再びの大物狙いだ!
「あ、違うな。カジキマグロを釣った時は、確か毛鉤を使ったんだっけ」
ルアーの付いた釣竿を振って泥沼に投げ入れ、しばらく引いては投げるのを繰り返していた俺は、不意に思い出して苦笑いしながら小さくそう呟いた。
確かルアーで釣ったのは、大物のナマズだったはずだ。
ちなみにあのナマズはさすがの俺でも捌いた事がないので、あれはカジキマグロと一緒にギルドに捌いてもらうようにお願いするつもりで、サクラに収納してもらったままになっている。
「ううん、どうするかね。あの毛鉤は確かかなりデカかったし、今使っているルアーよりも針自体も大きかったよな」
全く当たりがなくて引き戻した泥に塗れたルアーを見て小さくそう呟く。
『なあギイ、釣竿を変えさせてもらってもいいか?』
周りを見回し、意外に近い場所にギイを見つけてこっそり念話でお願いしてみる。
『おう、別に構わないぞ』
突然の俺の念話に驚いたようにギイがそう言い、こっちを振り返る。
「アクア、悪いけどギイのところまで行ってくれるか」
足元のスライムカヌーを軽く叩いてそうお願いする。
「はあい、了解で〜す!」
アクアのご機嫌な声が返り、スライムカヌーがスルスルと動いてギイの乗るスライムカヌーの横にくっつく。
「どれにする?」
「ええと、この前カジキマグロを釣った大きめの毛鉤がいいんだけど、あるかな?」
もう誰かが借りている可能性も考えたんだけど、俺の言葉に頷いたギイが、少し考えて見覚えのある釣竿を出してくれた。
「ほら。多分、これだったと思うぞ」
「ああ、そうそう。これだよこれ。ありがとうな」
使っていたルアーの付いた方の釣竿を返して、毛鉤の付いた釣竿を受け取る。
「頑張って大物を狙ってくれよな」
「おう、頑張るぞ! ついでに、目指せ三連覇だ!」
笑った俺の言葉にギイが吹き出す。
「早駆け祭りの三連覇は夢と消えたからな。じゃあ釣り大会三連覇を狙うとしようか」
予想外のギイのツッコミに、堪える間も無く吹き出した俺だったよ。
「よし、じゃあ頑張ってみるか」
元の場所に戻って毛鉤の付いた竿を振った俺は、小さくそう呟いて笑うとそこからまた毛鉤を引いては投げ込むのを繰り返した。
しかし、小雨が降る中誰の竿にも当たりはなく、時間だけが過ぎていく。
陸側にやや小さめの魚が二度上がっただけで、湖チームには当たりすら来ない。
「ううん、ここでも三連覇は夢かなあ」
苦笑いしながら、もう何度目か数える気もない釣竿を引いてまた投げ込む。
「うおお! いきなり来たぞ!」
ぼんやりしていたせいで、もう少しで竿ごと持っていかれるところだったよ。
いきなりの大きな当たりに慌てて竿を握り直す。
ちなみに、当たりが来た瞬間にアルファとサクラがググッと伸びて一瞬で釣竿を包み込んでくれたおかげで、竿を持っていかれずに済んだんだよ。危ない危ない。
「あはは、ありがとうな。じゃあ頑張ってみるか!」
苦笑いして竿に巻きついているサクラを撫でてから、そう言った俺はゆっくりと竿を引いた。
大きくしなる竿を見て、周りから歓声が上がる。
「これはデカいのがきたな。頑張れ!」
「うわあ、またケンさんに当たりが来た! いいなあ」
陸側からも歓声が聞こえて手を振ろうとしたんだけど、予想以上の強い引きに手を離す余裕が全くない。
「おいおい、どれだけ強い引きなんだよ」
呆れたようにそう言いつつ、必死で足を踏ん張って引いては緩めるのを繰り返した。
「ご主人、準備出来ているからいつでも上げてね! 竿はしっかり守ってま〜〜す!」
「泥の上に上げてくれたら、アルファ達が確保するからね〜〜〜!」
アルファとサクラの声が聞こえて、頷いた俺はタイミングを合わせて力一杯竿を引いた。
ググッと大きくしなった竿が、跳ねるようにして一気に上がる。
「うわあ、マグロ来た〜〜〜!」
来てくれたら嬉しいとは思っていたけど、飛び跳ねたシルエットは綺麗な流線型をした形で、あれは見覚えがある。
そう、上がったのはまさかの本マグロだったよ。
その巨体の重量も加わり、振り上げた勢いそのままにこっちに向かってまっすぐに吹っ飛んで来る超巨大なマグロを見て、割と本気で身の危険を感じた俺だったよ。
「確保しま〜〜す!」
場違いなくらいにのんびりとしたサクラとアルファの声が聞こえた直後、もう俺の顔の直前まで来ていた本マグロが一気にアルファとサクラに包み込まれる。
「ぶわあ!」
しかし、吹っ飛んでくる勢いまではさすがに止められなかったみたいで、思いっきり顔面にヒットしてひっくり返る俺。
まあ、マグロがマトモに当たったわけではなかったので、俺の顔にはスライムのポヨンとした感触があっただけで痛くもなんともなかったんだけどさ。
「ご主人、大丈夫ですか?」
「ごめんねご主人。ちょっと勢いがつき過ぎて止められませんでした〜〜!」
一瞬で広がったサクラとアルファが、俺も一緒に包み込んでから起き上がらせてくれる。
「お、おう。ありがとうな。ちょっと驚いただけで痛くも痒くもないよ」
なんとか起き上がったところでそう言い、笑いながら側にいたアルファを撫でてやった。
「おお、これはまた数百キロクラスだな。よしよし、これで当分の間お刺身三昧だ。あ、アラで煮付けとかカマ焼きとかも出来るぞ」
泥を取り除かれて綺麗になった巨大な本マグロを前に、もう何を作ろうか考えて笑いが止まらない俺だったよ。
って事で、結局釣り対決は俺達の三連覇で幕を閉じたのでした。
よし! 早速街へ戻ってギルドにマグロとナマズを捌いてもらおう!
でもって、刺身パーティーだ!