出発とこれからの事
「いやあ、本当に美味しかったです。ごちそうさまでした」
「突然来たのに、こんなに美味しいポトフを出していただけて心から感謝します。ごちそうさまでした」
「いや、本当に美味しかったですぞ。料理上手なネルケさんに心からの感謝を。ごちそうさまでした」
用意してくれたポトフを綺麗に平らげたハスフェル達が、口々にネルケさんに笑顔でお礼を言っている。
「本当に美味しかったです。ごちそうさまでした」
もちろん俺も、綺麗に平らげたお皿を見てから笑顔でごちそうさまを伝える。
「お口に合ったようで嬉しいです。あの、ケンさん。あとで台所まで来ていただけますか。用意していたソーセージをお渡ししたいので」
「ああ、ありがとうございます。あのソーセージは本当に美味しかったですから。あの、それならまた手持ちのジビエを色々とお渡ししますね。また種類が増えていますから収納袋ごとね」
にっこり笑って俺の鞄を見せながらそう言う。もちろん、岩豚のお肉もまだまだあるからがっつり置いておくよ。
実は、食事をしている間にサクラに頼んで、収納力二百倍で時間遅延も二百分の一の収納袋にいつものジビエ肉各種とお刺身用の短冊、それから別荘で作った燻製肉やスモークサーモンやチーズなんかを一通り入れておいてもらうように頼んでおいたんだよね。
なので食事の後のお茶までいただいたあと、俺はネルケさんとクーヘンも一緒に台所へ行き、ソーセージを貰った後に収納袋ごとお土産だと言って渡し、一応その際に、中に一通りのジビエ肉と一緒に俺が作った燻製も入っているから楽しんでねと言っておいた。
喜んで受け取ってくれたので、ここで改めて別れの挨拶をした。
もちろん、笑って拳をぶつけ合ってあのセリフを言ったよ。
「絆と共にあらん事を」ってね。
それから城門へ向かう途中にある冒険者ギルドにも顔を出して、エルさん達やすっかり顔馴染みになった冒険者達とも笑顔で挨拶を交わした。
すると何故か、俺達が出発するのだと聞きつけた街の人達が大勢駆けつけてきて、勢揃いで見送りされてしまい、何だか最後にはパレードみたいな大騒ぎになってしまい、俺のHPが駄々減りする事態になったのだった。
「ええ、もう俺は早駆け祭りの英雄じゃないと思うんだけどなあ」
ようやく到着した城門から街道に出たところでそう呟くと、ハスフェル達に呆れたように笑われてしまった。
「ええ、俺何か間違った事言ったか?」
驚いたようにそう言うと、もう一度揃って呆れたように笑われてしまったのだった。解せぬ!
結局、街道に入っても大騒ぎは続きそうな有様だったので、俺達は早々に街道から離れて一気に逃げるようにして駆け出したのだった。大歓声と拍手が聞こえて来て、大きなため息を吐いた俺だったよ。
「はあ、やっと静かになったな」
かなりの距離を走り、大きな森を抜けて広い草原に出たところでため息と共にそう呟いてマックスの足を止める。
「ところで、何処へ行くのか何も決めずに街から出てきたけど、この後ってどうするんだ?」
同じく足を止めたハスフェルを見ながらそう尋ねる。
「ああ、その事なんだが、実はベリーがある提案をしてくれてな」
にんまりと笑ったハスフェルの言葉に、ギイとオンハルトの爺さんも笑っている。
「ん? ベリーの提案? 何を言ったんだ?」
今は人目が無いので、ベリー達も姿を現して一緒にいるんだけど、驚いた俺の言葉にベリーがにっこりと笑って俺を見た。
「リナさん達と接していて、久し振りに私も会いたくなったのでハスフェルに提案したんです。よければ案内しますので私の故郷のある北方大森林へお越しになりませんか?」
「ベリーの故郷がある北方大森林って、確かバイゼンから東へ伸びる街道の北側にある場所だよな?」
手持ちの地図を引っ張り出して広げながら、そう言って記憶を頼りに地図を覗き込む。
鞄から出て来てくれたアクアとアルファが、大きく広げた地図を左右に分かれてしっかりとホールドしてくれる。
「おう、ありがとうな。ええと、ベリーの故郷があるのってその北方大森林のどの辺りなんだ?」
「私の故郷があるのはこの辺りなんですが、私が提案したのは故郷のある場所ではなく、こちら側です。おや、これは素晴らしい地図ですね」
側に来てくれたベリーが、俺の地図を見ながらある場所を指差しながらそう言い、途中で驚いたように地図を見直してから俺を見て、最後にマックスの頭の上に座っているシャムエル様を見てから苦笑いしたように頷いた。
「成る程。これはケン専用の特別製の地図という事ですね」
これは間違いなく、ベリーにはあの詳しい地図が見えているって事だな。
「まあ、ベリーには見えて当然だね。でも一応、口外しないでいてくれると嬉しいな。さすがにこの地図を量産するのは大変だからさ」
苦笑いするシャムエル様の言葉に、ベリーも苦笑いしている。
「もちろん言いふらすような事はしませんよ。ですが、出来れば同じものを後もう一つ作っていただけるととても嬉しいですね」
「分かった。じゃあ口止め料としてあとで作っておくね」
何故か最後はにっこりと笑い合っているのに、俺のあらぬところがヒュンってなったよ。何これ怖い!
「で、ベリーが提案してくれた場所には何があるんだい?」
必死で話を逸らしたくてそう言うと、俺を見たベリーが今度は普通に笑った。
「この世界で唯一の、森林エルフの集落がある場所です。この世界の救世主である貴方なら、彼らは間違い無く大歓迎してくれますからね」
にっこりと笑ったベリーの予想外の言葉に、俺だけでなくハスフェル達三人までが揃って驚きの声を上げたのだった。
2025年3月14日、アース・スターノベル様より発売となりました「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」第十巻の表紙です。
ついにもふむくも二桁の大台に突入です!
改めまして、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
今回も引き続き、れんた様が表紙と挿絵を最高に素敵に可愛らしく描いてくださいました。
連載開始当初からの目的地であったバイゼンに、ようやくの到着です!
到着早々色々と騒ぎが起こります。
そして貴重な女性キャラも登場しますよ!
その貴重な女性キャラを描いた今回の口絵も大爆笑させていただきましたので、どうぞお楽しみに!
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」
コミックアース・スター様にて、コミックス第四巻が2025年3月12日に発売となりました!
もちろん今回も作画はエイタツ様。
ハスフェルに続きギイも、それからフランマもコミックスに登場です!
いつもながら最高に可愛いもふもふむくむく達と、美味しい食事!
そして、地下洞窟と恐竜達とテイム!
盛り沢山なもふむくコミックス第四巻を、どうぞよろしくお願いします!