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追い剥ぎ発生?

「あはは、それはまた……そんなに有名な方だったなんて知らなかったなあ、あはは……」

 予想以上に大人気で大物俳優だったヴェナートさんの説明を聞いて、もう乾いた笑いをこぼすしかない俺を見て、ボルヴィスさん達や店内にいる人達は、全員揃って呆れ顔だ。

「まあ、持ってきた本人だけでなくお仲間の皆さんまで知らなかったとしても、せっかく持ってきてくれた土産だ。有り難く飾らせてもらうよ。しかしこれは、万一にも勝手に外される事がないように、専用のワイヤーで固定しておくべきか?」

「そうだな。盗難への警戒は当然必要だろうからな。早々に固定しておくべきだな」

 真顔のバッカスさんの言葉にボルヴィスさんとアルクスさんだけでなく、スタッフの皆さんも揃って真顔で頷いていたよ。

 いやあ、まさかのサイン色紙の値打ちに知らなかった俺達は揃って苦笑いしていたのだった。



 脚立が撤去されたところでなんとなくその場は解散となって、店内にいたお客さん達はそれぞれ見ていたものの前に戻って行った。

「なあ、ところでケンさん。よければその……一新した装備を、我らにちょっと詳しく見せてはもらえないだろうか?」

 店が通常営業に戻ったところで、一つ深呼吸をした笑顔のバッカスさんにそう言われて俺も笑顔になる。

「もちろんです。装備も剣も是非見てやってください。ええと、奥へ行きますか? それともここでいいですか?」

 店番は新しいスタッフさん達がしてくれているようなので、どうするべきかと思ってそう尋ねると、バッカスさんはもうこれ以上なくらいの良い笑顔になった。

「ジェイド達もケンさんの新しい装備を見たがっていますので、よければ奥へどうぞ」

 その言葉に頷き、なんとなくハスフェル達やランドルさん達も一緒にバッカスさんについて奥へ向かった。



「おお、なかなか広い部屋ですね」

 会議机っぽい細長い机と椅子がいくつか置かれただけのシンプルな部屋に案内されて、思わずそう言って部屋を見回す。

「ここは、応接室とは違って装備の試着や別注などの際に素材を出して確認したりする用の部屋ですので、椅子もテーブルも移動出来る簡単なものを置いているんです」

「成る程。置いてあるのがソファーじゃなくて折りたたみ式の椅子と机だけなのはそういう意味か」

 バッカスさんの言葉に納得した俺がそう呟いて頷いた直後、ジェイドさん達四人が開けたままだった扉から部屋に駆け込んできた。

「ああ、皆さんお揃いですね。お久しぶりです」

 振り返った俺が笑顔でそう言うと、ジェイドさんとアイゼンさん、シュタールさんとブライさんが俺を見て揃って嬉しそうな笑顔になり、ハスフェル達も加わってまずは挨拶を交わした。



「おお、ランドルからケンさんが装備を一新したとは聞いていたが、いやあ、これは素晴らしい」

「本当だな。あの胸当ての素材は何だ? も、もしやあれは……!」

「ま、まさか……あの艶は、もしやカメレオンセンティピートか?」

「お、俺もそんな気が……」

 瞬きも忘れたらしいジェイドさんとアイゼンさんの呟きに、苦笑いした俺が頷くと、二人の歓喜の雄叫びが部屋いっぱいに響き渡った。その後ろでは、シュタールさんとブライさんが何故か手を取り合って歓喜の雄叫びを上げている。

「こ、これは素晴らしい……見ろ、この艶の美しい事!」

「完璧なフォルムだ。ああ、見ているだけで気が遠くなりそうだ!」

 俺の左右に駆け寄ってきた二人は、両手を胸元でぎゅっと握りしめたままで俺の装備をガン見している。

「そしてこれが、剣匠フュンフ殿が打ったヘラクレスオオカブトの剣……」

(さや)(こしら)えも見事だ」

 二人の背後に駆け寄ってきたシュタールさんとブライさんのこれ以上ないくらいのうっとりとした呟きに、もう乾いた笑いが出る俺だったよ。



「じゃあ、まずはこれですね。どうぞ気が済むまで見てやってください。もちろん、抜いて頂いて構いませんので」

 一つ深呼吸をした俺は、そう言って腰に装着していた剣を外してそっとバッカスさんに差し出す。

「は、拝見させていただきます」

 ごくりと唾を飲み込んだバッカスさんは、両手でその剣を受け取り、全員が注目する中ゆっくりと剣を抜いた。

 何度見ても惚れ惚れするような鋭利な輝きが部屋の明かりに反射して煌めく。

「こ、これは素晴らしい……何もかもが、全てにおいて完璧な一振りだ……」

 呆然としたバッカスさんの周りでは、何故か無言のまま全員両手を胸元に握りしめた乙女ポーズのジェイドさん達が抜き身の剣をガン見している。

 成る程。あれは見ている装備に無意識に手を出さないようにする為の、いわば自粛のポーズな訳か。

 しばしの沈黙の後、バッカスさんがゆっくりと剣を鞘に収める。

「最高の一振りを見せていただき、心から感謝します。ああ、まだ胸が熱い……」

 捧げるように両手で返された剣を俺もなんとなく両手で受け取る。ジェイドさん達は手にしなかったけどいいんだろうか?

「あの、よければ皆さんも持ってみられますか?」

「よろしいのですか!」

 ジェイドさん達が、キラッキラに目を輝かせて同時に叫ぶ。

「もちろんです。どうぞ後学の為にも気が済むまで見てください。もちろん抜いていただいて構いませんよ」

 苦笑いして今度はジェイドさんに差し出してやると、これまた両手で受け取ったジェイドさんが剣をゆっくりと抜いた。

 順番に全員が剣を見て俺の手元に戻ってきたところで、他に作ってもらった槍や短剣それからナイフ、盾や兜などの防具も一通り取り出し、これの素材が何かの説明をしつつ見せたよ。

 だけど、その間も彼らの視線は俺の胸当てにすぐに戻っていた。

「ええと、じゃあせっかくなので脱ぎますけど、これも見ますか?」

 胸元を指でつっつきながらそう言うと首がもげそうな勢いで揃って頷かれてしまい、結局、胸当てだけではなく小手や脛当て、それどころか鎖帷子の上下まで文字通り全部引っ剥がされてしまい、もう途中からは追い剥ぎにあった気分で遠い目になっていた俺だったよ。

 冗談抜きで、ランドルさんが言っていた身ぐるみ剥がされるってのを実体験したね。

 いやあ、猫にまたたび、職人に新装備ってやつだね。

 お疲れ様でした〜〜〜!


挿絵(By みてみん)

2024年11月15日、アース・スターノベル様より発売となりました「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」第九巻の表紙です。

どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m


今回も引き続き、れんた様が表紙と挿絵を最高に素敵に可愛らしく描いてくださいました。

そして中の口絵二枚目が、何とケンの〇〇シーンですよ!

どうぞお楽しみに!

口絵ラフをいただいて、もう、一人で大爆笑したのは内緒です

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