特製ふわふわパンケーキ登場!
「おお、これはまた素晴らしい一振りだ。バランスも完璧だ……しかも、この銘は!」
「うああ! ま、まさかこの銘は、あの、あの剣匠ハルディアですか!」
「何だと! うおお〜〜正しくこの銘は剣匠ハルディアに間違いない」
「こ、これは素晴らしい!」
「何と素晴らしい一振りである事か。ああ、眼福だ……夢のようだ……」
大興奮するバッカスさんやジェイドさん達を前にしたギイが、ちょっとドヤ顔になっているのを見て堪えきれずに吹き出した俺達だったよ。
ここからは剣匠ハルディアがどれだけ素晴らしい剣匠だったかをバッカスさん達が揃って力説してくれて、全くそっち方面には無知だった俺でも、飲んだ席でちょっと蘊蓄を語れそうなくらいに剣匠ハルディアについて知る事になったのだった。
でもまあ、もうお亡くなりになっておられる方だから、俺が接する機会は残念ながら無いんだけどね。
ようやく落ち着いたところでギイの元に剣が返され、ここでランドルさんと別れて従魔達を回収した俺達は店を後にする。
近くのカフェで待っていてくれたリナさん達に声をかけて、交代でバッカスさんの店へ向かうリナさん達を見送った俺達も、一旦お茶休憩する事にした。
だって、ここには特製ふわふわパンケーキとやらがあるらしく、リナさん達は全員それを頼んだらしい。
アーケル君が素晴らしかったと大絶賛していたので、ここは食べておくべきだろうと意見が一致したからだ。
まあマックスの頭の上に座ってたシャムエル様が、特製ふわふわパンケーキと聞いた途端にもの凄い勢いでステップを踏み始め、どこからともなくやって来たカリディアと見事なダンスを披露してくれたから、お茶タイムを断ってそのままクーヘンの店へ行くって選択肢が無くなったのもあるんだけどね。
またマックス達にはお店の厩舎で待っていてもらい、鞄の中に入ったスライム達だけを連れてそのお店に入る。
リナさん達から特製パンケーキの事を聞いたらしく、一旦別れたはずのランドルさんが急遽再合流したのにはちょっと笑っちゃったよ。
食べた事のあるランドルさんによると、ここのパンケーキは本当にふわふわらしいので、それほど甘いものが好きではない俺もちょっと楽しみになったよ。
リナさん達が座っていた席に俺達も座り、全員分の特製パンケーキと飲み物を頼む。
ムジカ君とシェルタン君は揃ってリンゴジュースを頼んでいて、俺達やランドルさん達は全員コーヒーを頼んだ。
「では、焼き上がるまで少々お待ちください!」
小柄なスタッフさんが満面の笑みでそう言い、先に飲み物を用意してくれた。
焼き立てを出すのがこの店の売りらしいので、素直に待つ事にする。
一つ深呼吸をして背もたれに体を少し倒したところで、シャムエル様にいきなり頬を叩かれた。
「痛いって。何、コーヒーが欲しいのか?」
シャムエル様の分はパンケーキがきてから入れてやるつもりだったので、今はあげていない。
「ん? 違うのか?」
だけど俺の右肩に立ったシャムエル様は、いつもの盃を出すわけでもなく何故か立ったまま横を向いている。
「どうしたんだよ。盃は?」
そう言いつつ、何となくシャムエル様の視線を辿って見ている方向を俺も見る。
「うわあ、何あれ?」
隣の席に座った女性五名の団体様のところでは、噂の特製パンケーキを揃って美味しく食べている真っ最中だったのだ。
「確かにあれは凄いなあ……」
あまりあからさまに見るのは遠慮しつつ、こっそり半分程に減ったお皿の上を見る。
「これは最高に楽しみになってきたよ。ああ、パンケーキへの情熱と愛情が私の体からあふれ出しそうだ! これは踊らなくては!」
謎の理論で完結したシャムエル様が、一瞬でテーブルの上にワープしてきてもの凄い勢いで高速ステップを踏み始めた。
当然、一瞬ですっ飛んできて一緒に踊り始めるカリディア。
二人の見事な高速シンクロダンスは、焼きたてのパンケーキをスタッフさんが持って来てくれるまで延々と続いたのだった。
うん、かなりカロリー消費したと思うぞ。グッジョブだ。
「ふおお〜〜〜これは素晴らしい! ふわっふわだ〜〜〜〜〜!」
尻尾三倍サイズになったシャムエル様が、大興奮状態でまたステップを踏み始める。
何しろ届けられたパンケーキは三段重ねになっていたんだけど、一段の厚みが余裕で10センチくらいはあるのだ。
しかもプルップルなので、お皿を少し揺らしただけでもうパンケーキ自体が揺れる揺れる。
要するに、普通の平たいパンケーキとは全く違うそれは、おそらくスフレケーキみたいにメレンゲを泡立ててから混ぜて焼いているのだと思われる。
もう、とにかく何もかもがふわっふわ。看板に偽り無しだよ。
添えられているのは、たっぷりの生クリームと黄金色のシロップのみ。
ちょっと舐めてみたら、ほぼメープルシロップだったよ。
「ええと、一番下の一段をもらってもいいかな? 上の二段の生クリームがたっぷりあるところは丸ごと進呈するからさ」
こっそり手持ちのお皿をサクラに出して貰った俺は、シャムエル様の了解を得てからナイフとフォークを使ってなんとか下の段のパンケーキを引っ張り出して別皿に移した。
「はい、こっちは丸ごと進呈するのでって……ああ、欲しいんだな。ちょっと待ってくれ」
後頭部の髪を思いっきり引っ張られた俺は、小さく吹き出してそう言うと、シャムエル様のお皿と俺のお皿。それから笑って一緒にと言って差し出してくれたハスフェルの分のパンケーキのお皿を、急いで取り出した敷布の上に並べた。コーヒーは俺の分を並べておく。
「お待たせしました。お店特製のふわふわパンケーキなんだって。少しですがどうぞ」
目を閉じて小さくそう呟き手を合わせる。
収めの手が何度も俺を撫でてからパンケーキを撫でまくりお皿ごと持ち上げてから、ついでみたいにハスフェルを撫でて消えていった。
「ああ、萎んできたじゃないか。早く食べないとどんどん小さくなるぞ」
すでに先ほどよりも1センチ以上低くなったパンケーキを見て、俺は大急ぎでハスフェルにお皿を返し、シャムエル様の前に置いてやった。
「本当だ! 大変だ、早く食べないと! では、遠慮なくいっただっきま〜〜〜す!」
雄々しくそう叫んだシャムエル様は、そのまま頭からふわふわパンケーキに突っ込んでいったのだった。
「大丈夫だから落ち着けって。じゃあ俺もいただきますっと」
小さく笑って三倍どころか五倍サイズくらいに膨れた尻尾をこっそりと撫でてから、俺もそのふわふわパンケーキを一切れ切って口に入れた。
「うおお。口の中で消えてなくなるくらいにふわっふわだな。これは美味しい」
クリームとシロップは少量だけど、俺にはこれくらいが丁度いい。
大興奮状態でパンケーキと格闘しているシャムエル様を横目に、俺ものんびりとふわふわパンケーキを堪能したのだった。
ううん、これはお店ならではのパンケーキだね。絶対に、俺には作れないプロの味だよ。