この後の予定
「ケンさん……今、今何があったか……聞いていいですか?」
足元のアクアに龍涎香を返して、一息ついたところで、ものすご〜く遠慮がちなリナさんの声が聞こえて俺は我に返った。
「え、ええと……」
まさか、神様仲間が挨拶に来てくれたなんて言うわけにもいかず慌てていると、小さく笑ったハスフェルが俺の肩を叩いた。
どうやら任せろと言ってくれているみたいなので、もう全面的に丸投げして俺は一歩下がった。
「さっきのクジラはどうやら律儀なやつだったらしくてな。泥沼に戻してくれた礼を言いに来たみたいだぞ。それに、スライム達とも仲良くなったのかもな」
笑ったハスフェルの言葉に、あちこちに転がっていたスライム達がまるでそうだと言わんばかりに伸びたり跳ね回ったりし始めた。
「あはは、そうだったんですね。それにしてもあれって……噂は何度も聞いた事がありますが、初めて見ました。あれって……あの伝説のクジラで間違いないですよね?」
そりゃあもうすっごく不信そうなリナさんにそう言われて、もう後ろで聞いていた俺は笑いを堪えるのに苦労していた。
「ああ、多分あれがその噂の主なんだろうなあ。俺も実際に見たのは初めてだよ。うん、今度酒場で飲んだ時に、釣ったって言って自慢しよう」
笑ったギイが横から乱入してくる。
「まあ、まず間違いなく作り話扱いされるだろうがな」
「だよなあ。もし俺が聞いた側だとしたら間違いなく笑って聞き流して、ああこいつは話を盛る奴なんだなあ。で終わるぞ」
「だろう? 俺でも間違いなくそう思うだろうからな」
顔を見合わせてギャハハと大爆笑する二人と、何度も頷きつつ吹き出すリナさん達を見て、思いっきり遠い目になる俺だったよ。
結局、午後からの釣りもそんな感じでグダグダに終わり、夕方近くになってなし崩し的に釣り大会は終了になったのだった。
結局、俺達側の四連覇で終わったんだけど、なんかもう色々とごめん! って気分になったのだった。
そのまま湖の側でもう一泊した後、翌朝からは移動して、合間に近場でのジェムモンスター狩りをしつつ周りの森や川の様子を調べて回った。
その結果、一旦街へ戻って休んだ後、言っていたカルーシュ山脈の麓へ行ってみる事にしたのだった。
ハスフェル達によると、もうこの後しばらく雨は降らないらしいし、確認したところカルーシュ山脈方面の地面はかなり水捌けが良かったらしく、泥沼があった湖の辺りよりも地面がかなり早く乾き始めていたらしい。
それで、これならもう大丈夫だろうって事になったわけだ。
一応、俺達が周囲を調べている間に従魔達には交代で狩りに行ってもらった。
その際に、ベリー達が張り切ってお弁当をがっつり色々と調達してくれたので、当分は何があっても大丈夫と胸を張って言われた。
何それ、ちょっとマジで怖いんですけど。
『なあ、あの龍涎香って、街へ戻ったらギルドに売ってもいいよな?』
街へ向かって戻る途中、ゆっくりと早足くらいにのんびりとマックスを走らせながら不意に思いついてハスフェルに念話で尋ねてみる。
『ああ、あれな。ううん、ちょっとなあ。出来れば簡単には売らないほうがいい気がするぞ』
何やら含んだその言い方に、俺は思わずハスフェルを見て首を傾げた。
『売ってもいいって、言っていたのに?』
何故かまたギイと顔を見合わせたハスフェルは、大きなため息を吐いてから俺を見た。
『別に金に困っている訳でなし、ちょっとあれを売るのはしばらくはやめた方がいいと思うぞ』
真顔でそう言われた。隣ではギイとオンハルトの爺さんがこちらも真顔で頷いている。
『ええ、売っちゃあ駄目な理由を聞いてもいい?』
俺の質問に、またしても揃って大きなため息を吐く三人。
『じゃあ教えてやるよ。お前さんは知らないみたいだけど、あの石は龍涎香と言って香料や薬の材料になる貴重なものなんだ』
『おお、あれをもらった時に、その話は聞いたよ』
うんうんと頷く俺を見て、またしてもため息を吐く三人。何、ため息がブームなのか?
『特にあの龍涎香は香料としての人気が高い。だが滅多に手に入らない物だから、当然価格はとんでもない高値が付くくらいに何をおいても貴族達が欲しがる物の一つなんだ。しかもお前があのクジラからもらった龍涎香は、長く生きている俺達ですら初めて目にする程に、あり得ないくらいの巨大さと最高の香りを放っていた。あの状態であれだけの香りを放っていたのなら、知識のある奴がしっかり手入れをして削れば、間違いなく最高品質の香料になる。それこそ王に献上する程になるだろうな』
「つまり、あれを迂闊に出せば、俺の名前が貴族だけじゃあなくて王様にまで知れ渡るほどになる?」
思わず声に出してそう言ったが誰も笑わない。それどころか三人から真顔で頷かれて本気で気が遠くなったよ。
「よく分かりました。とりあえず、あれはしばらく封印しておく事にしよう!」
拳を握って断言する俺を見て、ハスフェル達も苦笑いしつつ頷いてくれたのだった。
「はあ、って事でアクア、あの龍涎香は当分の間封印だ。出さなくていいからな」
俺もため息を吐いた後に鞄に向かってそう話しかけると、細い触手がニョロンと出てきて俺の腕を軽く叩いた。
「了解で〜〜す! じゃああれは、普段は出さない方の在庫に入れておくね」
「おう、それで頼むよ」
鞄を軽く叩いて背負い直した俺はもう一回ため息を吐いてから、はるか前方に見えてきたハンプールの街に向かって一気に加速して行ったのだった。
2025年3月14日、アース・スターノベル様より発売となりました「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」第十巻の表紙です。
ついにもふむくも二桁の大台に突入です!
改めまして、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
今回も引き続き、れんた様が表紙と挿絵を最高に素敵に可愛らしく描いてくださいました。
連載開始当初からの目的地であったバイゼンに、ようやくの到着です!
到着早々色々と騒ぎが起こります。
そして貴重な女性キャラも登場しますよ!
その貴重な女性キャラを描いた今回の口絵も大爆笑させていただきましたので、どうぞお楽しみに!
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」
コミックアース・スター様にて、コミックス第四巻が2025年3月12日に発売となりました!
もちろん今回も作画はエイタツ様。
ハスフェルに続きギイも、それからフランマもコミックスに登場です!
いつもながら最高に可愛いもふもふむくむく達と、美味しい食事!
そして、地下洞窟と恐竜達とテイム!
盛り沢山なもふむくコミックス第四巻を、どうぞよろしくお願いします!