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地図と家具屋

 ジェムの精算をした俺は、精算部屋を出ようとしてふと思い出した。

「あの、ちょっと教えて欲しいんですが……」

 振り返る俺に、ジェムの入ったトレーを手にした爺さんが顔を上げてくれた。

「俺、実はちょっと事情があって、人のいる所に出て来たのが初めてなんですよ。この辺りの地理に詳しくなくて……それで、地図って有りますか?」


 そう、ここへ来た時から思ってたんだよ。出来れば簡単なものでも構わないから、大まかな地理が分かる地図が欲しいなって。

「ああ、お前さんの噂は聞いとるよ。樹海出身ならまあそうだろうな。この街周辺の詳しいのと、この国の地図なら、ギルドの受付で売ってるから聞いてみると良い」


 おお、やっぱりギルドでなら売ってた。よしよし。


「ありがとうございます。じゃあ、受付で聞いてみます」

 お礼を言って、俺は受付のある広い部屋へ戻った。


 受付に戻った俺達は、最初ほどじゃ無いが、やっぱり大注目を集めてる。

 うん、もうこの大注目にもだんだん慣れてきたよ。


 受付の窓口の上にある案内板を見る。

 買取り受付、新規登録受付、各種依頼受付、その他各種相談受付。地図は……その他かな?


 分からないが消去法で、一番端の誰もいない窓口をのぞく。

「はい、何のご相談でしょうか?」

 愛想の良さそうなお姉さんが座ってくれた。

「あの、地図が欲しいんですが、窓口で聞けって言われまして……」

「はい、販売してますよ。この街周辺のものと、この国の地図のどちらになさいますか?」

「両方ください」

 元々持ってた革の巾着を鞄から取り出す。

「こちらが銀貨一枚、こちらが銀貨二枚になります」

 もっと高いかと思ったが、案外良心的な値段……だよな?

 とにかく、銀貨三枚払って大小二枚の紙を貰った。小さい方がA3用紙より少し大きいぐらいで、大きな方は、新聞紙半分くらいだった。

 折りたたんで、地図はひとまず鞄に入れておく。後でじっくり見てみよう。

 見送ってくれる受付の人に手を上げてギルドの建物を出る。

 まずは、さっき見かけた雑貨屋があった通りに行ってみることにした。



「この辺だな。おお、早速水筒発見」

 駆け寄った雑貨屋っぽい店には、丁度良い大きさの水筒が並んでいたのだ。

 早速、その水筒を一つ購入。受け取った水筒を鞄に入れて、順番に周りの店を見て回る事にした。

 あ、家具屋っぽい店がある!


 駆け寄った俺は、しかしちょっとがっかりした。

 大きな椅子や机ばかりで、折りたたみ式なんてどこにも無い。

 広いその店を、身を乗り出して覗き込んでいると突然声が聞こえた。

「何だ、何か探し物か?」


「うわっ! 机が喋った!」


 本気で飛び上がったが、机の陰から顔を出したのは、見るからに頑固そうな小柄な男性だった。

「何だ? その背後にいるのは……まさか、魔獣か?」

 手にしていたドライバーっぽい道具を、やる気満々で構えるそのおっさんに、俺は慌てて手を上げて首を振った。


「大丈夫です! こいつらは全部俺の従魔ですから安全です! お願いだから、武器を構えないでくださいって!」


「全部だと? それはまた……ずいぶんと……豪勢だな……」

 呆気にとられたようなその声を聞き、手を上げたまま俺は笑った。

「いろいろいわれてるけど、豪勢って言われたのは、初めてだよ」

 俺のその言葉に、そいつも小さく吹き出した。

「成る程。昨日からあちこちで噂になってるぞ、お前さん達だな。とんでもない従魔を連れた魔獣使いが、街へ来たってな」

 思わずマックスを見る。

「なんか酷い言われようだけど、別に身体が大きいだけで、俺にとっては可愛い奴らなんですけどね」

 マックスの首筋を撫でながらそう言うと、おっさんは笑って首を振った。

「まあ良い。そいつが本気で攻撃してきたら、俺なんか一飲みだろうさ。頼むからしっかり押さえててくれよな。で、さっきから店を見ていたが、うちはご覧の通り家具屋だが何か探し物か?」


