例のジェムの行方と扱いについて
「何しろ、ケンさんはあの地下洞窟で出たジェムや素材を、当然のように俺達にくださいました」
「普通、個人の所有する敷地内で発見されたダンジョンの場合、よそ者である俺達が入って集めたジェムや素材の取り分は三割が上限です。でも、ケンさんは当たり前のように、地上での狩りと同じように全てのジェムと素材を俺達に分けてくださいました。ドロップアイテムですら、相当の割合で分配してくださいましたからね」
真顔のアーケル君とオリゴー君の言葉に、リナさん達も真顔で頷いている。
「それで、例の岩食いがバイゼンの街のすぐ横で出現した際、戦いの後半でジェムの追加が見込めなくなった時に、俺達は手持ちのジェムを提供しました」
「当然、出したのはケンさんのお城の地下で手に入れた恐竜のジェムです。あの戦いで、手持ちのジェムはほぼ全て出し尽くしましたね。でも、あれは元々手に入れるべきではない、いわばケンさんの好意で頂いたジェムですからね。まさにこの為のジェムだったのかと納得して感謝こそすれ、特に惜しいとは思いませんでしたよ」
苦笑いするリナさんの言葉に、アルデアさんと三兄弟も揃って頷いている。
俺的には、単に多すぎるジェムを引き取ってもらいたいと思って渡したジェムや素材だったけど、そんな風に考えていていてくれたんだ。
ちょっと感動しつつ話を聞いていると、顔を見合わせたリナさん一家が何故か揃ってため息を吐いた。
「それなのにあの戦いの終わった後、ケンさんの友人達をはじめケンタウロスの皆様と共にまたしても地下洞窟へ何度も入らせていただき、その最下層のさらに下にあった水没地帯にも一緒に入らせていただきました」
「そして、従魔達が集めた最下層に至るまでの間で手に入れた通常の恐竜のジェムと素材だけでなく、どう考えても市場には出た事が無いだろう巨大な、見た事もない水棲恐竜のジェムまでをも大量に手に入れました」
「そのジェムや素材についても、ご友人方が確保したジェムや素材をケンさんに渡すので構わないとおっしゃってくださり、私達が自力で集めた分については、またしても全て渡してくださったんです。しかも、水没地帯には入っていないランドルさんにまで、未発見のジェムと素材を当たり前のように分けてくださっていました」
「未発見のジェムと素材ですよ。そんなの、通常ならあり得ない扱いですよ」
口々に真顔でそう話すリナさん達の話を、こちらも真顔のギルドマスター達が無言で頷きながら聞いている。
「なので、俺達は相談して決めました。この、最下層の水没地帯で手に入れた未発見のジェムや素材は、前回の岩食いとの戦いの時のように、緊急事態用に別に置いておこうと」
「幸いな事に、収納袋は高性能の物を大量に持っていますからね」
「一応、落ち着いたらケンさん達がお持ちの分をどうしたか聞いてから、通常の恐竜のジェムや素材は順に売るつもりだったんです」
「あ、もちろんこれについてはランドルさんにも同意をいただいています。彼は手持ちの通常の恐竜のジェムや素材については、基本的にはギルドには売らずにバッカスさんのお店に順に委託するって言っていましたよ」
「私達もランドルさんも、未発見の大型水棲恐竜のジェムと素材については、ここのギルドに収納袋に入れて預けておくつもりでした」
苦笑いしながらのリナさん達の説明に、もうエルさん達ギルドマスターズが遠慮なく吹き出していた。
住む家を持たない冒険者達の場合、もしも手元に置いておきたいけど持ち歩くのが大変な物がある場合、ギルドへ預けておく事が出来る。
もちろんタダでは無い。預けるにはお金が掛かるらしいんだけど、聞けば俺の感覚ではサブスクの金額程度だから真面目に働いていれば負担にもならない程度の金額だ。
大抵は収納袋に入れてそれを預ける形で、その際に入れ物は術を使って封印されるので勝手に開けられる事はないんだとか。
うん、貸金庫みたいな感覚かな?
まあ、俺は無限収納があるから大丈夫だけど、ハスフェル達の説明によると大抵の冒険者は自分の活動範囲にある何処かの街を決めて、そこのギルドに荷物を預けているらしい。
「君達の理性的な判断に、心からの感謝を。もちろん、ギルドが責任を持ってお預かりするので、いつでも遠慮なく言ってくれたまえ」
もう一度安堵のため息を吐いたエルさんが笑顔でそう言い、アルバンさんとシルトさんも笑顔で拍手していた。
「それで、ケンさん達はあの未発見のジェムと素材をどうなさるおつもりだったんですか?」
笑ったリナさんにそう聞かれて、俺はハスフェル達と思わず顔を見合わせた。
「一応、ここのギルド連合にまとめて買い取ってもらって、クーヘンの店にも、いつものように委託をするつもりだったんだ。ええと、良ければリナさん達やランドルさんも一緒にしますか?」
間違いなく高値が付くのが分かっているジェムと素材だ。塩漬けにしておくのはあまりにも勿体無い。
「では、お言葉に甘えて私達もその商談に参加させてください。本当に手持ちにはとんでもない数のジェムと素材がありますので、急いで処分する必要もありませんから、少しだけで」
笑ったリナさんの言葉にアーケル君達も苦笑いしつつ頷いていたので、ここからは草原エルフ一家も参加してのギルドマスター達との商談タイムとなったのだった。
一応話がまとまったところで商談は終了となった。ちなみに今回引き取ってもらう数は、まあいつもの数に比べたら格段に少なかったよ。
だけど元々の単価がとんでもないので、一人当たりの買い取り金額については……うん、ギルドに預けて有効に運用してもらおう。でもって、まとめて寄付だ寄付!
今回の買取金額だけでも簡単に計算して気が遠くなりかけた俺は、途中で全部まとめて明後日の方向へ蹴り飛ばしてそう結論付けたのだった。
2025年3月14日、アース・スターノベル様より発売となります「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」第十巻の表紙です。
ついにもふむくも二桁の大台に突入です!
改めまして、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
今回も引き続き、れんた様が表紙と挿絵を最高に素敵に可愛らしく描いてくださいました。
連載開始当初からの目的地であったバイゼンに、ようやくの到着です!
到着早々色々と騒ぎが起こります。
そして貴重な女性キャラも登場しますよ!
その貴重な女性キャラを描いた今回の口絵も大爆笑させていただきましたので、どうぞお楽しみに!
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」
コミックアース・スター様にてコミックス第四巻が、2025年3月12日に発売となります!
もちろん今回も作画はエイタツ様。
ハスフェルに続きギイも、それからフランマもコミックスに登場です!
いつもながら最高に可愛いもふもふむくむく達と、美味しい食事!
そして、地下洞窟と恐竜達とテイム!
盛り沢山なもふむく第四巻を、どうぞよろしくお願いします!