絆の共にあらん事を
「楽しかったな」
全員が建物の外に出たところでしっかりと鍵を閉めてから、改めて大きな建物を見上げて思わずそう呟く。
「そうですね。本当に楽しかったです。ケンさん、色々とお世話になりました。このご恩は一生忘れません」
真顔のレニスさんの言葉に皆も頷き、今回の早駆け祭りで知り合った新人さん達と俺は順番に顔を見合わせて笑い合った。
それから、改めてリナさん一家を見る。
「元気でな。じゃあ、次に会うのは夏の早駆け祭りかな?」
「そうですね。夏までなんてすぐですよ」
ちょっと涙目になった俺を見て、笑ったリナさんがそう言ってくれる。
「そうですね。では、前回のバイゼンでの旅立ちの時には言えなかったので、俺達流の別れの言葉をここで言わせていただきます。ほら、拳を握ってくれるか」
もうあふれてくる涙を隠そうともせずにそう言った俺は、それでも笑ってしっかりと握った拳をそっと突き出した。
「絆の共にあらん事を」
一息にそう言って、すぐ側にいたアーケル君と拳を突き合わせる。
「絆の共にあらん事を」
笑ったハスフェル達も、同じく少し改まった口調でそう言いながら拳を突き出す。
目を見開いたアーケル君を先頭に、俺達はリナさん一家とムジカ君達三人とそれぞれ拳をぶつけ合う。
そして少し照れたみたいに笑って、それぞれの従魔に飛び乗って一気に駆け出したのだった。
坂道を降りた先の大きな正門の鍵もしっかりと閉めてから、城門へ向かうリナさん一家や新人コンビ、そしてレニスさんとは別れた俺達は、そのまま街へと向かった。
せっかくなので、バッカスさんのお店にも顔を出して別れの挨拶をしてから、改めてランドルさんやボルヴィスさんとアルクスさんマールとリンピオとも笑って拳をぶつけ合った。
「絆の共にあらん事を」
「良い言葉ですね。絆の共にあらん事を」
それぞれに笑って拳をぶつけ合った俺達は、そのままクーヘンの店へ向かった。
「また四人になっちゃったよ。あ、シャムエル様もいるから五人だな。それからベリー達三人も一緒だ」
マックスの頭の上に座っていたシャムエル様が何か言うよりも早く慌ててそう言い、少し離れたところに見える大小の揺らぎを見て笑った俺はそう付け足す。
『そうですね。改めてこれからもよろしくお願いしますね。こんな楽しい旅、すぐに終わらせるつもりはありませんから』
妙に嬉しそうなベリーの念話が届き、俺はハスフェルと顔を見合わせて揃って吹き出したのだった。
「おお、いつもながら大盛況だな」
到着したクーヘンの店は、いつもと同じように行列が出来ている。そして、店の前まで来てそれぞれの騎獣から降りた俺達を見て、行列していた人達が慌てたように前に並ぶ人に伝言ゲームを始め、しばらくして店からクーヘンが飛び出してきた。
自動呼び出し機能は健在だったみたいだ。
「おはようございます! おや、四人だけですか……? あの、もしかしてもう出発なさるのですか?」
俺達だけになっているのを見たクーヘンが、驚いたようにそう言って周囲を見回す。
「うん、リナさん達とムジカ君達はもう出発したよ。王都へ行くんだって。ランドルさん達とは、バッカスさんのお店で分かれてきた。俺達ももう出発しようと思うんだけど、その前に飛び地で色々と集めてきたから、もう少し珍しいジェムや装飾品用の素材を置いてこようかと思ってさ」
「ああ、それは有り難いですね。もちろんお願いします! 今兄さんを呼んできますので、とにかく中へどうぞ」
「そうだな。じゃあ、マックス達はまた厩舎で待っていてくれるか」
笑ってそう言い、手綱を引いてそのまま厩舎へ向かう。
入りきらない子達には裏庭で待っていてもらい、ハスフェル達と一緒に裏口から店に入って行った。
急いできてくれたルーカスさんと一緒に地下の鍵を開けてもらい、俺達は飛び地で集めた昆虫系のジェムをガンガンと取り出してはリストに書き込み、高価格帯の物は五万倍の引き出しへ、低価格帯の物は追加で取り出した収納袋に入れて壁面に作られた棚に押し込んでいったのだった。
「お疲れ様です。昼食の用意が出来ていますから、ぜひ食べてから行ってください」
午前中いっぱいかけてもう大丈夫だろうと思えるまでたっぷりと用意した俺達は、もうそのまま出ていくつもりだったんだけど、笑顔のネルケさんにそう言われて思わず顔を見合わした。
案内された部屋には、俺達の為の人間サイズのテーブルと椅子が用意されていて、そこには大鍋いっぱいのあのポトフが用意されていたのだ。
もちろん、焼きたてのパンやサラダもたっぷりと用意されている。
「うわあ、これは嬉しい。ありがとうございます」
笑顔で席についた俺達に、ネルケさんが大きなお皿たっぷりとポトフをよそってくれた。
「たくさん作りましたから、遠慮なく食べてくださいね。それから、少しですがまたソーセージを作りましたので、ぜひ持って行ってください」
にっこり笑ったネルケさんにそう言われてお礼を言った俺達は、交代で休憩に入ったクーヘンとネルケさんと一緒にまずはポトフをいただいた。
よし、あとでソーセージと交換で各種ジビエ肉や燻製肉を色々と置いてこよう。時間遅延の収納袋ならまだまだ大量にあるからね。
熱々のポトフをいただきながら、そんな事を考えて笑顔になる俺だったよ。
はあ、それにしてもこのポトフ、マジで超美味しい!




