久々の外出と今日の目的地?
「やっと晴れましたね! じゃあ出かけましょう!」
ようやく晴れたその日の朝、窓の外の青空を見上げたアーケル君の嬉しそうな声に、食事を終えた俺達も笑顔で声を上げた。
「それで何処へ行くんだ? 早速、カルーシュ山脈のふもととかへ行っちゃう?」
実を言うと、ずっと雨で引きこもっていたので、従魔達だけじゃあなくて俺のストレスも溜まっているから出来れば郊外へ出たい。それで、誰もいない広い場所でマックスを思い切り走らせてやりたい気分だ。
しかし、そんな俺の言葉に顔を上げたハスフェル達は、こっちを見てから苦笑いして揃って首を振った。
「まあ、郊外へ出て思いっきり走りたい気持ちは分かるが、まだしばらくはあまり遠出をしないほうがいい。今日のところは準備運動を兼ねて近場でジェムモンスター狩りをするぞ」
予想外の言葉に、思わず目を見開く。
だけど、彼らがこんな風に断定する言い方をする時って、必ずちゃんとした理由がある時なんだよな。
「ええと、理由を聞いていいか?」
俺がそう尋ねると、ハスフェル達以外の全員が驚いたように揃ってこっちを振り返ったのだ。
「ケンさん。早く行きたい気持ちは分かりますが、あれだけの雨が降った後ですから迂闊に遠出するのは危険ですよ。足元だってぬかるんでいるだろうし、川だって絶対に増水していますから、いつも以上に危険ですよ。まあ従魔達に乗っていればぬかるみはそれほど気にしなくてもいいでしょうが、戦う際の足場はかなり悪くなりますから、普段以上に慎重に動かないと」
若干呆れたようなアーケル君の言葉に、ハスフェル達も苦笑いしつつ頷いている。
成る程。確かにその通りだ。
その辺りの考え方って、どうしても以前の世界の感覚をまだ引きずっている俺は、その説明に納得したよ。
確かにあれだけの長雨の後だから、間違いなく川の水は増水しているだろう。街の近くの川はある程度の治水や護岸工事が行われているが、郊外へ出れば当然だけど全くの未整備。蛇行する川は増水すれば容易にあふれる。
もしかしたら、川の水があふれたままでまだ水浸しになっているところだってあるかもしれない。
以前、ハスフェルと二人で行動していた頃に教えてもらった、池の周囲にある砂場なんかも、水を得て眠っていた魚達が復活しただろう。
それに、あれだけの長雨の後だからすぐに砂場の水だって引いておらず、もしかしたら底なし状態の砂場なままになっている場所だってあるかもしれない。
うっかりそんなところに足を踏み入れたりしたらもう……。
無警戒に足を踏み入れてしまい、悲鳴を上げつつズブズブと沈んでいく自分の姿があまりにも容易に想像出来てしまい、乾いた笑いをこぼした俺だったよ。
「確かにその通りだな。ええとじゃあ何処へいくんだ?」
近郊なら、魔獣使い達の講習の時に何度か行っているから、その辺りだろうか。
「そうだなあ。せっかくだから新人達がまだ行っていない場所へ行ったほうがいいだろう。そうなると……何処へ行く?」
最後はハスフェルとギイが顔を見合わせるようにしてそう言い、地図を取り出して顔を寄せて話を始めた。
それを見て、ボルヴィスさんとアルクスさん、それからランドルさんも加わって相談を始めた。
上位冒険者である彼らは、郊外のジェムモンスターの出現場所をある程度把握しているから、その情報のすり合わせをしているのだろう。
まだまだその辺りは新人同然な俺は、大人しく彼らの相談が終わるのを待っていたよ。
途中からはリナさん一家も加わり、何やら楽しそうに話をしていた。
で、しばらく待ってようやく話がまとまったらしく揃って拍手をしていた。
「それで、何処へ行くんだ?」
やる気満々で今にも走り出しそうなマックスをなだめつつそう尋ねると、振り返ったハスフェル達が揃って笑顔になった。
「まずは、釣りに行こう。幾つか例の砂場があってマッドフィッシュが出ている。これだけの長雨の後なら、間違いなくすぐには乾かないからな。貴重な、晴れた日のマッドフィッシュ釣りが出来るぞ」
釣りをする振りをするハスフェルの言葉に納得して俺も拍手をした。
「ええと、俺は釣竿を持っていないけど、また貸してくれるか?」
前回は、確かハスフェルに釣竿を貸してもらったんだっけ。
「おう、色々持っているから好きなのを使うといい。今回は大物が出るところへ行くから、以前使ったのよりも太くて長い釣竿を使うぞ」
何やら妙に張り切った声でそう言われて、ちょっと嫌な予感がした俺だったよ。
『こっちの世界で、大物? ええと……それって、俺が釣っても大丈夫なんだろうな! 迂闊に釣り上げたら、逆に引っ張られて底なし沼に引き摺り込まれるなんて、絶対にごめんだからな!』
思わず念話で確認すると、何故かハスフェルとギイに大爆笑された。
うん、これは絶対に色々と大変な事になるやつだ。
釣りは程々で楽しもうと、密かに誓った俺だったよ。