いちご狩りとスライム達の新技!
「ええと、一休みしたらイチゴ狩りに行かないか?」
なんとなく食後のまったりとした時間が流れていたところで、俺はそう言って扉を指差す。
「ああ、もしかしてまだあるんですか?」
「嬉しいです! ぜひやらせてください!」
目を輝かせるムジカ君とシェルタン君の横ではレニスさんも嬉しそうに目を輝かせているし、イチゴ狩りと聞いてアーケル君やランドルさん達も嬉しそうにしている。
「へえ、いちご狩りですか。って事は、ここは温室があるんですか。それは素晴らしいですね」
マールとリンピオは、イチゴ狩りを知っているみたいだし、説明する前からここに温室があるのだと分かっていたよ。さすがは元貴族だね。
「おう、めちゃデカい温室があるんだ。イチゴ狩りなら温室の中だから、もし雨が降っても大丈夫だろうからな」
天気が崩れると言っていたハスフェルの言葉を思い出してそう言っておく。
まあ、ここから温室までは屋根がないから最悪少しくらいは濡れるかもしれないけど、俺達にはスライムという有難い従魔がいるんだから、少々濡れたぐらいなら問題にはならないよ。
って事で、全員揃って温室へ移動する事にした。
一応確認したら、従魔達にも天気が悪くなるのが分かるらしく、今日はもう外には行かないんだって。
なので従魔達には、このままここでもふ塊になって寛いでいてもらう事にしたよ。
「でもその前にちょっとだけ〜〜〜!」
笑いながらそう言って、両手を広げてもふ塊の上に飛びつく。
「ご主人捕まえた〜〜〜!」
張り切ったマニに確保されてそのままもふ塊の中へ沈んでいく。
「俺も〜〜〜!」
「俺も入れてください!」
「私もお願いします!」
「そんな事言うなら、俺だってお願いしま〜〜す!」
俺がもふ塊の海に沈んだのを見た新人コンビとレニスさんが慌てたようにそう叫び、アーケル君の叫ぶ声がそれに続いた。
従魔達の喜ぶ声も聞こえたから、皆もふ塊に飛びついたんだろう。
笑ったランドルさん達やリナさん達の声も聞こえたし、ハスフェル達まで笑う声が聞こえたから、どうやら全員揃ってもふ塊の海に沈んだみたいだ。
気付けば張り切った従魔達が全員巨大化してさらにもふ塊が巨大化していて、もう俺達は全くの無抵抗で、笑いながら歓喜の悲鳴を上げて、巨大化した従魔達に襲われてもふ塊の海に沈んでいったのだった。
って事で、俺達が解放された頃には、すっかり昼の時間を過ぎていたよ。
「あはは、じゃあイチゴ狩りの前に昼食だな」
結局、全員が解放されたところでさあ行こうとしたんだけど、ハスフェル達が揃って腹が減ったと言い出したのでイチゴ狩りの前に先に昼食を食べる事にしたよ。ってか、どれだけの時間従魔達と遊んでいたんだって。
何か作るほどの時間も無いのでここは作り置きを色々と出したら、皆もそれぞれに手持ちの料理を色々と出してくれたのでなんだか凄く豪華な昼食になったよ。
一応、俺はイチゴが入る分を確保するためにセーブして食べていたけど、俺以外の全員が嬉々として山盛りの料理をいつも通りに平らげていた。
いつも思うけど、本当にこの世界の人たちの食べる量はおかしいと思う。絶対に初期設定がバグっていると思うぞ。
それに小柄なリナさんやアーケル君達も、あれだけ食べても全然体型が変わらないんだよな。
シャムエル様と同じで、食べた分何処に入ったんだよ? って真顔で突っ込みたくなる俺は、間違っていないよな!(断言!)
脳内で突っ込みつつ、岩豚トンカツを齧るシャムエル様の尻尾をこっそり突っついた俺だったよ。
「さてと、それじゃあ今度こそ行くとするか」
食後の緑茶を飲み干した俺の言葉に、あちこちから元気な返事が返り皆立ち上がった。
「じゃあ、お前達はここで留守番だな」
巨大もふ塊に向かってそう言ってから、揃って部屋を後に玄関へ向かった。
しかし、玄関の扉を開けたところで揃って目に飛び込んできた光景に、俺達は全員揃って絶句する事になったのだった。
「うわあ、土砂降りじゃん」
思わずそう呟いた俺の言葉の後に、あちこちから同じような声が上がる。
朝は確かに曇ってはいたけど、雨なんて降っていなかった。
確かに、お天気が下り坂だとは聞いていたけど、まさかこんなに早く降るとは。
土砂降りの空を見上げて、揃って大きなため息を吐く。
「仕方がない。ここは久し振りのレインコートの出番だな」
もう一回ため息を吐いた俺の呟きの直後、鞄からアクアがするりと出てきて俺の腕にくっついた。
「ねえご主人、イチゴのある温室へ行きたいんだよね?」
「おう、そうなんだよ。だけど雨が降っているからレインコートを着ないとな。さすがにこの雨の中を出て行ったら。服の中までびしょ濡れになっちゃうからさ」
まあ、いざとなったらスライム達がすぐに綺麗にしてくれるんだけど、好んでびしょ濡れになる趣味はない。
苦笑いしながらそう言うと、納得したみたいにビヨンと伸びたアクアが床に転がった。
「じゃあ、アクア達がお助けするね〜! 皆集合〜〜〜!」
アクアの呼びかけに、俺の鞄からスライム達が次々に飛び出してくる。
それだけではなく、全員が連れているスライム達が全員跳ね飛んで集まってきたのだ。
「どうぞご主人!」
そして伸び上がったアクアの声の直後、スライム達が次々に外へ跳ね飛んで行き、なんとビヨンと伸びてトンネルを作ってくれたのだ。トンネルは建物の横をぐるっと迂回して裏庭まで続いている。
「おお、すっげえ! これなら濡れずに温室まで行けるな!」
俺は手を叩いて大喜びしながらそう言ったんだけど、俺以外の全員は、揃ってポカンと口を開けて突然出来上がったスライムトンネルを呆然と見ていたのだった。
おいおい、俺達のスライムだぞ。これくらいで驚いてどうするんだって。