それぞれの今後といろんな考え事
「お待たせしました〜〜〜」
俺達がパンケーキを満喫して、おかわりのコーヒーを貰ってからしばらくした頃、バッカスさんのお店で買い物を終えたリナさん達が戻ってきた。
聞けば、レニスさんだけでなくマールとリンピオも新しい剣を買ったらしく、ミスリル合金製なのだという新しい剣を装備した三人は、揃ってご機嫌だったよ。
それに、三人もムジカ君達と同じように手持ちの素材を持ち込んで剣や短剣を注文したらしく、五人揃って、お互いの注文した内容を報告し合って、出来上がりが楽しみだと笑い合っていたよ。
最初こそぎこちなかったムジカ君達とマール達だったけど、彼がきちんとスライムに対する暴力を謝ってくれた事もあって、今ではすっかり仲良くなっているよ。
ううん、皆素直な良い子達ばかりでおじさんは嬉しいよ。
マールとリンピオは、この街を旅立つ時にボルヴィスさんとアルクスさんが同行してくれるらしく、しばらく面倒を見てくれるんだって。
四人ともメタルスライムをテイムしたいらしいので、まずは二人をあそこへ行っても大丈夫なくらいの強い冒険者にするのが、当面の目標なんだって。
まあ、出現場所の報告はしているとは言っても、メタルスライムはまだまだレアな子だから、そりゃあ魔獣使い的には欲しいだろう。
何でも、バッカスさんのお店の裏庭で少し模擬戦を木剣でやってみたらしいんだけど、まだまだ荒削りな部分はあるが、一応マールもリンピオもそれなりの腕前ではあるんだって。
ただ、二人での連携した戦い方こそそれなりに出来るものの、従魔達との連携した戦い方は壊滅的に下手、というか全然出来ていないらしく、しばらくは近場の比較的安全なジェムモンスターを相手に、従魔達との連携を重視した戦い方の訓練から始めるそうだ。
それから、レニスさんとマールとリンピオは、以前も言っていた通りに冒険者ギルド主催の新人教育を一切受けていないので、これからしばらくはハンプールに留まってその辺りも一から勉強し直しらしい。
だけど、あれだけの従魔を連れた魔獣使い達が新人だって言って初心者講習を受けに行ったら、先生役の人は苦労しそうだよね。誰かは知らないけど、先生役の冒険者の方にちょっと同情した俺だったよ。
それからレニスさんとムジカ君とシェルタン君達三人は、しばらくリナさん一家と行動を共にして冒険者としての常識や戦い方、それから術の使い方なんかも詳しく教えてもらう予定なんだって。
まあ、その辺りはギルドの新人教育を改めてやらせるみたいなやり方で進めるらしい。
その辺りは全く未知な俺も、実を言うと新人教育とかに興味があったんだけど……さすがに上位冒険者に認定されている身としては、いまさら新人教育を受けたいなんて言えるわけもなく、今更ながら初めて登録したレスタムの街の冒険者ギルドを思い出して、ちょっと物申したい気分になったのだった。
まあ、色々とお世話になったしそれは有り難かったんだけど、一応上位冒険者認定する前に、知識の有無は確認して欲しかったよなあ……。
クーヘンの店への道を適当なグループに別れてのんびりと歩きながら、そんな事を考えていた俺だったよ。
あれ? って事は、ここハンプールの街を旅立つ時にまた俺達は少人数になっちゃうわけだな。
すっかり大人数がデフォになっていた俺は、ハスフェルとギイ、そしてオンハルトの爺さんとの四人だけでの少人数での食事風景を思い出してちょっとだけ涙目になっていたのだった。
ううん、今更だけど仲間達の有り難さを思い知った俺だったよ。
俺、いくら従魔達がいたとしても、絶対にソロでの冒険者なんて出来ないと思うな。
以前の世界でも、今思い出してみれば本当に一人だった時って少ないと思う。
両親を亡くした後、すぐに親戚のうちに引き取られて、生活に不自由する事はなかった。
父さんや母さんに会いたくて寂しい思いはしたけれども、本当に良くしてくれた。
大学でも、それから会社に入ってからも友人や同僚、上司にも本当に恵まれていて、仕事では大変な思いもしたけれども対人関係では本当に恵まれていたと思う。
こっちの世界へ突然やってきて以降も、考えてみれば本当にさまざまな人に助けられていると思う。
ハスフェル達がいつまで一緒にいてくれるかなんて分からないけれども、ずっとずっとこんな感じで過ごしていけたらなって思わずにはいられない。
「ん? どうしたの?」
マックスの頭の上に座っていたシャムエル様が、俺の様子に気が付いたらしく一瞬で右肩にワープしてきて俺の頬をペチペチと叩いてくれた。
「うん、何でもない。ちょっと目に埃が入っただけ」
誤魔化すようにそう言って目をこすると、シャムエル様は慌てたように俺の腕を叩く。
「ああ、こすっちゃあだめだよ。ほら、そういう時はパチパチってするの。ほら、パチパチ」
そう言ってちっこい目をパチパチと瞬きしてくれたので、ちょっと笑った俺も一緒にゆっくりと瞬きをしたのだった。
「ありがとうな」
笑ってそっともふもふな尻尾を突っつくと、即座にマックスの頭に逃げられてしまい、何だかおかしくなってマックスを撫でながら小さく吹き出した俺だったよ。