魚料理は大人気?
「へえ、生の魚って初めて食べたけど、案外美味しいなあ」
「確かにこれは美味しい。どうしてもっと早くやらなかったんだろう」
「ケンさん! こんな美味しい料理を内緒にしていたなんてずるいです!」
海鮮巻きを食べた草原エルフ三兄弟の言葉に、大爆笑になる一同。
「気に入ってくれたなら良かったよ。一応言い訳すると今までは新鮮な生魚が手に入らなかったからさ。売っている魚は釣ってからそれなりに時間が経っているから、生で食べていいかの判断がつかなかったんだよ。だけど自分で釣った魚なら間違いなく新鮮だろう?」
笑ってそう言い鯛の握りを口に入れた俺を見て、笑って頷いたアーケル君達もお皿にあった握り寿司をそれぞれ醤油を少しだけつけてから口に入れた。
一応、食べやすいように握りのシャリは少なめにしてあるからリナさんやレニスさんでも一口サイズだ。
ネタはたくさんあるから、まずは一通り食べてもらいたいからね。
どうやら、本当に全員が生魚も平気だったみたいで、あっという間に大量に用意してあった握り寿司も駆逐されていく。
最初にガッツリ取っていた俺は、皆が嬉々としておかわりを取り始めたのを笑顔で眺めていたのだった。
「ううん、お寿司には吟醸酒が合いますね。これは良い」
ハスフェル達が追加で出した吟醸酒を飲んだランドルさんが、驚いたようにそう言い手酌でおかわりを注いでいる。
「ええ、そうかな? 俺はビールの方が合う気がするけどなあ」
隣では、また追加で山盛りに取ってきた巻き寿司各種を食べていたボルヴィスさんが、そう言いながら冷えた白ビールの入ったグラスを軽く上げて見せている。
「まあ、これはもう好みだと思うから好きなのを飲めばいいって。ちなみに俺も寿司には吟醸酒が合うと思いま〜す!」
そう言った俺が今飲んでいるのは、バイゼンの街のあの和食屋さんで西京漬けを引き取りに行った時に追加で買った米のお酒のうちの一つで、一応吟醸酒ではあるんだけどそれほど酒精が強いものではないから割と気軽に飲める、俺のお気に入りの一本だ。
「吟醸酒や純米酒って、割とキツイのが多いから避けていたんですけど、ケンさんってお酒はそれほど強くありませんでしたよね。大丈夫なんですか?」
こっちを見たレニスさんに心配そうにそう言われて、笑いそうになったのを必死に堪えた。
「まあ確かに、俺はハスフェル達ほどはお酒に強くはありませんね。でも一応それなりには飲めますよ。それにこの吟醸酒や純米酒は、俺が故郷にいた頃に飲んでいたお酒に近い味なんですよね。なので俺的には、この吟醸酒や純米酒は故郷の味のお酒って感覚なんですよ。まあ、さすがにあまり酒精の強いのは食事と一緒の時ではなく、のんびり飲む時にしていますけどね」
「ああ、故郷のお酒に近い味なら、それは納得です」
笑った俺の答えに、レニスさんも納得したらしく机の上に置かれていた吟醸酒を手にした。
「じゃあ、私も少しだけ飲んでみようかな」
「あ、それなら俺も飲んでみたい」
レニスさんの隣に座っていたシェルタン君の言葉にムジカ君が黙って立ち上がり、新しいグラスを三つ取って来てそっと差し出した。
「俺も飲んでみたいから入れてください。お願いします」
「はあい、じゃあ少しずつね」
笑ったレニスさんがそう言って並べられたグラスにゆっくりとお酒を注ぎ入れる。
少量注がれたグラスを手にした三人は、笑顔で乾杯してからぐいっと一気に飲み干したのだった。
「うわあ、美味しいけどキツい!」
「確かにキツイ!」
「お、お水ください!」
シェルタン君とムジカ君の悲鳴のような感想の後に、顔をしかめたレニスさんがグラスを置いて慌てたようにそう叫ぶ。
左右から即座に水の入ったグラスが差し出され、三人は慌てたようにそれを飲み干していた。
「おいおい、いくら少量とはいえ、酒精はそれなりに強い酒なんだからそんな一気に飲むなって」
横で見ていたアルデアさんの呆れたような言葉に、揃って苦笑いする三人だった。
結局、あれだけ大量に用意した握り寿司も巻き寿司各種もほぼ駆逐されたところで、夕食は無事に終了となった。
皆からは、本当に美味しかった。また作ってください。他の魚料理も食べてみたいと大好評だったので、もう次に何を作ろうか考えている俺だったよ。
「ええと、何から作るかねえ……海鮮丼はあれだけの種類の具材があればすぐに作れるな。鰹があるから、周りを軽く焼いた鰹のタタキなんかも簡単に作れるだろうし、街へ戻ってあのカジキマグロを捌いてもらったら、改めてマグロメインの刺身パーティーをしても良さそうだな。あ、マリネとかカルパッチョなんかも作れるな。それなら日々のメニューと合わせても大丈夫そうだ。鍋料理ならブリしゃぶなんかも出来るな。小さいけどエビも手に入った事だし、海鮮メインでちゃんこ鍋とかも良さそうだな」
指折り数えながら小さな声で何を作ろう考えていた俺は、一つ深呼吸をして顔をあげたところで全員の大注目を浴びていることに気づいて飛び上がった。
「ぜひ作ってくださ〜〜い!」
全員揃った叫びにもう一回飛び上がった俺は、もう遠慮なく吹き出して大爆笑しながら両手でサムズアップして見せたのだった。
いやあ、そんなに皆が魚料理を気に入ってくれて、魚好きな俺は嬉しいよ。
ぜひともこの世界の人達にも、美味しいお寿司や海鮮丼なんかを食べてもらいたいもんだね。
「生魚を食べる布教活動でもしてみるか。まずはクーヘン達やバッカスさん達もお招きして、別荘で寿司パーティーでもやってみるかな」
大喜びで拍手をしている皆を見て、ふとそんな事を考えた俺だったよ。
よし、とりあえず材料調達の意味も込めてもう一日頑張って色々釣ってみよう。それなら明日は、俺は湖側で釣ってみるかな。




