スライムトンネルとイチゴ狩りの開始!
「ほら行くぞ」
呆然と固まっている全員を見て、笑った俺はスライムトンネルをそっと叩いた。
「俺達の従魔のスライム達だぞ。これくらいで驚くなって」
「いや、お前。これくらいって簡単に言うなよ……」
「そうですよ……さすがにこれは……」
呆然としたままのハスフェルとアーケル君がそう言うが、それ以外の全員はまだ固まったままだ。
うん、お願いだから瞬きくらいはしてくれ。見ているこっちの目が痛くなるよ。
「ご主人どうぞ〜〜!」
「濡れないようにしました〜〜〜!」
「あ! ご主人にはちょっと狭そうだね」
「じゃあもう少し大きくなりま〜〜す!」
嬉々としたスライム達の声が聞こえた直後、ググッとトンネルの背が高くなりやや楕円になる。
これで高さは2メートルを余裕で越えたので、背の高いハスフェル達でも余裕で歩ける高さになったよ。
恐らく、さっきの声はハスフェルかギイの連れているスライム達の声だったんだろう。
スライム達の声はよく似ているので、さすがの俺でも今の声だけではどの子の声なのかを聞き分けられなかったよ。
「何してるんだよ。ほら行くぞって」
もう一度笑ってそう言った俺がハスフェルとギイ、それからオンハルトの爺さんの腕を軽く叩いてやると三人が揃って大きなため息を吐いた。
「そうだな。今更だな」
笑ったハスフェルの言葉に、ようやく瞬きしたリナさん達が揃って歓声を上げ、その後にようやく我に返った残りの全員の悲鳴と歓声が重なったのだった。
「じゃあ、一番に通らせてもらおうっと」
全員がようやく我に返ったのを見て笑った俺が、そう言ってスライムトンネルに駆け込んでいく。
「おお、これはなかなか見ない眺めだぞ」
歩きながら頭上を見上げて思わずそう呟く。
何しろ外は土砂降りの雨なんだけど、スライムトンネルの中は完璧に守られているので当然だけど全く濡れない。
しかもトンネルの上半分をレインボースライム達が、そしてトンネルの下半分をメタルスライム達が構成してくれているので広い視野が確保されているんだよな。
ちなみに一体ごとに紋章はあるし、レインボースライム達の色がついているので完全な透明のトンネルってわけではないんだけど、それでもなかなかにこれは珍しい眺めだ。
まあ、前世でならこんな光景も珍しくはなかったけど、こっちの世界では、よく考えたら温室以外で天井が透明になっている部屋って無かった気がする。
ましてや通路の天井が透明なんて、当然だけど見た事も聞いた事も無いよ。
当然、スライムトンネルに入ったところで頭上を見上げた俺以外の全員が、またしてもポカンと口を開けて立ち止まって固まっている。
まあ、彼らにしてみればこの透明な屋根越しに雨の降る光景を見るなんて、人生初の経験だろうからな。そりゃあ驚きもするか。
そう考えて笑った俺は、固まったまままたしても動かなくなった彼らをそのままにして、さっさとスライムトンネルの中を進み、温室へ向かったのだった。
「おお、ちゃんと温室の扉まで開けてくれてあるのか。ありがとうな」
扉を押さえてくれていたアーケル君の紋章がついた赤いスライムの辺りをそっと撫でてやりながらそう言うと、プルプルとスライムトンネルが震えて得意そうな声があちこちから聞こえてきた。
「ちゃんと押さえてま〜す!」
「雨に濡れると気持ちいいんだよ!」
「でもご主人達は濡れたくないんだよね!」
「だから濡れないようにしたよ〜〜!」
「ご主人はどうぞイチゴ狩りを楽しんでくださ〜〜い!」
「イプシロン達が守ってるからね〜〜!」
「あはは、ありがとうな」
笑ってそう言った俺は、そのまま温室の中に入り手前側のイチゴポットを見た。
「おお、イチゴポットが幾つか変わっているぞ。って事は俺達が留守の間にイチゴポットを交換してくれたのか。へえ、凄いなあ」
入って広い温室を見回した俺は、ふとある事に気がついて思わずそう呟いた。
二列のイチゴポットが奥までずらっと並んでいるのは以前と同じなんだけど、明らかにイチゴポットのいくつかが変わっている。
イチゴポットの色や形、大きさや背の高さが微妙に違うのだ。
「うわあ、だけどまたどのポットもイチゴが鈴なりになってる。じゃあ、俺は真ん中を行くぞ!」
張り切ってそう宣言して真ん中の通路に足を踏み入れた俺は、手前側にあった真っ赤なイチゴを一つ掴んでちぎり、大きな口を開けてかぶりついた。
「甘い! うわあ、なにこれ、めっちゃ美味しい!」
大粒のイチゴがびっくりするくらいに甘くて、思わず声を上げる。
『では、私達もこっそりイチゴ狩りに参加させていただきますね』
笑ったベリー達の嬉しそうな声が聞こえて、揺らぎが奥の方へ向かって駆け出して行った。
「おう、お好きなだけどうぞ」
揺らぎに向かって小さな声でそう言った俺は、一つ深呼吸をしてからスライムトンネルを振り返った。
まだ誰もここまで来ていない。って事は、全員揃って固まったままかよ。
「おおい、いい加減に帰ってこいよ〜〜!」
大きな声でそう言ってやると、小さな笑い声が聞こえてきたのでやっと我に返ったみたいだ。
「じゃあ、遠慮なく食べさせていただきま〜〜す!」
笑った俺が大きな声でわざとらしくそう言ってやると、トンネルの奥から笑い声と悲鳴が聞こえて、すぐに皆が温室へ駆け込んできた。
ハスフェル達と顔を見合わせて揃って吹き出し、笑って手を叩き合ってからそれぞれ好きな列に駆け込んで、そこからは心ゆくまでイチゴ狩りを楽しんだのだった。