街へ戻って捌いてもらうぞ!
「おお、今日の釣果もかなりあったんだな。これは素晴らしい」
地面に広がってくれたスライム達の上に並べた本日の釣果を見て、嬉しくなってにんまりと笑った俺だったよ。
今日釣った魚も、料理に使ってくださいと言って皆が全部まとめて進呈してくれたので、俺は遠慮なく頂いてサクラが入った鞄にもらった魚をガンガン突っ込んでいった。
今回は、鯛や鰹、それからトラウト以外にやや大きめのブリとハマチも複数あり、さらには小魚系が大量に上がっていた。
見ると秋刀魚っぽい細長い魚やアジまで釣れていたよ。よし、これは時間のある時に干物にしよう。
それ以外に、明らかにアユと思われる魚や、背中が真っ赤になったやや小さめではあるがニジマスも複数上がっていて、海の魚と淡水の魚を全部まとめるシャムエル様の大雑把さに、もう笑いが止まらない俺だったね。
でもまあ、美味しいのでよし! だね。
「なあ、魚を捌いてもらいたいから、一旦街へ戻りたいんだけど構わないか?」
魚を全部回収したところで日の傾きかけた空を見上げる。
もう雨は止んでいて雲間に少しだけど空が見え始めているので、泥沼だった湖の辺りは早くも砂地に戻り始めている。
「いいですよ。じゃあ一度街へ戻りましょう。それでゆっくりケンさんが作ってくださるお魚料理を満喫したら、改めてカルーシュ山脈の麓へ行けばいいですよね。まあ、また雨が降るようなら様子見ですけどね」
笑ったアーケル君の言葉に、皆苦笑いしつつ頷いている。
まあ、今日も小降りとはいえまたそれなりの時間雨が降った事だし、まだまだ地面はぬかるんでいる所が多いだろう。
言っていたように、郊外で蛇行する川の増水だってそう簡単には綺麗にならないだろうから、水が引くのを待つ為にも、日を置くのは安全上必要だろう。
よし、じゃあその間はがっつり別荘で魚料理を楽しもうじゃあないか! 何なら、別荘にクーヘンやバッカスさん達を招待して刺身と寿司パーティーをやってもいいな。
そんな事を考えてにんまりと笑って頷いた俺は、鞄を背負い直してからマックスの背に飛び乗った。
「ところで、ここって街からどれくらい離れているんだ?」
周囲を見ても全く見覚えのない場所だ。
正直言ってその辺りの地理的な知識が皆無の俺は、シリウスに飛び乗ったハスフェルを振り返ってそう尋ねた。
「そうだな。ここは街からはかなり離れているぞ。まあ、普通の冒険者はちょっと気軽には来れない場所だよ。だが、俺達の従魔なら日が暮れる頃には街へ帰れるから心配しなくていいぞ」
「そうなんだ。了解。じゃあ、頑張って走ってくれよな。頼りにしているからよろしく」
笑ってそう言い、マックスの首の辺りを軽く叩いてやる。
「お任せください! 街までなんてすぐですからね!」
尻尾扇風機状態なマックスがそう言って大きくワンと吠える。
「あはは、久し振りにお前の鳴く声を聞いたな」
もう一度首元を叩いてやったところで、一気に走り出したマックスの手綱を慌てて握り直した俺だったよ。
確かに人っこ一人いない郊外の森を駆け抜け平原を走り、雑木林を越えてまだまだ走る。
途中唐突に駆けっこが始まったりもしつつ、日が暮れる頃に街道に突き当たった。
そのまま街道沿いに並行して走り、街に近くなった所で街道に入った。
そこからは大歓声に苦笑いしながら手を振り返しつつ進み、真っ暗になる直前に無事に街へ入る事が出来たのだった。
今回はギルドへ行きたかったので、貴族用の城門ではなく街へ入るいつもの城門に並んだよ。
無事に街に入った俺達は、そのままギルドへ直行した。
「おや、こんな時間にどうしたんだい?」
