何もしていないけどお疲れ様!
「ところで、腹減ってないか?」
「お腹空きました!」
笑った俺の問いかけに、見事なまでに全員一致の返事が勢いよく返ってきた。
ちなみに、西の空は真っ赤からそろそろ暗闇に変わろうとする頃合いだ。
それを考えれば蟻のジェムモンスターの大発生から今までって、それほど時間が経っていないんだよな。
確か、一旦街へ戻って今度は飛び地へ行ってみようって相談していたんだっけ。その時に、出来れば日が暮れるまでに安全地帯まで撤収したいって考えていたような覚えがある。
ご機嫌で果物を食べるベリーを無言で見る。
滅多にない蟻のジェムモンスターの大発生の発見から、俺達を現状の唯一の安全地帯である空へ逃し、即座に火の術を主に使って駆逐。
一連の対応の速さには、もうさすがとしか言いようがない。
ぼんやりとそんな事を考えていると、アーケル君が心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「ええと、大丈夫ですか? お疲れなら、買い置きを色々出しますから無理せず休んでいてください」
「ああ、ごめんごめん。ちょっと考え事。全然大丈夫だよ」
慌てたようにそう言い、サクラが入ってくれた鞄を持ち直す。
「じゃあ、無事に駆逐出来たお祝いに、連日になるけど肉でも焼いてみるか?」
にんまりと笑って取り出したのは、岩豚の肉の塊。
それを見た途端、全員から拍手大喝采をいただきました。
うん、皆、お肉好きだよね。
「どうする? 普通にステーキみたいに焼いてもいいし、なんならコンロは一人一個とまではいかないけどそれなりに数があるから、岩豚だけじゃあなくていろんな肉を切るから焼肉パーティーにするか?」
「簡易コンロならあります!」
何故かこれまた全員一致の返事が返る。
そして、即座に取り出される簡易コンロの数々。
へえ、簡易コンロも一種類じゃあないんだ。
ずらっと並んだそれを見て、若干見当違いな感心をしていた俺だったよ。
だって、よく見ると形そのものが四角いのと丸型があり、コンロ自体の厚みもかなり差がある。
多分だけど、丸い薄型が最新式で、四角くてややゴツいのは普及品の量産型なんだろう。
俺が使っているのもかなり大きめの分厚いのだ。
「まあ、あまり小さくて薄いと料理する時に不安定だったり転がりそうで逆に俺は怖いから、これくらいの大きさがある方が俺はいいよ」
何となくそう呟き、自分のコンロを取り出して見てから一旦収納した。
「なあ、ところで、ここで食べて大丈夫かな?」
質問はハスフェル達に対してだ。
今の俺達がいるのは、大きな森の外れのあたりで、若干見通しが悪い。
万一森から何かの動物やジェムモンスターが飛び出してきたら、間違いなく突っ込まれる位置だ。
「ここはよくないな。それなら、この先に広い草地があるからそこで野営しよう。地形が変わっていなければだが、大丈夫なんだよな?」
ハスフェルの質問は、まだ果物を食べているベリーに対してだ。
「はい、今回は地形の変化はありませんよ。原状回復ですから。それなら私はもう少し果物をいただいてから移動しますので、どうぞ先に行ってください」
笑ったベリーの言葉にハスフェルも笑顔で頷き、こっちを振り返った。
「じゃあ、ベリーは置いて移動だな」
「了解。じゃあ行こうか」
側にいたマックスの背に飛び乗り、皆もそれぞれの騎獣の背に飛び乗った。
頷き合い、そのままハスフェルの先導で今夜の野営地へと移動して行ったのだった。
確かに到着した草地なら、この大人数でも余裕でテントを張れそうだ。
「じゃあ、また周囲の警戒は任せていいかな」
マックスの鞍を外してやりながらそう言うと、尻尾扇風機状態のマックスが勢いよくワンと吠えた。
「了解です。この辺りは、周囲は静かですので問題は無いと思いますが、一応警戒はしておきますね」
「おう、よろしく」
周囲への警戒は従魔達に任せ、俺達はスライムに手伝ってもらってテントを張る。
まあ、普段の野営の時に比べたら、かなりぎゅうぎゅうにくっつけているから狭っ苦しいんだけどね。
「じゃあ、テントを張れたら俺のテントに集合な〜〜」
そう言って出入り口を巻き上げておき、いつものテーブルと椅子を取り出して並べた俺は、まずはスライム達に指示を出してお肉各種をがっつりと準備しておいた。
野菜は、俺が食べたいので春玉ねぎのスライスと春キャベツのざくぎり、あとは下茹でしたコーンくらいあれば良かろう。
俺が食材の準備をしている間に、ハスフェル達がセッティングを完璧にしてくれた。
三つくっつけた広いテントの中には人数分の簡易コンロが並び、上には鉄板が置かれていて各自好きに焼けるようになっている。
「準備は完璧だな。じゃあ肉を出すぞ〜〜ひれ伏せ〜〜〜岩豚様なるぞ〜〜」
ちょっとドヤ顔になった俺の言葉に、ノリの良い皆が一斉にひれ伏す。
「こっちは、ハイランドチキン様で、こっちがグラスランドチキン様〜〜そしてこれはグラスランドブラウンブルの熟成肉なるぞ〜〜〜」
次々に肉を取り出す俺、そしてその度に笑ってひれ伏す皆。
顔を上げたハスフェルと目が合い、堪える間もなく吹き出した俺だったよ。
いやあ、ノリの良い仲間って最高だね!
「じゃあ、僭越ながら……何もしてないけどお疲れ様でした!」
手にした冷えたビールを高々と掲げた俺の乾杯の声に、もう一回大爆笑になった俺達だったよ。
「何もしてないけどお疲れ様でした!」
全員の唱和する声が重なり、焼肉パーティーの開始となったのだった。
2025年3月14日、アース・スターノベル様より発売となりました「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」第十巻の表紙です。
ついにもふむくも二桁の大台に突入です!
改めまして、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
今回も引き続き、れんた様が表紙と挿絵を最高に素敵に可愛らしく描いてくださいました。
連載開始当初からの目的地であったバイゼンに、ようやくの到着です!
到着早々色々と騒ぎが起こります。
そして貴重な女性キャラも登場しますよ!
その貴重な女性キャラを描いた今回の口絵も大爆笑させていただきましたので、どうぞお楽しみに!
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」
コミックアース・スター様にて、コミックス第四巻が2025年3月12日に発売となりました!
もちろん今回も作画はエイタツ様。
ハスフェルに続きギイも、それからフランマもコミックスに登場です!
いつもながら最高に可愛いもふもふむくむく達と、美味しい食事!
そして、地下洞窟と恐竜達とテイム!
盛り沢山なもふむくコミックス第四巻を、どうぞよろしくお願いします!