燻製肉最高〜〜〜!
「ただいま戻りました。あれ、皆さんお揃いなんですね」
日が暮れ始めた頃に新人さん達五人が戻って来た。その少し前にランドルさん達三人も戻って来ていたので、これで全員集合だ。
「おや、いつもより少し早いですけど、もう夕食ですか?」
リビングに集まっている仲間達プラスマーサさんまでいるのを見て、揃って戻って来た五人が少し驚いたようにそう言って部屋を見回す。
何しろ、リビングのテーブルの上には、待ってましたと言わんばかりにすでに夕食準備がされていたんだからさ。
もちろん壁面に取り出されたテーブルには、ハスフェル達が出したワインやウイスキーなどをはじめ、バイゼンの地ビールや例のラベルのビールもたくさん並んでいるし、足元に置かれた大きな木桶には大量の氷と共に、各種ビールがしっかりと冷やされているよ。
「今日はずっと座学だったので、実はかなりお腹が空いていたから嬉しいです!」
シェルタン君の無邪気な言葉に、ムジカ君達も苦笑いしている。
「確かに頭を使うと腹が減るよな」
笑った俺の言葉に、新人さん達が揃って吹き出していた。
笑顔の全員がいそいそといつもの席に座るのを見て、俺は例の燻製肉を取り出して見せてやった。
「うええ、それ何ですか?」
「ああ、それって燻製肉! って事はもしかして、岩豚の肉で作ったりしました?」
「うわあ、岩豚の肉で燻製とか、絶対美味いやつ!」
不思議そうなムジカ君の言葉の直後、マールとリンピオが揃って叫ぶ。
さすがは元貴族、なんだかんだ言っていいもの食っていたみたいだ。
「ふふふ、その通りで〜〜す! オンハルトの爺さんの友人からレシピを貰っていてね、こっそり仕込んでおいた肉で燻製を作ったんだ。他にはチーズやゆで卵も作ってみたよ。皆が気に入ってくれれば、次は釣った魚や他の肉でも作ってみようかと思ってさ」
「ぜひお願いします!」
綺麗に全員の声が重なる。
笑った俺は、とりあえず取り出した巨大ベーコンをマイナイフで分厚く切り分け、取り出して並べた簡易コンロの上に置いたフライパンに順番に並べて焼き始めた。
それを見た全員の口から、歓喜の大歓声と歓喜の悲鳴が上がったのは言うまでもない。
「うああ、もう美味しいしか言葉が出ない!」
大感激したアーケル君達が食べているのは、焼いた分厚い岩豚ベーコンをマヨネーズを塗ったパンに挟んだだけのシンプルサンドイッチだ。
「ケンさん、この燻製肉の豚丼最高です!」
キラッキラに目を輝かせながらそう言うランドルさんとオンハルトの爺さんが揃って食べているのは、今まさに仕上がったばかりの豚丼だ。
要するに、熱々の白ご飯の上に岩塩を振って焼いた岩豚の燻製肉をのせただけの豚丼だ。シンプルイズベスト!
もちろん、岩豚の燻製肉にはがっつり黒胡椒を効かせて焼いてあるから、風味は抜群だ。
ちなみに、焼いた際にあふれんばかりに出た脂も全部一緒にかけてやったから、米は脂を吸ってツヤピカだよ。
当然、俺の前にも山盛りの豚丼があるし、シンプルコッペパンに切り目を入れて焼いた岩豚ベーコンを挟んだだけの一品も並んでいる。
他には燻製肉で作った即席スープや、刻んだ岩豚ベーコンと溶き卵を混ぜてとろけるチーズをプラスして焼いただけのシンプルスクランブルエッグなんかもある。これを食パンに挟んだのを作ってやったら、大感激したシャムエル様が興奮しすぎて転がっていたよ。
分厚く切ったスモークチーズも絶品だし、燻製卵もめちゃ美味しい。
まあ、この二つは食事っていうよりはお酒の当てに最高! って事で全員からの意見の一致を見たよ。
とにかくもう、どれも美味しすぎて笑いが出るレベル。
マーサさんも含めて、全員が満面の笑みでひたすら食べて飲んだのだった。
よし、あとでスライム達に頼んで次の肉の仕込みをしておこう。
オンハルトの爺さんも終始笑顔で、豚丼は頼まれておかわりを作ったほどだった。
うん、そのご友人にはがっつりお肉を持って行ってもらおう。もちろん、岩豚だけじゃあなくて各種ジビエを取り揃えてお届けするよ。
「いやあ、立ちのぼる煙を見て火事でも起こったかと思って慌てて来たのに、こんなご馳走にありつけるとはねえ。有り難い事だね」
皆に比べればかなり少食ではあるが、それでもガッツリ色々食べていたマーサさんがしみじみと食べかけのサンドイッチを見ながらそう呟く。
「まさか、火事と勘違いされるとは思いませんでしたよ。この後も何度か作るつもりですけど、どうぞご心配なく」
「そうですよ。水の術を使えるものが複数いますので、万一本当に火が出てもすぐに消火出来ますのでご安心を」
「まあ、水の術使いがいると火は暴走しにくいですからねえ。これだけの人数の水の術使いがいれば、火事の発生率は限りなくゼロですよ」
笑ったアーケル君の説明に驚いたのは俺だけだった。
『なあ、そんな事ってあるのか?』
こっそりハスフェルにトークルーム全開で尋ねると、チラッとこっちを見たハスフェルが笑って頷く。
『そうだな。今言った通りで、水の術使いがいれば、誰かが故意に火をつけてもやしでもしない限り、ほぼ火事は起きない。まあたいした事ではないから気にしなくていいぞ』
笑った声に納得しかけて不意に心配になる。
『なあ、それなら逆に火の術使いがいれば火事が起こりやすくなったりするのか?』
その瞬間、オンハルトの爺さんが吹き出した。
『心配いらんよ。火の術使いがいれば、火はその支配下にある。当然、きっちり管理して暴走などさせんから安心しなさい』
笑いながらのその説明に、俺は力一杯お礼を言っておいたのだった。
2025年3月14日、アース・スターノベル様より発売となりました「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」第十巻の表紙です。
ついにもふむくも二桁の大台に突入です!
改めまして、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
今回も引き続き、れんた様が表紙と挿絵を最高に素敵に可愛らしく描いてくださいました。
連載開始当初からの目的地であったバイゼンに、ようやくの到着です!
到着早々色々と騒ぎが起こります。
そして貴重な女性キャラも登場しますよ!
その貴重な女性キャラを描いた今回の口絵も大爆笑させていただきましたので、どうぞお楽しみに!
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」
コミックアース・スター様にて、コミックス第四巻が2025年3月12日に発売となりました!
もちろん今回も作画はエイタツ様。
ハスフェルに続きギイも、それからフランマもコミックスに登場です!
いつもながら最高に可愛いもふもふむくむく達と、美味しい食事!
そして、地下洞窟と恐竜達とテイム!
盛り沢山なもふむくコミックス第四巻を、どうぞよろしくお願いします!