料理講習会!
「おはようございます!」
ドワーフの皆さん達も起きてきたらしく、あちこちから賑やかな話し声や、突然現れた大きな噴水付きの泉に驚く声、それからリナさん達の笑い声と共に、この水場は皆様方もどうぞお好きに使ってくださいという声も聞こえてきた。
その後、またしてもドワーフさん達によるお礼の嵐になっていて、ちょっと笑っちゃったよ。
水の術を使える人だって絶対いるだろうに、ドワーフの皆さんは何というか頭が硬いみたいで、郊外での野営はこうあるもの。みたいな思い込みがあるらしく、そもそもこんなふうに水を呼んで泉を作るなんて発想自体が無かったらしい。
「おはようございます」
そして、水場の側にいた俺に気付いたドワーフさん達にこれまた満面の笑みで挨拶され、苦笑いしつつ順番に全員と挨拶をする羽目になったのだった。
「じゃあ、朝食もご一緒しましょう。美味しい食事の作り方の説明をしますからしっかり聞いてくださいね!」
挨拶の嵐が収まったところで大きな声でそう言うと、ドワーフさん達が揃って驚いたように俺を振り返った。
「昨日、食料を入れている収納袋を一通り確認させてもらいました。皆さんお気付きじゃあなかったみたいですが、ここにはそのまま食べられる燻製肉の塊や、焼くだけで食べられるソーセージやいろんなお肉がたくさん入っていたんですよね。なので、ちょっとだけ料理講習させていただきますから聞いてくださいね〜〜!」
いくら俺でもこれだけの人数を毎食面倒は見られない。なので、ここは自分達の健康の為にも自分達で出来るところは自分達で頑張ってもらおう作戦だ!
「いや、しかし俺達に料理なんて……」
「そうですよ。郊外でそもそもそんな贅沢は……」
戸惑うように口々にそう言うドワーフさん達を見て、ハスフェル達やリナさん達、それから新人さん達までが揃って首を振った。
「美味しい食事は、思っている以上に皆の体調を整えたり、精神的に良い影響を与えますよ。俺達はもう、緊急事態以外であんなまずい携帯食や干し肉なんて食べたいと思いませんから!」
拳を握って力説するアーケル君。
「悪い事言わないから、本気でケンの説明を聞け。これは絶対必要な知識だから!」
そして真顔で断言するハスフェル。
戸惑いつつ揃ってこっちを見るドワーフさん達に向かってにっこりと笑った俺は、そこに転がってた昨日返した食料の入った収納袋を手にした。
「ええと、パンってどんなのが入っているんですか? 入っている種類を教えてください」
そっちは確認していなかったのを思い出して慌ててそう尋ねる。
「は、はい! これになります! 入っている種類はええと……」
近くにいたディートヘルムさんが慌てたようにそう言いながら、転がっていた大きな収納袋を手にした。
そして、若干困ったようにしながら色々な種類のパンを取り出してくれた。
俺がいつもお世話になっている三斤分の切っていない食パンをはじめ、丸パンやクロワッサン。フランスパンや柔らかいコッペパン等々、相当な種類のパンがこれまたとんでもない数で入っていた。
それ以外にも、木の曲げわっぱみたいなのに入った炊いた大量のご飯と、炊く前のお米がこれまた大量に入っていたよ。
「じゃあ、まずは朝食ですね」
にっこりと笑った俺は、そのまま食べられる燻製肉の塊を取り出し、持っていたナイフでまずは分厚めに切り分けて見せる。
「例えばこれをマヨネーズを塗ったパンに挟むだけでも一品出来ます。ほら、やってみてください」
近くにいたディートヘルムさんとその横にいたドワーフさんを捕まえ、とりあえず一番使いやすそうな丸パンを渡して、ナイフを使った切り込みの入れ方を説明して、それぞれマヨネーズを塗ってから燻製肉を挟ませる。
「更にここにトマトの切ったのと葉物の野菜を入れれば、それだけで栄養バランスがぐっと良くなります。目玉焼きを入れたりチーズを入れても良いですね」
にっこり笑って、これまた取り出したトマトをナイフで輪切りにしてから、先ほど見本に俺が作った燻製肉を挟んだだけの丸パンにレタスとトマトを入れ直して見せる。うん、シンプルハンバーガー風になった。
大きなどよめきがドワーフさん達の間から起こった。いやいや、これくらいで感心されても俺が困るって。
「そうか。こうやって具材をパンで挟むだけでも良いのか!」
「確かにこれなら俺達でも出来るな!」
嬉々として頷き合うドワーフさん達を見てちょっと遠い目になった俺だったよ。あなた達普段からどれだけ自分で料理しないんだって。
「それから、こんな風にしてフライパンでソーセージを焼くのも良いですよ」
そう言って、取り出した簡易コンロとフライパン。もちろんこれも収納袋に入っていたドワーフさん達の物だ。
直径3センチ越えで長さが20センチくらいはある大きなソーセージを、とりあえず入るだけフライパンに並べて焼いていく。
すると何人かのドワーフさんがこっちに駆け寄ってきて、真顔で俺の手元をガン見し始めた。
ソーセージを焼いている間に、ゆで卵を刻んで作るマヨタマゴの作り方や、スクランブルエッグの作り方も教える。その際に、そこに刻んだベーコンや細かく切ったソーセージ、それから刻んだ玉ねぎやにんじんを入れるとアレンジが出来ることも教えておく。
真顔の何人かが必死になってメモを取るのを見て、黙って例のレシピノートをそっと差し出した俺だったよ。
そしてその日の朝食は、俺達はいつも通りに作り置きのサンドイッチや惣菜パンなんかで美味しくいただいたんだけど、ドワーフの皆さん達は、即席バーガーを作る人、マヨタマゴを量産して一緒にタマゴサンドを量産するグループ、自力でソーセージを焼いてホットドッグを作る人達など、嬉々として調理を始め、まずは簡単なサンドイッチ系くらいはほぼ全員が作れるようになったのだった。
さすがは元々器用なドワーフさん達。
自分達には料理は出来ないという頑なな思い込み部分を取り除いてやれば、案外大丈夫そうだ。
この調子なら、数回講習すればほぼ全員が最低限の料理スキルは得られそうで、密かに安心した俺だったよ。
2025年3月14日、アース・スターノベル様より発売となりました「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」第十巻の表紙です。
ついにもふむくも二桁の大台に突入です!
改めまして、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
今回も引き続き、れんた様が表紙と挿絵を最高に素敵に可愛らしく描いてくださいました。
連載開始当初からの目的地であったバイゼンに、ようやくの到着です!
到着早々色々と騒ぎが起こります。
そして貴重な女性キャラも登場しますよ!
その貴重な女性キャラを描いた今回の口絵も大爆笑させていただきましたので、どうぞお楽しみに!
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」
コミックアース・スター様にて、コミックス第四巻が2025年3月12日に発売となりました!
もちろん今回も作画はエイタツ様。
ハスフェルに続きギイも、それからフランマもコミックスに登場です!
いつもながら最高に可愛いもふもふむくむく達と、美味しい食事!
そして、地下洞窟と恐竜達とテイム!
盛り沢山なもふむくコミックス第四巻を、どうぞよろしくお願いします!




