街への帰還と冒険者ギルドでの一幕
「おお、街が見えてきたな。どうする? このままギルドへ行って、新人さん達の分だけでも買い取りしてもらうか?」
俺達の分は、別に急がないしいつでも構わないんだけど、新人さん達の分は手持ちの収納袋いっぱいにまで大量にあるんだから、ここは少しでも買い取りしてもらうべきだよな。
ちなみに、ヘラクレスオオカブトの素材もそれなりの数で集まっているし、他にも滅多に手に入らない昆虫系の素材がたくさん集まっているので、彼らの持つ素材に関してはオンハルトの爺さんがそれぞれ一緒に確認してくれて、今すぐでなくても今後の為に残した方がいい物を一通りチェックしてくれたんだって。
なので、彼らは手持ちに残す分はもう別にしてあるらしい。
「ヘラクレスオオカブトの剣は確かに憧れですが、さすがに今の自分では分不相応だって事くらいはわかります。なので、オンハルトさんに教えていただいた残した方が良い素材は、今はまとめてギルドに預けておく事にします」
「もう大丈夫だって思えたら、その時にはバッカスさんのところで剣を打ってもらいます」
ムジカ君とシェルタン君の言葉に、マールとリンピオも苦笑いしつつ頷いている。
「じゃあ、街へ戻ったら先に冒険者ギルドへ行くか。それで買い取りして欲しい人はそのままお願いすればいいし、それこそ王都へ行って、そっちの冒険者ギルドで売ったら絶対に高額買い取りしてもらえるだろうから、急がないならそれでもいいと思うぞ」
「そうですね。俺達は残す分以外は全部買い取りしてもらうつもりです」
笑ったハスフェルの言葉に、マールとリンピオがそう言って笑っている。
ボルヴィスさん達も残す分以外は全部売るみたいだし、ランドルさんは、バッカスさんと相談してから売る分を決めるみたいなので今回はパスするらしい。
「ええと……」
このあとリナさん達と一緒に王都へ行く予定のムジカ君とシェルタン君、それからレニスさんが慌てて顔を寄せて相談を始めた。
「じゃあ、俺達は王都へ行ってから売る事にします」
「それで、もう手持ちの収納袋が全部いっぱいなので、少しだけ追加で収納袋を購入します」
どうやら王都へ行く組は、買取は向こうでするらしい。まあ、高く売れるとわかっているのなら、そっちにするのが正解だよな。
「ああ、それなら手持ちの収納袋をまた身内販売してあげるよ」
笑った俺の言葉に新人さん達が慌てている。
「山ほどあるから遠慮しなくていいって」
だって、俺のスライム達の収納力は無限大だし、俺自身の収納力も相当の量になっているみたいだからね。それに、五万倍の収納力を誇る小物入れがあれば、他は正直言って俺には必要ないんだよ。
「い、良いんですか?」
「そんな甘えてばかりで……」
戸惑う彼らに、俺は笑ってサムズアップをして見せた。
「そこは遠慮しなくていいって。気になるなら、君達がもっと強くなった時に、新人さん達に返してくれればいいよ。以前も言ったけど、恩の順送りだって」
「ありがとうございます!」
目を輝かせる新人さん達の言葉に、俺は笑顔でもう一度サムズアップをして見せたのだった。
「おお、街道が見えてきたぞ」
「ここまで来ると、戻ってきたんだって気分になるな」
街道と並行して走りながら、新人さん達が楽しそうに話をしている。
「じゃあ、とりあえずこのまま冒険者ギルドへ行って、買い取りと収納袋の身内販売だな。でもってそれが終われば別荘に戻ってのんびり風呂に入るぞ!」
「俺達も風呂に入りたいです〜〜!」
全員の声が重なり、大爆笑になったのだった。
よしよし、風呂好き仲間が増えて俺は嬉しいよ。
「おやおや、団体でのお帰りだね」
ちょうどカウンターにいたエルさんが、俺達を見て笑顔で手を振ってくれる。
「あの、またたくさんジェムと素材が手に入ったので、買い取りをお願いします」
収納袋を見せたマールの言葉にリンピオとボルヴィスさん達も笑顔で収納袋を見せる。
「もちろん喜んで査定するよ。では、買い取り希望の方は、どうぞこちらへ!」
目を輝かせたエルさんの言葉に、買い取り希望の人達が奥の部屋に通されていく。
「じゃあ、俺達はあっちで待つか」
いつもの壁面にあるテーブルは、まだ早い時間だったためにいくつも空きがある。
気配りの出来る男アーケル君達が、先に人数分の席を確保していてくれていたので、俺達もそっちへ行ってとりあえず座る。即座にテーブルの上にお酒の瓶が並ぶのを見て吹き出した俺は間違っていないよな。
「なあ、ケン。ちょっといいか?」
その時、隣に座ったハスフェルが俺の腕を軽く突っつきながらそう言って俺の従魔達を見た。
「今気がついたんだけど、前回カルーシュ山脈の奥地から戻ってきた後に、新しくテイムした従魔の登録って……誰もしていないんじゃあないか?」
その言葉に俺は、ちょうど膝の上にいた猫サイズのサーベルタイガーのファングを見た。
それから、新人さん達のメタルスライムも。
「あ……確かにやってない」
「じゃあ、今のうちに登録してこい。お前らもだ」
「は、はい!」
アーケル君達と一緒に、今まさに飲もうとしていたグラスを置いた新人さん達が、俺達の会話を聞いて慌てて立ち上がる。
「確かにすっかり忘れていました!」
「すみません。従魔登録をお願いします!」
慌ててカウンターに駆け寄る彼らの後ろから、俺も従魔登録の用紙をもらいファングの名前を書き込んだのだった。
危ない危ない。別に登録しなくても罰則があるわけじゃあないけど、登録しないまま何か問題が起きたりすると大変らしいからな。
登録用紙と一緒に手持ちの小銭入れからお金を取り出した俺は、苦笑いしつつご機嫌で喉を鳴らすファングをそっと撫でてやったのだった。
これ、登録用紙を書いていて今更ながら気がついたんだけど、クーヘンのところの従魔とまた名前が被ってるよ。
まあ、別に間違う事はないからいいんだけどさ。