「あの、折りたたみ式の机や椅子って有りませんかね?」

 この際だから、何でも聞いてみよう。

「携帯式なら奥にあるぞ……そいつは悪いが、そこで待っててもらえるか?」

 確かに、家具が所狭しと置かれた店内には、マックスが入るのは難しそうだ。

「悪いけど、ここで待っててくれるか」

 店の横、隣の店との隙間に、マックスを座らせて伏せさせる。

「分かりました、じゃあここで待ってますのでご主人は見てきてください」

 そう言って大人しく伏せるマックスの頭を撫でてやり、ファルコを肩に乗せた俺は店の中に入った。


 おお、色々有るじゃないか。


 案内された奥のコーナーには、折りたたみ式の机や椅子が、何種類も展示されていた。

「わざわざ折りたたみ式を探してたって事は、何か理由があるのか?」

 おっさんの言葉に、俺は椅子を見ながら答える。

「郊外へ出た時に、不自由だからさ。食事するのに机があった方が良いだろう?」

 おっさんは驚いたように俺を見て、小さく吹き出した。

「外で使うなら、持ち運ぶ方法を考えろよ。馬車でもあるならいざ知らず、運ぶだけでも一苦労だろうが」

「ああ、それは大丈夫。ご心配無く」

 笑ってそう返事をして、思わず肩に座ったシャムエル様にこっそり話しかけた。

「なあ、スライムが収納してくれるって……この世界では有りなのか? それとも、レア?」

「収納の能力自体、無いわけじゃないけど、思いっきりレアだからね、安易に人に見せない方が良いと思うよ」

 予想通りの答えが返ってきて、俺は小さく頷いた。


 そうだね。うん、まずは机と椅子を買ったらそれを持って宿泊所へ帰ろう。あ、でも包んでもらったらマックスの背中に乗るかな?

 そんな事を考えながら、どれを買うか選んだ。


 悩んだ末、結局、机は大小二セット買う事にした。


 一つはやや大きめで、パッと見た感じ机の大きさが縦60センチ、横1メートルぐらいはあって、料理をする時に使いやすそうだ。

 これには背もたれの付いた椅子が二脚セットで付いている。アウトドア用品の店で売っていたみたいな、座面と背もたれが分厚い布製のやつだ。

 もう一つは、机も小さめで、椅子も丸椅子みたいな背もたれの無いタイプだ。

 こっちはちょっと休憩する時に良さそうなサイズだ。


「じゃあこのセットと、こっちのセットをもらうよ。表のあいつに乗せて帰るから、紐か何かで縛ってまとめてくれるか?」

 俺の言葉に、おっさんは大喜びですぐに包んでくれた。

 全部で金貨一枚と端数が出たんだが、金貨一枚におまけしてくれた。持ち帰り価格らしい。

 そう言って笑ったおっさんは、手慣れた様子で全部まとめて大きな布で包んで、麻紐っぽい頑丈な紐でしっかり梱包してくれた。


「ほら、これで良かろう。しかし……本当に大丈夫か?」

 出来上がったデカい包みを台車に乗せて表に出る。

 まずは俺がマックスの背中に乗り、おっさんが差し出す机の包みを受け取る。こっそりサクラとアクアに手伝ってもらって、簡単に引き上げる事が出来た。

「有難うな。良い旅を」

 手を振るおっさんに手を振り返し、荷物を抱えた俺は宿泊所へ戻った。一番欲しかった水筒と机と椅子が手に入ったし、残りの買い物は、また明日にしよう。

 あ、明日はテントを探さないと。



 さてと、今日の晩御飯はあれを焼くぞ。


 部屋に戻って荷物を降ろした俺は、先に食事を作る事にした。

 そう、朝買った肉を焼いてみようと思う、

 宿泊所の台所の戸棚には、最低限の調理器具も置いてくれてあった。

 大きいフライパン発見。あ、これ良いなあ。こういうのも探そう。

 菜箸はなかったが、トングっぽいものがあったので、これで焼けって事だろう。

 サクラに頼んで、いろいろ出してもらう。

 ジャガイモっぽいのがあったので取り出して皮をむいて切って茹でてみる。うん、これは紛う事なきジャガイモだね。

 軽く塩を振って粉吹き芋にする。


 そしていよいよ肉を焼く。


 軽く叩いて筋を切り、胡椒が無いので、塩をしっかり目に両面に振ってフライパンに投入!

 分厚いステーキ、素晴らしい……。

 頑張った自分にご褒美なんだい!


 大満足で食事を終えて、食後のコーヒーも堪能した。


 それからおっさんが包んでくれた包みを苦労して引っ剥がし、買った机と椅子を取り出して並べてみた。

 大きい方の机は、机も二つ折りになっていてH型の足をそのまま畳むようになっている。

 小さい方は、足がクロスするみたいになる、折りたたみによくある形だ。

 おお、持って帰ってきたら、どっちも良いじゃん。


 サクラに、大きい机、小さい机、大きい椅子、小さい椅子と説明しながら渡していった。

 おお、このデカさも簡単に飲み込んじまった。

 何度見ても、物理の法則も、質量保存の法則も無視……。

 まあ、便利だから気にしないけどね!


 今夜は、ちゃんと防具一式を脱いで、靴も脱いだ。

 サクラに綺麗にしてもらって、俺はニニが寝ているベッドに潜り込んだ。


 ああ、やっぱりニニの腹毛の海に勝るものは無いよ……。

 心ゆくまでもふもふの海を堪能した俺は、疲れもあってすぐに睡魔に襲われた。


 おやすみ。

 明日もまた……ジェムモンスター狩りかなぁ?

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[気になる点] スライムの収納で運ぶなら、折りたたみ式にする必要は無いのでは?
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