釣りの開始だ!
「おお、綺麗に晴れたなあ」
マックスの手綱を引いて外に出たところで、綺麗に晴れ渡った青空を見上げて思わずそう言って思いっきり伸びをした。
降り続いた雨がようやく止み、久々の外出に従魔達もご機嫌だ。
全員が従魔達を引き連れて外に出たところでしっかりと扉の鍵をして、鍵を収納してから尻尾扇風機状態なマックスの首元を叩いてひらりとその背に飛び乗る。うん、久々の高い視野だよ。
全員がそれぞれの騎獣に飛び乗ったところでハスフェルとギイを先頭になんとなく列になって進み、並足ぐらいの速さで別荘地を抜けて街の外に出る。
街道を少し進んだところで街道から離れて草地を一気に走り出す。
ニニ達も今日はマックス達に負けないくらいの速さで、ご機嫌で一緒に走っているから、やっぱりずっと別荘に閉じこもっていて外に出られなかったのでストレスが溜まっていたんだろう。
吹き抜ける風に目を細めた俺も、大きく深呼吸をして走るマックスの上で笑って手綱を握りしめたのだった。
「おお、確かに足元は相当まだぬかるんでいるみたいだな。大丈夫か?」
確かに、聞いていた通りに一見綺麗に見える草原も足元は相当ぬかるんでいるらしく、全力疾走するマックス達の足元や腹側は、走った際に跳ねる泥に汚れて酷い有様だ。脚の先にも泥の塊がこびりついている。
ちなみに、かなり上まで跳ねた泥のせいで、俺の靴やズボンもかなり汚れている。若干沁みてきた水分が不快だ。これは、後でスライム達に綺麗にしてもらおう。
「この程度なら走るのに支障はありませんのでご心配なく。後でアクア達に綺麗にしてもらいます」
ご機嫌なマックスの言葉に俺も笑って頷き、さらに加速するマックスの背の上に体を伏せたのだった。
しばらく走って止まったのは、かなり大きな湖のほとりから少し離れた広い場所で、足元は綺麗な芝生みたいな短い丈の草地になっている。
背後と左右は雑木林に囲まれていて、ここだけぽっかりとサッカー場くらいはありそうな広さの草地になっているので、確かにここならテントを張ったり机を出しても大丈夫そうだ。
遠目に見える大きな湖の手前側は、ほぼ全て泥沼状態。多分、湖まで100メートルくらい余裕でありそうだ。
しかも、草地と泥沼の境目がいまいちよくわからないので、これはマジで怖いぞ。
「ご主人、降りるのはちょっと待ってね〜〜地面を綺麗にしま〜〜す!」
ビビりつつマックスの背から降りようとしたところで、鞄から飛び出してきたアクア達に止められた。
「あれ、もしかしてここの草地もぬかるんでるのか?」
上から見る限りそうは見えないけど、確かに改めて見るとマックスの足が若干芝生に埋まっているみたいに見える。
「うん、この辺りも水浸しになってるよ〜ちょっと待っててね!」
そう言って鞄から出てきたスライム達が、コロコロと地面に落ちて転がっていく。
全員の連れているスライム達が同じように地面に転がり、跳ね飛んではビヨンと伸びて地面を草ごと覆っている。
見ていると、伸びた時にスライム達の体が一瞬だけ茶色くなっているので、多分、地面の水分を吸収してくれているのだろう。
「お待たせ〜〜〜」
「もう大丈夫だよ〜〜」
「後ろと左右は木のある手前側までの草地が安全地帯で〜す!」
「池側には石を並べておきました〜〜!」
「石のある所までが安全地帯で〜〜す!」
「そこから向こうは底なし沼だから気をつけてね〜〜」
「万一落っこちたらアクア達がお助けしま〜〜す!」
「サクラ達は底なし沼もへっちゃらで〜す!」
絶対ドヤ顔になっていると思われる声でビヨンと伸びたアクアやサクラ達がそう言い、他の子達も同じように伸びたり跳ねたりしている。
「おお、お前らは底なし沼も大丈夫なんだ。じゃあ万一落ちたらよろしくな」
笑って側に来たサクラを撫でてやりつつ、フラグを自分で立てた気がしてちょっと遠い目になった俺だったよ。
うん、絶対にあの石が並んでいる向こうへは行かないようにしよう。
小さく深呼吸をした俺は、心の中でそう誓ってからマックスの背から飛び降りて並ぶ白い石を見たのだった。
「じゃあ、どれでも好きなのを使ってくれ」
笑顔のハスフェルとギイがそう言い、かなり長めの釣り竿を何本も取り出して並べてくれる。
前回と同じでフライフィッシングスタイルみたいだが、ついている毛針のサイズがおかしい。
大物って言うからサーモンとかトラウトみたいなのが釣れるのかと思っていたけど、もしかしてカジキでも釣るつもりか?
脳内で思いっきり突っ込みつつ、どれを使おうか選び始めた。
どうやら新人コンビとレニスさんやマール達、それからリナさん一家も釣り竿を持っていなかったらしく笑顔で集まって来たので、一緒に相談しながらそれぞれ好きなのを選んだ。
俺は、やや長めの尻尾みたいな羽の仕掛けが付いたのを選んだ。
ギイの説明によると、この長めの羽が付いている毛鉤は食いつきがいいらしく、結局俺だけじゃなくてほぼ全員がそんな感じの仕掛けを選んでいたよ。
「じゃあ、ちょっと離れて釣るとするか。ああそうか。これだけ広いのならこんなやり方もあるな」
嬉々として散らばる仲間達を見た俺は、不意にある事に気がついてにんまりと笑った。
石の手前ギリギリに立って釣りをするより、絶対にこっちの方が安全な気がする。
「なあ、こういうのって出来るか?」
足元に転がっていたアクアを手の上に乗せて小さな声で聞いてみる。
「もちろん出来るよ〜〜!」
「釣ったお魚の確保もお任せください!」
張り切ったアクアがそう言うのと同時に、地面に転がってビヨンと伸びてやや幅広の船の形になってくれる。
その直後に、近くにいたサクラとアルファとゼータが、それを見て船になったアクアの上に飛び乗ってきた。どうやらサクラ達が釣った魚の確保をしてくれるらしい。
「おお、素晴らしい。じゃあよろしくな」
船のヘリの辺りをそっと撫でてから釣り竿を手にした俺も、いそいそとアクア船に乗り込んだ。
「では出発しま〜〜す!」
得意げなアクアの声がした後、スルスルと進んでそのまま石を乗り越えて泥沼の上を進み、湖まで行ってUターンしてくれた。
これで俺は、船の上から釣りが出来るわけだ。
「お前、最高だな!」
それを見たハスフェルとギイ、それからオンハルトの爺さん、ランドルさんとボルヴィスさんとアルクスさんが同じようにスライム船に乗ってこっちへやって来た。
人数が減った陸側でもそれを見て大爆笑になっている。
しばらくしてアーケル君がスライム船に乗ってこっちへやって来た。
「ねえ、湖側と陸側で釣り対決しませんか? 釣った数と大きさの両方で! 俺がこっちに入ります。向こうの方がまだ人数が一人多いですけど、別にいいですよね?」
「その提案乗った!」
俺とハスフェル達の声が重なり、笑顔で頷き合う。って事で、ここからは湖側対陸側での釣り対決となった。
「よし、目指せ大物だな!」
「おお〜〜〜!」
俺の声と同時に全員の声が重なり、釣り対決が始まったのだった。