丁度カウンターの中にいたエルさんが、俺達に気付いて笑顔でそう言いながら出て来てくれる。
「ええと、郊外で釣りを楽しんできまして、大物がいくつか上がったので捌いて欲しくて来ました。出来れば今夜食べたいので魚の身は全部戻してもらいたいんですけど、今からって……無理ですよね?」
魚食べたさにやって来たけど、冷静に考えて、さすがに夕食に食べたいから今すぐ捌いてくれっていうのはちょっと無茶振りだろう。
今ある材料でも刺身は作れるのでそれでいいかと諦めかけた時、笑ったエルさんが頷いてくれた。
「もちろん構わないよ。今なら魚を捌くのが上手いスタッフがいるからすぐに捌いてくれるよ。で、何が上がったんだい? あれだけの雨の後だから、もしかしてソードフィッシュとか?」
目を輝かせるエルさんの言葉に思わず吹き出し、サムズアップした俺だったよ。
「おお、これは素晴らしい。お待ちいただければ捌きますが、どうしますか?」
エルさんの案内で向かった部屋にはハスフェルに負けないくらいの大柄な男性二人がいて、俺が取り出したカジキマグロと本マグロ、それからギイが釣った一番大きなナマズを見てそう言いながら満面の笑みになっている。他にも全部で十人くらいスタッフさんが集まって来てくれたので、マグロやハマチ、ブリなんかもお願い出来そうだ。
「ええと、こっちの二匹は出来れば今日欲しいんですけど、いけますか?」
カジキマグロと本マグロを指差しながらそうお願いすると、二人は揃ってもうこれ以上ないくらいの満面の笑みでサムズアップしてくれた。
「任せろ。じゃあケンさん達はそっちで待っていてくれるか」
壁面に丸椅子が並んでいる一角があるので、俺達はとりあえずそこに集まって座った。
一応、ここは従魔達立ち入り禁止らしいので、マックス達には建物裏にある広い厩舎へ連れて行った。
まあスライム達は俺の鞄に小さくなって入っているけど、それ以外の従魔達は全員外で待機してもらっている。
「あんなデカい魚。どうやって捌くんだろうな?」
「さすがに見た事ないよ。ここなら見られるからちょっと楽しみだな」
シェルタン君とムジカ君が嬉しそうにそう言って、巨大なカジキマグロをこれまた巨大なまな板の上に引き上げるスタッフさん達を見ていた。
さすがにあの大きさだと人力で持ち上げるのは無理なので、天井からぶら下がった鎖の先についたフックを魚の尻尾とエラの辺りに引っかけて引き上げていたよ。
そして刀みたいな長い包丁を使って、本当にあっという間に手早く解体していった。
うん、マグロの解体ショーを満喫させていただきました。あの大トロの部分、間違いなく美味いやつだよ!
相談の結果、カジキマグロの長い鼻は、展示用の加工をしてから返してもらう事にした。それ以外では、カマの部分も切り分けて返してもらう事にしたよ。
もちろん、身は全部戻してもらうつもりだったんだけど、エルさんに懇願されて赤身の部分を両方ともそれぞれ塊で引き取ってもらう事になった。
まあ、それでもまだまだあるから当分楽しめるよ。
トラウトや鰹、小振りのマグロやブリ、ハマチなんかはスタッフさん達が手分けしてこちらもあっという間に綺麗に捌いてくれた。
トラウトを全部で十匹と、ナマズは一番大きいのをギルドに丸ごと引き取ってもらい、残りは捌いてもらって俺が引き取る事にした。
聞けばナマズは淡白で美味しいらしいし、シャムエル様曰く刺身もいけるらしいので、これも今夜の刺身のメニューに追加するよ。
大量に出来上がった切り身をせっせと収納した俺は、笑顔のスタッフさん達とエルさんに見送られてマックス達を引き連れて別荘へと戻って行ったのだった。
さあ、今夜は刺身パーティーだぞ!