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買い物と出発

「それでは失礼致します。また何かご希望の品がございましたら、いつでもお呼びください」

 これ以上無いくらいの満面の笑みで一礼して、嬉しそうに部屋を出て行くおっさん達を見送って、俺はもう乾いた笑いしか出なかった。



 あの後しばらくして、商人ギルドのアルバンさんが引き連れてきたのは、この街の中でも大手なのだと言う食品全般を扱う老舗の店主と各売り場の担当者達だった。

 野菜や肉類、それから魚などの生鮮食料品から、保存食やスパイスなどの調味料に至るまで、何とリストや見本を大量に持って来てくれました。

 基本的な欲しい物は言ってあったのだが、これがオススメ!ってのをそれぞれの担当者が目を輝かせて説明してくれるもんだから、ついついあれもそれもと頼んでしまったよ。

 それから、知らない食材なんかはこの時とばかりに質問したおかげで、調理法も含めてかなり詳しく教えてもらいました。

 そして、何よりも俺が嬉しかったのは、遂に醤油を見つけた事だった。

 俺の知る醤油と全く同じでは無いのかもしれないが、見た目は醤油だ。味見させてもらって確信した。これは間違い無く醤油だ。当然瓶ごと大量にお買い上げ。

 それに、他には味醂っぽいものや麦味噌も有った。そしてマカロニっぽいものとスパゲッティもどきも見つけました。

 よし、これでグラタンとかマカロニサラダ、ミートスパゲッティなんかも出来るぞ!

 さすがに鰹節は見つからなかったが、干した昆布や小魚が有ったのでこれも購入! よし、これで味噌汁が作れるぞ!

 すぐに食べられるハンバーガーやサンドイッチ、それからコーヒー豆も色々と大量購入。

 途中の昼食タイムを挟んで、全部の買い物が終わる頃にはかなりの時間が経っていたが、おかげで、サクラの食料在庫の品揃えははほぼ完璧になったぞ。


 しかも、買う品物が決まれば、次から次へとまとめてすぐに持って来てくれると言う、ある意味、座ってたら店の方から丸ごと来てくれました状態だったのだ。何この楽チンな買い物タイムは!

 これはあれだな。都市伝説レベルでしか聞いた事無いけど、セレブが顧客になってるとか言う百貨店の外商ってやつみたいだ。

 まあ、俺は噂でしか知らないけど、多分金持ちの買い物ってこんな感じなんじゃないだろうか?

 何しろ、俺は座っているだけで、目の前を担当者が持ってくる商品が流れて行くんだもんな。


 そして最後に、誰が支払うかでこれまた大騒ぎだった。

 俺は当然自分達の食料だったんだから、自分で払うと思っていたのに、無理言って出て行ってもらうんだから冒険者ギルドが払うとエルさんが言い出し、どっちも譲らず困り果ててしまった。

 結局、最後はくじ引きで支払い率を決めると言うとんでもない事になり、俺が即席で作ったくじ引きで数字を引き合い、結果、俺が六割、冒険者ギルドが四割での支払いが決まったのだった。

 いや、それでも払ってもらい過ぎだと思ってるけどね。



 商談の途中で、連絡を聞いたマーサさんも駆け付けてくれて、クーヘンは、祭りまでマーサさんの自宅に泊まらせてもらう事も決まった。

「そっか、お前さんはいてくれるんだね。よろしくね」

 ドロップはクーヘンと一緒に置いて行くと言ったら、大喜びしてくれたよ。


「あの、私も残っても良いでしょうか?」

 マシューさんの店から代替えのテントも届いたので、じゃあ解散してもう出かけようかと話していると、クーヘンの腕に捕まったモモンガのフラールが、遠慮がちな声でそう言い出した。

