転移の扉
「この世界で唯一の、森林エルフの集落がある場所です。この世界の救世主である貴方なら。彼らは間違いなく大歓迎してくれますからね」
にっこりと笑ったベリーの言葉に、俺達が揃って驚きの声を上げる。
「森林エルフか。俺達も久しく会っていないな」
「確かに、最後に会ったのはいつだったかな?」
苦笑いしたハスフェルの言葉に、ギイも笑いながらそう言って腕を組んでいる。
「お二方は彼らと面識があるのですね。ケンはどうですか? 彼らと繋がりを持っておくのは良い事ですよ」
森林エルフって、話を聞く限りファンタジーの話とかに出てくるハイエルフみたいな感じかな?
「ええと、もしかして、めっちゃ長寿だったりする?」
「そうですね。草原エルフよりもはるかに寿命は長いですよ。我らケンタウロスにとっても、良き隣人です」
「へえ、そうなんだ。ええと、どうする?」
ちょっと興味はあるんだけど、気難しい人達だったりすると困るので、森林エルフを知っているらしいハスフェル達に聞いてみる。
「俺達はどちらでも構わないが、確かにケンを彼らに紹介しておくのは良い事かもしれんな」
「確かに。万一何かあった際に、間違いなく強力な味方になってくれるだろうからな」
「それなら、俺も挨拶くらいはしておきたいものだな。彼らの作る細工物の繊細さは、他の比ではない故な」
ハスフェルとギイの言葉に続き、笑顔のオンハルトの爺さんもそう言って頷いている。
俺もうっかり頷きそうになったところで、慌ててギイの腕を引っ張る。
「ちょっと待った〜〜! 万一何かあったらって何! その万一を詳しく!」
「そこは気にするな。万一だよ、万一」
「だからそれはめっちゃ気になるところだってば〜〜!」
俺の割と本気の叫び声に、何故か三人だけでなくベリー達まで揃って吹き出していた。解せぬ!
って事で、目的地の決まった俺達はそのまま移動して、カルーシュの街の近くにある転移の扉へやって来た。
「ええと、北方大森林には転移の扉が二つあるみたいだけど、どっちへ行くんだ?」
どう見ても懐かしいエレベーターホールな場所に立って広げた地図を見ながらそう尋ねると、笑ったベリーが23と書かれた場所をそっと指差した。
「森林エルフの集落がある場所に近いのはこの23番の転移の扉です。こっちの22番の転移の扉は、私の故郷であるケンタウロスの郷に近い場所になります」
「ええと、せっかくなんだしベリーも故郷に顔くらい出して行くか?」
バイゼンで会ったあの北海道のばんえい馬くらいにデカくて、ハスフェル達並みに筋骨隆々だった眼光鋭いケンタウロスの長老を思い出しつつそう言うと、ベリーは嫌そうに首を振った。
「今帰ったら、間違い無くここで私の旅は終わります。そんなの絶対に嫌ですから絶対に帰りません。それとも、ケンの旅に私はもう必要ありませんか?」
若干拗ねたようなその言葉の意味が頭の中に入るまで少々時間がかかった。
「うええ。マジ?」
「はい、マジです。ですので里帰りは絶対にお断りします」
「それでお願いします! 俺も、もっとベリーと一緒に旅をしたいです!」
何やら告白のような物言いになったけど、ベリーは安堵したように笑って何度も頷いてくれた。
「ありがとうございます。私もまだまだ一緒に旅がしたいですからね。改めましてよろしくお願いします」
「ああ、改めてよろしく! ええと、じゃあ行くのはこの23番だな」
慌てたようにそう言い、エレベーターの呼び出しボタンを押す。
チン!
懐かしい音と共にどこから見てもエレベーターの扉が開く。
「うわあ、ラッシュアワー並みにぎゅうぎゅうだな」
とにかく小さくなれる子達には最小サイズまで小さくなってもらい、俺はマックスの上に、ハスフェルはシリウスの上に乗り、ギイとオンハルトの爺さんはニニとカッツェの上に乗ってもらったんだけど、もうほとんど隙間がないくらいにいっぱいだ。
それを見て笑ったベリー達は、なんと飛行術の応用で狭い空間内だけど空中に浮かんでくれた。そのおかげで、なんとか全員無事に乗り込む事が出来たのだった。
「なあ、これって別に、二回や三回に分けて乗って移動すればいいんじゃあないのか?」
ゆっくりと閉まる扉を見ながら不意に思いついてそう尋ねると、マックスの頭の上にカリディアと並んで座っていたシャムエル様が、チラリと俺を見てから困ったように笑って首を振った。
「一つの団体は出来るだけ一緒に、まとめて一度に移動して欲しいんだよね。実はこの転移の扉って、若干だけど到着した際に出発点と到着点の時間軸がズレる事があるんだ。一度に移動すれば到着した時に自動的に修正されるんだけど、時間をおいて分けて移動したら修正が上手くいかない可能性があるんだよね」
「ええと、その修正が上手くいかなかったらどうなるんだ?」
若干嫌な予感がしてそう尋ねると、俺を見たシャムエル様はもふもふの尻尾を抱きしめながら明らかに俺から目を逸らした。
「まあ、もしも時間軸がずれちゃった状態でうっかり外に出たら、もう同一の時間軸に戻すのは至難の業だからね。その場合は生き別れ状態になっちゃいかねないの。分かった?」
何故か最後はドヤ顔でそう言われて、そんな恐ろしい事態を考えて真っ青になって何度も頷いた俺だったよ。
うん、何があろうともこのエレベーターもどきには絶対に全員一緒に乗ろう!
心の中で拳を握って決心した俺だったよ。
2025年3月14日、アース・スターノベル様より発売となりました「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」第十巻の表紙です。
ついにもふむくも二桁の大台に突入です!
改めまして、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
今回も引き続き、れんた様が表紙と挿絵を最高に素敵に可愛らしく描いてくださいました。
連載開始当初からの目的地であったバイゼンに、ようやくの到着です!
到着早々色々と騒ぎが起こります。
そして貴重な女性キャラも登場しますよ!
その貴重な女性キャラを描いた今回の口絵も大爆笑させていただきましたので、どうぞお楽しみに!
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」
コミックアース・スター様にて、コミックス第四巻が2025年3月12日に発売となりました!
もちろん今回も作画はエイタツ様。
ハスフェルに続きギイも、それからフランマもコミックスに登場です!
いつもながら最高に可愛いもふもふむくむく達と、美味しい食事!
そして、地下洞窟と恐竜達とテイム!
盛り沢山なもふむくコミックス第四巻を、どうぞよろしくお願いします!




