森林エルフとのファーストコンタクト?
「うええ、すっげえ! 木がそのまま家になってる!」
目に飛び込んできた驚きの光景に、俺は思わず声を上げた。
何しろベリーが示した場所には他よりもさらに巨大な、まさに巨木が何本もあったのだが、その木々は他と違っていて樹高がとんでもなく高かった。
そしてはるか頭上まで、とんでもない太さの木の幹が真っ直ぐに伸びている。これはもう、縦にも横にもちょっとしたビルくらいはありそうな大きさだよ。
でもってその木の幹の側面には、所々に扉や窓と思しき枠があるんだよ。
そして、その扉の前には木製の渡り廊下や階段が作り付けられていて、更には木々の間にも細い釣り橋が渡されていて、地上に降りなくても木々の間を移動出来る仕様になっているんだよ。
俺は大丈夫だけど、高所恐怖症の人は上がれないかも。
「なあ、あれって、木の中に家があるって事だよな?」
一応、近くにいたベリーにそう尋ねる。
「ええ、そうですよ。森林エルフはその名の通り森と共に生きる種族です。その彼らの家がこうなるのはまあ当然でしょうね。住み心地もなかなかですよ」
何故か得意そうに笑ったベリーの言葉に、思わず考える。
「もしかして、ベリーの故郷もこんな感じ?」
「まさか。ケンタウロスの郷は、作りに若干の違いはありますが、基本的に石造りの建物と木で作られた建物です。見かけは人の子の街とさほど変わりませんよ」
「へえ、そうなんだ。ええと、それでどうするんだ。行ってこんにちはって言えば、入れてくれるのか?」
一応、ベリーだけでなく、ハスフェルとギイも彼らと面識があるみたいだから、実はこんにちはって言ってそのまま行けば抵抗なく受け入れてくれるような気もするんだけど、いいのだろうか?
「いいから行こう。私も彼らと直接会うのは久し振りだからね」
すると、さっきまでファルコの頭の上に座っていたシャムエル様が、一瞬で俺の右肩に移動してきてそう言いながらぺしぺしと俺の頬を叩いた。
「いいの?」
「大丈夫だよ。ってか多分、もう彼らはこっちに気が付いているよ。無関係な第三者が迂闊に近寄れば攻撃される場合もあるけど、こっちにはベリーがいるから大丈夫! ほら、あの手前右側の一番大きな木のところへ行ってくれるかな。舞台みたいな大きな場所があるでしょう? あそこになら降りられるからね」
シャムエル様に言われてよく見てみると、どう見ても一番巨大な木の側面に渡り廊下をぐっと広くしたみたいな、ちょっとした舞台くらいはありそうな場所があった。
板張りなので、恐らくあの下は足場の木ががっつりと組み合わされているんだろう。
「従魔達が降りても大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。安心して降りてちょうだい!」
何故かドヤ顔シャムエル様にそう言われて、俺はファルコの首をそっと叩いた。
「あの舞台みたいな場所に降りていいんだって。出来るか?」
「あそこですね。もちろん。ではちょっと揺れますのでしっかりと掴まっていてくださいね」
樹上を旋回していたファルコが下を見ながらそう言い、軽く羽ばたく。
そのままぐっと下降していき、巨木の側面に作られた広い場所に降りていった。
それを見てベリーも俺に続き、ハスフェル達も続いて降りてきた。
ふわりと降り立ち、伏せてくれたので急いで背から飛び降りる。
シャムエル様はまだ俺の右肩に座ったままだ。
その時、巨木の扉がゆっくりと開き、進み出て来た人を見て俺は声を上げそうになるのを必死で堪えた。
ハイエルフ、キタ〜〜〜〜!
そう。そこにいたのはどこから見てもファンタジーの定番、長命種族の代表格、ハイエルフだったんだよ。
やや面長で彫りの深い顔立ちと長い髪はやや薄い金色。背もかなり高いしめっちゃイケメン。
恐らく男性なんだろうけど、体格は俺より細そうだ。でも華奢な感じは全くしないから、多分、細マッチョ系。
耳はリナさん達よりももっと細長く尖っていて、いかにもエルフ耳って感じだ。
着ている服も俺達とは全く違っていて、これなんて言うんだっけ? 確か、ローブとかそんな名前だった気がする。
全体に流れるようなシルエットで、裾は足の先がちょっと見えるくらいに長い。
艶のある生地は、おそらく絹とかそんな感じだろう。多分。
「おやおや、精霊達が何やら騒いでいたので何事かと思って出て来てみれば……これはどういう組み合わせなのでしょうか?」
切れ長の目をやや細めて俺達を見て、それから俺達が連れている従魔達も一通り見たその人物は、明らかに不審そうにそう言った。
「サイプレス、久し振りだね」
俺の右肩に座ったまま、シャムエル様が出てきた森林エルフに平然とそう話しかける。
一瞬眉を寄せたそのサイプレスと呼ばれた森林エルフは、無言で俺の右肩にいるシャムエル様を見てから俺を見て、もう一回シャムエル様を見てから俺を見た。
「ん?」
首を傾げて小さな声でそう言ったサイプレスさんは、もう一度シャムエル様を見てから俺を見て、またシャムエル様に視線を戻した。
二度見どころか三度見。四度見。
「まさかとは思うが……その声、その気配……そこにいるパルウム・スキウルスは、もしやシャムエル様ですか?」
「そうだよ〜」
思いっきり不審そうにそう聞かれて、頬をぷっくらさせたシャムエル様が得意そうにそう答える。
「ブフォ!」
「やった〜〜〜! サプライズ成功だね!」
イケメンにあるまじき音を立てて吹き出して崩れ落ちた彼を見て、何故かシャムエル様はそう言って大喜びしていたのだった。
そして、それを見ていたハスフェルとギイまでが、何故か大喜びで手を叩き合って大笑いしていたのだった。
あの、ちょっと待って。これ、どういう状況?