明日の予定といつもの朝の光景
「ごちそうさまでした。お寿司もお刺身もとても美味しかったです」
「新鮮なお魚が手に入ったら、絶対にやってみますね!」
明日のお店があるとの事でクーヘン達やバッカスさん達は、すっかり真っ暗になった中をそれぞれの騎獣や馬車に乗り込んで、そう言いながら見送る俺達に笑顔で手を振って帰って行った。
「クーヘン達もバッカスさん達も、刺身やお寿司を気に入ってくれたみたいで俺は嬉しいよ。よしよし」
中へ戻って扉を閉めながら満足そうに呟く。
「ええと、ところで明日からはどうするんだ? まだ雨が上がって間がないから、遠出は無理かな?」
一つ深呼吸をしてから一緒に見送りに出ていたハスフェル達を振り返る。
「カルーシュ山脈の麓へ行きたい! って言いたいのは山々だが、残念ながらまだ遠出は無理だな。それに明日の天気はなんとか曇り程度で持つだろうが、そのあとはまたしばらく雨だぞ」
苦笑いするギイの言葉に、俺も笑うしかない。
普段あまり雨が降らないわりに水が豊富な世界だと思っていたけど、こうやってまとめて降らせていたわけか。
シャムエル様、相変わらずやる事が雑過ぎるぞ。
「そっか、バイゼンの大雪も考えてみたら大きな水資源だよな。北側の山の雪解け水のおかげで、この世界の二本の川の水だってあれだけ豊富なわけだからさ」
バイゼンの大雪と、何度か渡ったこの世界の大河と呼ばれる川を思い出してちょっと遠い目になる俺だったよ。
「あ、明日の天気は何とかなるのなら、街へ行ってギルドに肉を捌くのを頼んでおきたいなあ。雨の間に幾らか従魔達にあげちゃったから、食材の肉の手持ちが少なくなっているんだよな」
さっき料理の仕込みをしている時にサクラに教えてもらったんだけど、手持ちのチキン系の材料がかなり少なくなっているらしい。
今回は肉系料理の追加は作らなかったので大丈夫だったけど、かなり減っているので早めに追加したほうがいいって言われたんだよな。
「肉が無いのか。それは重大問題だぞ」
「それは駄目だ。今すぐギルドへ行こう!」
本当に言葉通りに、割と本気で今から行きそうになっているハスフェルとギイの腕を掴んで慌てて止める。
うん、相変わらず丸太みたいな腕だねえ。俺の手では掴みきれないよ。
「待てって。そこまで緊迫しているわけじゃあないよ。ってか、こんな時間に無茶言うんじゃあないって。一応まだ在庫はあるよ。だけどまだ当分この人数で過ごすのなら、さすがに足りなくなるだろうって程度だよ。だからギルドに頼みに行くのは明日でいいです!」
必死の俺の説得に納得してくれた二人と苦笑いしながら頷き合い、とりあえず明日は冒険者ギルドへ行って、いつものジビエの解体をまとめてお願いする事にした。
今日の寿司パーティーに使った会場は、もうスライム達がすっかり綺麗に片付けてくれてるのでリビングへ一旦戻り、何故かもう一回酒盛り状態になっている一同を見る。
「あれだけ飲んでまだ足りないのかよ。でもまあ、せっかくだからもうちょっとだけ参加させてもらおうかな」
笑ってそう言い、俺達も空いていたソファーに座った。
広いリビングには、大人数で食事をする巨大なテーブルと多数の椅子だけでなく、ハスフェル達でも寛げる大きなソファーが壁面や窓側にいくつも置いてあるので、飲む時にはこっちに座る事も多いんだよな。
ちなみにリナさん一家はソファーには座らず、いつも食事をしている時の椅子に座ってテーブルに並べた草原エルフの故郷のお酒を取り出して飲んでいる。
レニスさんと新人コンビもその横に並んで一緒にそのお酒を笑顔で飲んでいるし、マールとリンピオもアーケル君達と一緒に並んで椅子に座ってそのお酒を飲んでいる。
ランドルさんとアルクスさんとボルヴィスさんは、壁際に置かれたソファーに座って、こちらは大きな陶器製の瓶を前に置かれた低めのテーブルに並べて、こちらはもうすでに出来上がっているみたいだ。
笑って頷いたハスフェルが冷えた吟醸酒を出してくれたので、俺も笑顔で頷き、吟醸酒を飲む時にいつも使っている綺麗な切子のマイグラスを取り出したのだった。
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
こしょこしょこしょ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きてる……」
翌朝、いつものモーニングコールに起こされた俺は、半ば無意識にそう答えて腕の中のふわふわを抱きしめた。
何故か妙な違和感を覚えたんだけど、相変わらず寝汚い俺の体は全く起きる気配なし!
結局、そのまま気持ちよく二度寝の海へ落っこちていったのだった。
ううん、二度寝最高……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
こしょこしょこしょこしょ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、だから起きてるってば……」
半ば無意識で答えたら腕の中にいたマニが、喉を鳴らしながら俺の顎の辺りに鼻をくっつけてきた。
「冷たいって……」
嫌がるようにのけ反ったけど、さらにくっついてこられてなんとか目を開いた。
しかし開いた目に飛び込んできたのはすぐ側にあった巨大化したティグとヤミーの顔。しかもその向こうには、同じく巨大化したソレイユとフォールとマロン達猫族軍団の面々だった。
「ちょっと待て! お前らどうして全員揃って巨大化してるんだよ!」
慌ててそう叫んだんだけど、時すでに遅し。
ザリザリザリ!
ザリザリザリ!
ジョリジョリジョリ!
ジョリジョリジョリ!
ゾリゾリゾリゾリ!
ベロ〜〜〜〜ン!
「うぎゃあ〜〜〜〜げふう!」
相変わらずの強烈な連続攻撃に悲鳴をあげた直後に、思いっきり腹を蹴っ飛ばされて悶絶する俺。
こちらも相変わらず見事な一撃だねえ……。
蹴り飛ばされた勢いで豪快に転がってスライムベッドから落っこちた俺は、そのまま気持ちよく意識も吹っ飛ばしてしまったのだった。
いつもながら、従魔達総出のモーニングコールが激し過ぎるんですけど!
2025年3月14日、アース・スターノベル様より発売となりました「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」第十巻の表紙です。
ついにもふむくも二桁の大台に突入です!
改めまして、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
今回も引き続き、れんた様が表紙と挿絵を最高に素敵に可愛らしく描いてくださいました。
連載開始当初からの目的地であったバイゼンに、ようやくの到着です!
到着早々色々と騒ぎが起こります。
そして貴重な女性キャラも登場しますよ!
その貴重な女性キャラを描いた今回の口絵も大爆笑させていただきましたので、どうぞお楽しみに!
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」
コミックアース・スター様にて、コミックス第四巻が2025年3月12日に発売となりました!
もちろん今回も作画はエイタツ様。
ハスフェルに続きギイも、それからフランマもコミックスに登場です!
いつもながら最高に可愛いもふもふむくむく達と、美味しい食事!
そして、地下洞窟と恐竜達とテイム!
盛り沢山なもふむくコミックス第四巻を、どうぞよろしくお願いします!