煙モクモク燻製だ〜〜!
「へえ、案外たくさん入ったな。用意した分の肉、全部入っちゃったよ」
三人が組み立ててくれた大きな金属製の箱は、ちょっとしたテントくらいの大きさがあり、この中で一番小柄な俺なら少し屈めば中に入れるくらいの広さが余裕である。
しかしその前に、オンハルトの爺さんに教えてもらいつつ手分けして、まず準備した肉を綿紐で縛っていく作業をした。
これが意外に難しくて俺達三人はかなり苦労する羽目になった。
俺が作ったのは若干歪になって形が歪んだけど、まあ別に売り物にするわけでなし問題ないだろう。
意外に器用なギイとオンハルトの爺さんが縛った肉は、売り物レベルに綺麗になっていたけど、ハスフェルが縛ったのは俺より歪みが酷くて、オンハルトの爺さんにこっそり直されていて笑っちゃったよ。
燻製箱の上側にはいくつもフックが付いていてそこに肉をぶら下げられるようになっている。
それから壁側に小さな棚みたいなのがいくつもあって、ここにはチーズやゆで卵を入れると良いと言われて、喜んで手持ちの硬めのチーズとゆで卵を提供したよ。
ゆで卵も入れられると知って、唐突に燻製箱の上に現れたシャムエル様が嬉々として踊り始め、俺達は揃って吹き出したのだった。
「まあ、今回は肉は岩豚だけだったが、上手くいったら次はハイランドチキンやグラスランドチキン、それからレッドエルクなどの他の肉や魚でもやってみよう。間違いなくどれも美味しいと思うぞ」
用意した肉が全部セットされ、扉を閉めたところでにんまりと笑ったオンハルトの爺さんがそう言い、俺達は揃って拍手喝采になったのだった。
「では、点火するぞ」
オンハルトの爺さんがそう言い、焚き付け用の小枝に火を灯す。それを桜のチップを敷き詰めた下段に差し込みしばらくすると、パチパチと音がして燻製箱の上部に開いた隙間からモクモクと煙が上がり始めた。
「うひゃあ。これは風向きを考えて立たないと、酷い目に遭うぞ〜!」
吹き出す煙が俺が立っている方向にまともに流れてきてしまい、俺は慌てて横に移動して煙に巻き込まれるのを回避した。
「ここでは時間経過の技は使えないから、とりあえず出来上がるまで半日くらい待機だな。ううん、それにしてもすごい煙だ」
呆れたような俺の呟きに、同じく煙から避難してきたハスフェルも笑いながら頷いている。
ギイは、どうやら燻製作りに興味が出たらしく、さっきベータがホールドしていたレシピの書かれたメモを手に、オンハルトの爺さんと顔を寄せて、時折燻製箱を見ながら何やら楽しそうに話を始めていた。
「ケンさ〜〜ん! 皆さんも何をしているんですか〜〜?」
そろそろ腹が減ってきたので、少し遅くなったけど昼飯にしようかと話をしていると、リナさん一家が揃って裏庭までやってきた。
「窓を開けて寝ていたら、急に煙が入ってきて驚いて飛び起きたんですよ。火事になったかと思って」
苦笑いするアーケル君の言葉に、思わず別荘の方角を見て慌てて謝ったよ。
「ご、ごめん! そこまで煙がいくとは思わなかったよ。驚かせて悪かったな」
「いえ、火事じゃあないのはすぐに分かったので大丈夫ですよ。それで一体何をしているんですか? 焚き火にしては……」
ここでようやくまだまだ煙を吹き出している燻製箱に気が付いたらしいアーケル君が、唐突に目を輝かせて駆け寄ってきた。
「ああ! それってもしかして燻製用の箱ですか〜!」
「おう、オンハルトの爺さんが知り合いからレシピを貰ってきてくれたんだ。それで岩豚の肉で試作中だよ」
「岩豚の肉で燻製! そんなの美味いに決まってるじゃありませんか! お願いだから俺にも食わしてください!」
「岩豚の肉で燻製!」
「間違いなく美味いやつ〜〜〜!」
キラッキラに目を輝かせたアーケル君の叫びに続き、オリゴー君とカルン君も揃って両手を胸元で握りしめたおねだりポーズで叫んでいる。
その隣では、満面の笑みのリナさんとアルデアさんも叫んでこそいないが同じくおねだりポーズだ。
「あはは、まあ初めてだから上手くいくかどうかはまだ分からないけどさ。上手く出来ればもちろん料理に使うよ。でも、多分何もせずに切って焼くだけとかの方が美味い気がするなあ」
「それ、絶対美味いやつ〜〜〜〜!」
リナさん一家だけでなくハスフェル達三人の叫びまで加わった大絶叫に、俺は堪える間も無く吹き出したのだった。
「とはいえ、出来上がるまでにはまだまだ時間はかかるみたいだから、とりあえず昼飯にしよう。もうここでいいか?」
全員揃っているし、机も椅子も出ている。
天気はいいし風も爽やか。まあ急に風向きが変われば避難は必要だけど、たまには外で食事をするのも悪くないだろう。
サクラが入ってくれた鞄を手にそう言うと、笑顔の全員が頷いてくれた。
って事で追加のテーブルと椅子も取り出し、適当に手持ちの作り置きを取り出す。アーケル君達も色々と出してくれたので、いつもの豪華なメニューになったよ。
モクモクと上がる煙を眺めつつ、果たしてどんな風に出来上がるのか、出来た燻製肉で何を作るかを食事をしながら思いつくままに話しては、その度に歓喜の雄叫びを上げては笑い合っていたのだった。
ちなみに、遠目からでもこの煙は目視出来たらしく、火事でも起きたかと心配したマーサさんが俺達が食事を終えてしばらくした頃に血相を変えてすっ飛んできてくれて、もう力一杯謝った俺達だったよ。
2025年3月14日、アース・スターノベル様より発売となりました「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」第十巻の表紙です。
ついにもふむくも二桁の大台に突入です!
改めまして、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
今回も引き続き、れんた様が表紙と挿絵を最高に素敵に可愛らしく描いてくださいました。
連載開始当初からの目的地であったバイゼンに、ようやくの到着です!
到着早々色々と騒ぎが起こります。
そして貴重な女性キャラも登場しますよ!
その貴重な女性キャラを描いた今回の口絵も大爆笑させていただきましたので、どうぞお楽しみに!
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」
コミックアース・スター様にて、コミックス第四巻が2025年3月12日に発売となりました!
もちろん今回も作画はエイタツ様。
ハスフェルに続きギイも、それからフランマもコミックスに登場です!
いつもながら最高に可愛いもふもふむくむく達と、美味しい食事!
そして、地下洞窟と恐竜達とテイム!
盛り沢山なもふむくコミックス第四巻を、どうぞよろしくお願いします!