「私の食事は果物ですから、別に外へ行かなくてもすむかと思いまして……」

「おやおや、あんたもいてくれるのかい?そりゃあ嬉しいね」

 俺がフラールの言葉を通訳してやると、マーサさんは大喜びしていた。

 結局、それを見たレッドダブルホーンラビットのホワイティも、自分の食事は屑野菜で良いからと言い出し、相談の結果、草食二匹も居残る事になったよ。



「お待たせ。それじゃあ、日が暮れる前に街を出よう」

 苦笑いした俺の言葉に、ハスフェル達も笑っている。

 そして、ここでも目くらましをする事になった。

 一旦、元の姿に戻ったクーヘンも一緒に、チョコに乗って俺達と一緒にまずは街を出る。

 少し離れた後ろを、馬に乗ったマーサさんが追いかけて来てくれるので、しばらくして街道から離れた所で合流して、クーヘンは姿を変えて二人乗りで街へ戻る事にしたのだ。

それなら、クーヘンは俺達と一緒に出掛けたと思われるだろうし、マーサさんは、徒歩の知り合いを迎えに行って来たと思われるだろう作戦だ。



 まだ日暮れには早い街を大注目されながら歩いていると、何と前からあの馬鹿二人組が歩いて来たのだ。

 連れているのは、確かに他の馬と比べると驚くほどに大きな赤毛の馬で、恐らくあれが早駆け祭りのレースで九連勝していると言うカデリー平原産の馬なのだろう。

 しかし、俺達の従魔とは、はっきり言って大きさも迫力も違う。

 あいつら二人は、俺達に気付いて何か言いかけたが、黙って立ち止まった。

 先頭を歩いているハスフェルは、気付いているのだろうが、立ち止まる事なく彼らを完全に無視してその横を通り過ぎて行った。

 俺は、通り過ぎる時に思わず横目で彼らを見たが、二人揃って目を見開いてぽかんと口まで開けて俺達を見ていた。

「ビビってるな」

「ビビってるな」

 ハスフェルとギイの面白がるような声が聞こえる。俺の横を歩いていたクーヘンは、思いっきり振り返って彼らを見ていたが、二人はクーヘンと俺が振り返ったのを見ない振りしてそのまま逃げるようにいなくなってしまった。



「あの様子だと、レース当日でも何か仕掛けてくるかもしれないな」

「まあ、一応予防線は張っておくよ。せっかくの楽しいお祭り騒ぎなのに、水を差されるのは我慢ならんからな」

 ハスフェルの言葉に、ギイが自信ありげにニンマリと笑ってそう言う。それを聞いたハスフェルも、何故かニンマリと笑ったのだ。

「そうか、その手があったな。この際だから、お祭り騒ぎにあいつらも参加させてやろう」

『待て待て! お前ら一体何をするつもりだ!』

 思わず念話で話し掛けると、二人は双子か!って同調率で揃って振り返った。

『気にするな。後で説明してやるよ』

『俺達の昔馴染みに声を掛けただけだ』

『あ、そうなんだ……って、だからちょっと待ってって! お前らの仲間って事は、またしても神様仲間だろうが!』

『ああ、そうだぞ。だって別に構わないだろう? そもそも、この早駆け祭りだって元を正せば神事だからな。人々が、シャムエルに感謝の祈りを捧げる為のお祭りなんだぞ』

『だから、俺達は今まではずっと観客として楽しんでいたんだよ。まあ、面白そうだから、いつかは出てやろうってずっと思っていたけどな。実はもう、今から祭りが楽しみで仕方がないんだよ』

 ハスフェルとの念話にギイも乱入して来て、二人揃って嬉しそうにそんな事を言う。

「そうなのか?」

 俺は思わず定位置の右肩に座っているシャムエル様を見た。

「そうだよ。だから毎年優勝者には私が祝福のキスをこっそり贈っているんだよ」

「何それ?」

「数日程度だけど、運がものすごく良くなって何をやっても色んな事が上手くいく、一種のおまじないみたいなものだね。一応言っておくけど、彼らにだってちゃんと祝福は贈っているよ。それは勝者の権利だからね」

「あ、あれか。あいつらの強気って、それも含まれているのかもな」

 苦笑いする俺に、シャムエル様も頷いて苦笑いしていた。

「さてと、果たして無事に祭り当日を迎えられるのかね?」

 そう呟いた俺に、背後から笑って声が掛かる。

「何言ってるんだい、しっかりしとくれ。私だって、祭り当日を楽しみにしてるんだからね!」

 街道を外れて森の中へ駆け込んだ俺達に、マーサさんの乗った馬が追いついて来たのだった。

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