サーベルタイガーとの遭遇
「はあ、ごちそうさま」
綺麗に平らげたお弁当箱を側にいたサクラに返した俺は、冷えた麦茶を飲んでから周りを見た。
真っ青な雲一つない快晴の空と、空がそのまま映ったのではないかと思うくらいに真っ青な花畑。
そんな花畑のあちこちには、スライム椅子に座ってご機嫌でお弁当を食べる仲間達。
シェルタン君は、どうやらレニスさんにさっきの花束を渡したらしく、レニスさんが座っているスライム椅子の横の部分から真っ青な花束が顔を出している。あれは花束が崩壊しないようにスライムが確保してくれているみたいだ。
それから、レニスさんとリナさんの髪には、ちぎった青い花があちこちに刺して飾ってある。
うん、なかなか似合っていて素敵だ。
完全に保護者目線でそんなレニスさんを見ていた俺は、そんな彼女を時折うっとりと見つめているシェルタン君にも気がついてしまい、青春だねえと密かに感心していたのだった。
「はあ、それにしても、危険なカルーシュ山脈に来てこんな素敵な場所が見つかるとは思っていなかったなあ。もう完全に、今日の気分はピクニックだぞ」
スライム椅子に大きくなってもらい仰向けに横になって空を見上げた俺は、一つため息を吐きながらそう呟いた。
『まあ、その気分はよく分かるが、一応ここもサーベルタイガーとリンクスのテリトリーの中だからな。セーブルがいてくれればどちらも迂闊に近づいてくる事は無いだろうが、一応は心得ておけよ』
苦笑いしたハスフェルの念話の声が届き、焦って何度も頷いた俺だったよ。
そのまましばらくはのんびりと寛ぎ、マックス達が戻って来たところで花畑から撤収して奥へ向かった。
ハスフェルとギイを先頭にいつもの配置で走っていると、不意にマックスが顔を上げた。
「ん? どうかしたのか?」
しかも、マックスだけでなく他の従魔達も同じ方向を見ている。
そして明らかに警戒モードになった従魔達を見て、俺はマックスの手綱をぎゅっと握りしめた。
「もしかして、近くに何かいるのか?」
一応小さな声でマックスにそう尋ねる。
『気をつけてください。近くにサーベルタイガーがいます。しかもかなり大きな雄のようで、明らかに皆さんに気がついて警戒しています』
その時、やや緊張したベリーの声が聞こえて思わず息を呑む。
「いきなりサーベルタイガーが来たか」
苦笑いしたハスフェルの呟きに、ギイとオンハルトの爺さんも苦笑いしている。
「ええと、もしかして襲われる危険もある?」
「どうだろうなあ。これだけの従魔がいる俺達に、正面から襲いかかるような事はしないだろうと思うが、逆にテリトリーに侵入した侵入者と判断して襲ってくる可能性も無いわけではないぞ」
「うええ、それはちょっと勘弁願いたいんですけど〜〜」
思わずそう呟くと、三人に笑われた。
「従魔達が警戒していますね。何か近くにいるんでしょうか?」
その時、俺の近くにいたアーケル君がちょっと不安そうにやや小さめの声でそう聞いてきた。
どうやら俺達が何かいると話していたのが聞こえたみたいだ。
「ベリーによると、サーベルタイガーの雄が近くにいるらしい。いきなり襲って来る事は無いだろうが、一応警戒しておくように」
真顔のハスフェルの言葉に、こちらも一気に真顔になったアーケル君が頷く。
そして、リナさん達にも伝えたあと、後ろへ回って後方を警戒してくれているランドルさん達にもサーベルタイガーの存在を伝えてくれた。
一気に緊張感が高まる中、とりあえず当初の目的地であるメタルスライムの出る場所へ向かう俺達。
しかし、従魔達の緊張感はどんどん高まっていき、もう新人コンビやマール達、それからレニスさんも従魔達の異変に気が付き、揃って無言になっていた。
緊張感をはらんだまま、かなり大きな木々が点在する雑木林の中をかなりの速さで進んでいると前方にやや広い草原が見えてきた。
草原に飛び出そうとした瞬間、いきなりすぐ近くでものすごい咆哮が響いた。
その直後、茂みから超デカいサーベルタイガーが飛び出してきた。
即座に巨大化したセーブルが前に飛び出して迎え打つ。
もの凄い唸り声と共に絡まり合って転がるサーベルタイガーとセーブルを前に、慌てて止まる一同。
即座に最大サイズに巨大化した猫族軍団が全員前に出て、他の子達も即座に配置を変えて俺達の周囲を隙間なく守ってくれる。
頭上を旋回するお空部隊の子達も、全員が最大サイズに巨大化している。
「うええ、セーブルとタイマン張るってどんだけデカいんだよ!」
ほぼ対等な戦いを見て、ドン引きする俺。
しかし、その直後に最大サイズに巨大化したティグとヤミー、それからランドルさんの従魔のオーロラサーベルタイガーのクグロフまでもが増援にかかった。
四対一になって、有利になったところでセーブルがぶっとい前脚で思いっきりサーベルタイガーを弾き飛ばす。まともに喰らって仰向けに倒れ込んだところにティグとヤミーとクグロフが襲いかかり、喉元と胸元を左右から噛みついた。さらにセーブルが、暴れるサーベルタイガーの下半身を両前脚で押さえ込み、あっという間にサーベルタイガーは確保されてしまった。
「ご主人、完全に確保しましたのでもう安全です。せっかくですからテイムなさいますか?」
ちょっとドヤ顔のセーブルにそう言われて、驚きのあまり言葉も出ない俺だったよ。
ちょっと待て。あのデカさのサーベルタイガー、そもそもテイム出来るのか?
2025年3月14日、アース・スターノベル様より発売となりました「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」第十巻の表紙です。
ついにもふむくも二桁の大台に突入です!
改めまして、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
今回も引き続き、れんた様が表紙と挿絵を最高に素敵に可愛らしく描いてくださいました。
連載開始当初からの目的地であったバイゼンに、ようやくの到着です!
到着早々色々と騒ぎが起こります。
そして貴重な女性キャラも登場しますよ!
その貴重な女性キャラを描いた今回の口絵も大爆笑させていただきましたので、どうぞお楽しみに!
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」
コミックアース・スター様にて、コミックス第四巻が2025年3月12日に発売となりました!
もちろん今回も作画はエイタツ様。
ハスフェルに続きギイも、それからフランマもコミックスに登場です!
いつもながら最高に可愛いもふもふむくむく達と、美味しい食事!
そして、地下洞窟と恐竜達とテイム!
盛り沢山なもふむくコミックス第四巻を、どうぞよろしくお願いします!




