北方大森林
「うおお、これは相当深い森だな」
転移の扉から出ていつもの急な階段を上がって地上に出た俺は、思わずそう呟いて周囲を見回した。
とりあえず、目に入ってくるのはほぼ緑と茶色の二色と空の青さのみ。
なんだか目が良くなりそうな光景だったよ。
今回の転移の扉があった場所は何やら古くて大きな祠のような石造りの建物で、正面にあった金属製の巨大な扉をハスフェルとギイが二人がかりで開いてくれた。これ、俺だけだったら絶対開けられないと思うぞ。
それで出てみたら、もう周囲は見事なまでに緑一色。しかも、めっちゃ巨大な木が祠の周囲を覆い尽くしていたんだよ。俺の知識で言うなら屋久杉とか縄文杉とか、そのレベルの木がゴロゴロある。
「北方大森林は、その名の通りとても大きくて古い森で、当然そこにある木々も樹齢千年を超える木がたくさんあるんだ。特にこの辺りの深部にある木はどれも相当古いものだよ」
マックスの頭に座ったシャムエル様が得意そうにそう教えてくれる。
「おお、やっぱりそうなんだ。それで、その森林エルフの集落がある場所までどうやって行くんだ?」
一応、祠の周囲は草地になっていて膝丈くらいの稲科の雑草が生い茂っているんだけど、そこから先はもう鬱蒼とした森で、足元はちょっとマックス達でも無理だと思えるくらいに隙間なく蔓やイバラが生い茂りまくっている。
「俺達には翼を持った従魔達がいるじゃないか。とりあえず鳥の従魔達に巨大化して、手分けして乗せてもらえばいい」
「ああ、そうか。空から行けばどんな場所でも楽に行けるな。ええと、じゃあまたお願いしてもいいかな?」
左肩に留まったファルコを見ながらそうお願いすると、目を細めたファルコが頷き、羽ばたいて草地に降り一気に巨大化した。
それを見て、他の子達も一気に巨大化する。
「じゃあ、手分けして乗せてもらってくれ。スライム達は落ちないように確保をお願いするよ」
「はあい、もちろんしっかり確保しま〜〜す!」
いつもの定位置、ファルコの首に跨ってそうお願いすると、ビヨンと伸びたスライム達が口々にそう言ってくれた。
俺には分かるぞ。あれはドヤ顔だ。
「では参りましょう。こっちですよ」
姿を現したベリーがちょっと得意そうにそう言って、軽々と地面を蹴って空中に飛び上がっていった。
どういう仕組みなのかは分からないけど、あれがベリーの飛行術だ。
フランマとカリディアも同じように姿を現してその後ろを一緒に飛んでいる。あの子達も飛行術を使えるみたいだ。
それを見て、それぞれ背中に皆を乗せたお空部隊の子達が一斉に羽ばたいて舞い上がった。
ファルコの首に跨って座っている俺の背後には、マックスとニニがいつものように並んで座っていて、マニとカッツェはローザとブランが、ビアンカはネージュがそれぞれ乗せてくれている。
小さくなれるジェムモンスターの従魔達とは違い、大きさを変えられない魔獣の従魔達は分けて乗らないとお空部隊の子達の負担が大きいからな。
他の子達は、最小サイズになって分かれて乗っているよ。
「ファルコは重くないか? マックスとニニの両方を乗せるとかなりの重さになると思うけど、大丈夫か?」
無理させていないのか不意に心配になってそう尋ねると、顔だけこっちを向いたファルコは得意そうに笑って目を細めた。
「私の翼は大きいですからね。これくらいなんでもありませんよ。まあ、さすがに一番大きくなったセーブルをそのまま乗せろと言われたら、ちょっと頑張らないと駄目でしょうけれどね」
「うええ、あれは無理だろう……待って、今の言い方だと頑張れば乗せられるのか?」
思わず一番巨大化した時のセーブルの大きさを思い出してそう尋ねると、振り返ったファルコがドヤ顔になる。
「地上からあの大きさを乗せて飛び立つのはちょっと無理でしょうが、飛び立つ際に例えば高台のような高い所から飛び降りるようなやり方をすれば大丈夫ですよ。一度空に上がってしまえばあとは何とでもなります」
ムフって感じに頬を膨らませて得意そうに笑うファルコの言葉を聞いて、猛禽類の強さを再確認した俺だったよ。
「うわあ、本当に一面緑一色だな。これは綺麗だ」
眼下はまさしく緑の絨毯。時折草地や水場も見えるが、これはどう見てもそう簡単には地上からは入ってこられないだろう。
「ここに来るのは久しぶりですが、すっかり元に戻ったようですね。水も風も穏やかです。ううん素晴らしい」
俺の乗るファルコのすぐ横を飛んでいたベリーが、嬉しそうにそう言って深呼吸をしている。
「ええと、もしかして例の地脈が乱れてたあの時って、ここも被害を受けていたのか?」
単なる植物なら関係ない気がするんだけど、ベリーの言葉を考えてそう尋ねる。
「そうですね。この森は地脈の流れとは無関係ではありませんからね。世界に必要なマナを放出し続けたせいで、この森も相当な被害を受けたと聞いています。ですが、こうして見る限りすっかり回復しているようで安心しました」
嬉しそうなベリーの説明を聞いて、しばらく考えた俺は理解する事を諦めて全部まとめて明後日の方向へ投げ飛ばしておいたのだった。
うん、とりあえず回復したのならそれでいいよな。
「ああ、見えてきましたね。ほらあそこです」
その時、ベリーの嬉しそうな声が聞こえて俺は慌ててベリーが指差す方向を見た。
「うええ、すっげえ! 木がそのまま家になってる!」
目に飛び込んできたその光景に、俺は驚きの声を上げたのだった。
 




