大物俳優と判明した衝撃の事実!
「す、凄い! まさか、劇団風と大河の主演俳優であるヴェナート様の、直筆のサイン色紙!」
「凄すぎです! 俺、ここで働けて良かったって、今、心の底から思ってます!」
まだ若いドワーフのスタッフさん二人が、何故か拳を握って天井に向かって突き上げながらそう叫んでいる。
「いやあ、素晴らしい土産を感謝するよ。ランドル。これがあるだけで、間違いなく店に人が来るぞ」
嬉しそうにサイン色紙を見上げたバッカスさんの言葉に、ランドルさんを始め俺とハスフェル達は呆然と言葉が出ない。
「ええと、もしかして……ヴェナートさんって、そんな有名な俳優さんだったの?」
思わず声をひそめてハスフェルにそう尋ねる。
「俺に聞くな」
即座に真顔で断言したハスフェルの隣では、ギイとオンハルトの爺さんも困ったような顔で揃って首を振っている。当然、ランドルさんも困ったようにこっちを見て首を振っているので知っているはずもない。
そりゃあそうだよな。そんなに有名な人だって知っていたら、絶対に教えてくれているだろうからさ。
思わず助けを求めるように俺達全員揃ってアルクスさんとボルヴィスさんを見ると、二人は呆れたようにわざとらしいため息を吐いた。
「一応確認するが、舞台は観たんだよな?」
真顔のボルヴィスさんの含みを持たせたその質問に、当然何を言いたいのかを理解した俺達は、顔を見合わせてから揃って大きく頷いた。
「おう。夏の早駆け祭り編と、続編の秋の早駆け祭り編、両方を観たよ」
なんとなく代表で俺が答える。
「ちなみに一回目は、バイゼンの街のギルドマスターが取ってくれた席で事前情報一切無しで観たんだ。もう驚いたなんてもんじゃあなかったんだからな! ついでに言うと、舞台を直視出来ないくらいに恥ずかしかったんだからな!」
顔を覆った俺の叫びにあちこちから笑い声が起こり、知らずに観に行くとは贅沢者! 自分の事だろうが! なんて声まで上がって、俺も含め店にいた全員揃って思いっきり吹き出したのだった。
「で、一度目の舞台が終演したところでスタッフさんから、ヴェナートさんご本人と劇団風と大河の連名での次回作の招待状を貰ったんだ。それで続編の秋の早駆け祭り編は、観に行きたがってたけどチケットを取れなかった知り合いの方をお誘いして上演二日目に一緒に見に行ったんだ。もう、これも恥ずかしいなんてもんじゃあなかったんだからな! で、その舞台が終わった時に、ヴェナートさん本人からだって、スタッフさんがこのサイン色紙を届けてくれたんだ」
俺的には単なる報告のつもりだったんだけど、それを聞いた店にいた人達全員からの大絶叫をいただきました。
「この贅沢もんが!」
「うああ〜〜羨ましい!」
「主演俳優と劇団から直々の招待状を貰って、しかも続編はバイゼンでの上演二日目に観に行った?」
「それで、直筆のサイン色紙をもらったって?」
「羨まし過ぎるぞ〜〜〜〜!」
もうこれ以上ないくらいの大絶叫の嵐。
いや、マジでヴェナートさんって、そんな有名な方だったんだ。
もう完全にドン引き状態の俺が若干他人事みたいに考えていると、もう一回大きなため息を吐いたボルヴィスさんが、真顔で俺の肩を叩いた。
「一応知らないみたいだから教えてやるよ」
「お、おう。何?」
ビビりつつそう言うと、もう一回大きなため息を吐くボルヴィスさん。その横ではアルクスさんも苦笑いしている。
「その、劇団風と大河の夏の早駆け祭り編の初演は、ここハンプールなんだよ。始まる前から前評判も高くチケットが手に入らなくて大騒ぎだった。当然上演が始まった途端更なる大人気となり、その後は王都で、それからいくつかの街で上演されてバイゼンでも上演されたと聞く。そして、ケンさんが観たという続編の秋の早駆け祭り編は、そのバイゼンが初演で、当然これまた前回以上の大人気になり、王都と南北アクスヒルの街でも上演された後、このハンプールでも上演されて、これまたチケット争奪戦となるほどの大人気だったんだよ。その両方の主演を務めた役者さんの直筆のサイン色紙だぞ。人が集まらないわけがあるまい?」
これまた真顔で言われてしまい、もう乾いた笑いしか出ない俺だったよ。
ううん、もしかして俺が持っているのをクーヘンの店に持って行ったら、ここ以上の大騒ぎになるんじゃね?
唐突に気がついた衝撃の事実に、もう一度乾いた笑いをこぼした俺だったよ。
うん、こっそり店の隅に置いてきたら、駄目かなあ……駄目だよなあ……。
マジで、どうするんだよ、これ。