うね」

 すぐに手を離したが、おばさんはとても良い笑顔だった。

 手を振ってくれる彼女に手を振り返して、俺はまたアクアをマックスの背中に戻して、順番に他の店を見て回った。


 目に付いた、葉物の野菜やジャガイモも追加で幾つか買っておく。

 ジェムモンスター狩りをする為に郊外へ出るのなら、食料は多めに確保しておかないとね。

 あ、それならさっきのバーガー、美味かったから、幾つか買ってサクラに持っててもらっても良いかも。作るのが面倒な時も有るだろうからね。うん、すぐに食べられる物を入れておくのも良い考えだ。

 広場へ戻って、さっきのバーガー屋でさっき食べたのと、ハンバーグっぽいのを挟んだのを10個ずつ包んでもらう。

「何処かへの差し入れだな。たくさん買ってくれて有難う。またよろしく!」

 大急ぎで頼んだ数を作って、綺麗な木箱に入れて渡してくれた。

「使い回しで申し訳ないけど、パンを入れてた箱だから綺麗だよ。潰れないようにこのまま持って行ってくれ」

 俺が渡した大きな風呂敷っぽい布で包んで渡してくれたので、マックスの背中に乗せて、アクアに支えててもらった。

 よしよし、出先でいつでも食えるファストフード、確保だぜ。


 それから、さっきのコーヒーの屋台で、豆をいくつか買った。

 豆のまま袋に入れて渡されたので聞いてみると、豆を挽く為の道具であるミルはここでは売っていないらしい。

「道具屋通りへ行けば、色々売ってるから探してみると良いぞ」

 おじさんに教えてもらって、次はその通りへ行ってみる事にした。



 広場から分かれた道を通って、教えてもらった通りへ出た。おお、楽しそうな店が並んでるよ。

 見つけた大きめのフライパンや鍋も買っておく。それからお皿も大きめのをいくつか購入。あ、食事用のカトラリーも買っておこう。

 途中、見つけた色んな物を買いながらミルを探す。


「あ、コーヒー道具の専門店発見!」


 見つけたのは、小さな店だが、所狭しとコーヒー関係の道具だけが並んでいる。

「こう言うこだわりの店って……好きなんだよなあ」

 思わず呟きながら、俺だけ中に入る。

 中にいた爺さんに見繕ってもらって、一人用のミルを買った。

 ミルって面倒臭そうで使った事無かったんだけど、爺さんの話を聞くうちに、手間をかける楽しみを知った。

 これはコーヒーを淹れるのが楽しみになりそうだ。



 道具屋通りを抜けた先には、職人通りと呼ばれる通りへ繋がっていた。うん、これはなんと言うか、正しい繋がり方っぽい気がする。


 何となく店を見ながら歩いていて、俺は一軒の店の前で立ち止まった。

 革工房とだけ書かれた看板は、見事な革細工で作られていて、店先には馬の鞍や大小の首輪も並べられていた。

「なあ、ニニ。赤い革の首輪、買ってやろうか?」

 マックスは以前していた首輪がそのままデカくなったのをしているけど、ニニがしているのは赤い紐を首に結んであるだけだ。


 実は、ジェムを買い取りした爺さんに言われたんだが、テイムした従魔の中でも、主人と離れて歩く大型の従魔には、誰が見ても従魔だと分かるように、首輪や足輪を付けるのが義務だとされているんだって。

 ファルコで、ギリギリしていなくても許される大きさらしい。

 ニニの首にしている紐を見て、応急ならそれで良いけど、出来ればしっかりした首輪を探せって言われたんだよ。

 ギルドの職員の爺さんが、わざわざ教えてくれた話だ。従っておくのが良いだろう。


「良いんですか? 赤が良いな」

 嬉しそうなニニの声に、俺は並んでる首輪を見てみた。

「うーん、どれもちょっと小さいな」

 サイズの合うのが無くて困っていると、中からこれまた背の低いおっさんが出て来た。

「なんだ? おいおい、まさか街中に魔獣かよ!」

 いきなり身構えてナイフを抜こうとするそのおっさんに、俺は慌てて両手を振ってマックスの前に立った。


「こいつらは!俺の、従魔です! 首輪を見に来たんだから、俺達はお客だぞー!」


 俺の大声に、そのおっさんは驚いたように俺を見て、それからマックスとニニを見た。それから俺の肩に留まってるファルコも。

「おお、噂になってる、例の魔獣使いかよ。本当にとんでもないな。どれだけデカい従魔達だよ」

 ナイフを降ろしてくれたので、俺とおっさんは、顔を見合わせて苦笑いした。


 毎回ここまで反応が同じだと、もうだんだん楽しみになって来たね。いつか絶対、こいつらがいるのが当たり前にしてやる!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 猫は赤を知覚できる色覚がないので、ニニが自ら「赤がいいな」と言うのは不自然に思います。 異世界で猫時代になかった色覚で赤を認識しているのは有りだと思いますので、「前の首輪と同じ色がいい…
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