ランドルさんの剣と俺の装備
「お待たせしました〜〜〜ええと、もうこのまま別荘へ行くんですか?」
のんびり飲みながら座って寛いでいると、挨拶回りを終えたリナさん一家と新人コンビ、それからレニスさんとマール達が揃ってギルドに到着した。ボルヴィスさん達はランドルさんと一緒にいたので、これで全員集合だ。
「おう、お疲れさん。ええと、ちょっとクーヘンの店に用があるから、先にそっちへ行きたいんだけどなあ。皆はどうする?」
「あ、それなら俺はせっかくなのでバッカスのところへ行って、あっちにしばらく泊まらせてもらいます。積もる話も色々とあるんで、ゆっくり話をしたいんですよね」
笑ったランドルさんの言葉に納得する。お祭り前にも泊まっていたけど、あまりゆっくり話も出来なかったらしいので、ランドルさんはバッカスさんのところにしばらく泊まりたいらしい。
あそこには、ランドルさんの為の部屋があるって言っていたものな。
「じゃあ、俺もせっかくだからバッカスさんに挨拶くらいはしたいです。ご迷惑でなければ一緒に行ってもいいですか?」
「もちろん大歓迎ですよ。じゃあ、順番に行きましょう」
笑ったランドルさんの言葉に頷き俺達も立ち上がって、テーブルの上に散らかしていたお酒の瓶を手早く片付けた。ちょっとだけこぼしていたお酒は、スライム達があっという間に綺麗にしてくれた。
なんとなく全体に薄汚れていたテーブルが綺麗になったように見えるけど、多分気のせいだよな。
ううん、それにしても俺は控えて飲んでいたから大丈夫だけど、あれだけガバガバ飲んでいたのに誰も足元がふらつかないどころか赤くもなっていないって、相変わらずこの世界の人達は色々と初期設定がおかしい気がするぞ。
力一杯脳内で突っ込んだ俺は、間違っていないよな?
小さくなれる子達には、出来るだけ小さくなってもらっているが、これだけの人数の魔獣使いがいれば従魔の数もそれ相応になる。
苦笑いしてなんとなく俺やハスフェル達、ランドルさんやボルヴィスさん達と、リナさん一家、新人コンビやレニスさん達のグループに分かれて、お互いに少し離れてのんびりとバッカスさんのお店を目指して歩いて行った。
まあ、街の人達からは時々声をかけられる程度だから、それほど時間もかからずにまずはバッカスさんのお店に到着したよ。
まず、少し離れたところで立ち止まって店を見ていると、お店の前に出された大きなワゴンには普段に使える日用品の金物や消耗品などが綺麗に並べられていて、ひっきりなしに人が立ち止まっては話をして色々買って行っている。
だけどワゴンの店番をしているのは俺は知らない若いドワーフさんなので、もしかしたら新しく人を雇ったのかもしれない。
「冬の間、バッカスの店は俺が思っていた以上に大繁盛していたらしく、店番をしてもらう人を追加で五人も雇ったそうですよ。それでバッカス達はもうほぼ店番はせず、別注の受付のみを交代で担当していて、普段は奥にこもってひたすら剣や槍などの武器を作っているんだとか。出来合いの武器の一部は、ギルドから仕入れもしているそうですよ」
俺がワゴンで店番をしているドワーフさんを見ていたのに気づいたらしいランドルさんが、それは嬉しそうな笑顔でそう教えてくれた。
「へえ、商売繁盛でいいじゃあないですか。あれ、じゃあもしかしてランドルさんの注文したヘラクレスオオカブトの剣って、まだ仕上がっていなかったりします?」
前回、秋にバイゼンに向けてここを出発した時に、確かそんな事を言っていたのを聞いた覚えがある。
だけど、今のランドルさんが腰に装着しているのはいつも使っている剣だから、多分、まだ仕上がっていないのだろう。
ランドルさんにしてみれば、バッカスさんのお店が繁盛して忙しくて嬉しいけどちょっと残念、って感じなのかもしれない。
「いえ、お願いしていたヘラクレスオオカブトの剣自体はもう仕上がっているんですが、鞘の仕上げが早駆け祭りまでに間に合わなかったらしいんです。でも、祭りが始まる前には仕上げに取り掛かったと聞いているので、そろそろかなあと期待しているんですよね。さすがに、今日はまだかな」
俺の言葉に、ランドルさんが笑ってそう言いながら今装着している剣をそっと叩く。
「今使っているこの剣は、ミスリルの合金で作った出来合い品なんですが、バッカスの知り合いの鍛治職人が作った一振りなんです。これを使うようになってからもう何年になるかな。なかなかに良い剣でしたが、さすがにヘラクレスオオカブトの剣が出来上がればそっちを使いますから、これは予備になりますね」
「ヘラクレスオオカブトの剣は、本当に最高ですからね。じゃあ出来上がりを俺も楽しみにしています」
俺も、自分が装備しているフュンフさんが作ってくれたヘラクレスオオカブトの剣をそっと撫でた。
「ケンさんのそれは、本当に素晴らしい一振りになりましたよね。ああそうだ。バッカスが見たがっていたので、ご迷惑でなければ、その剣、彼にも見せてやってください」
「もちろん喜んで。本当に素晴らしい仕上がりになりましたからね」
思わず笑顔でそう言うと、ランドルさんも笑って俺の腕を軽く叩いた。
「それだけじゃあなく、ケンさんがバイゼンで冬の間に装備一式新調したと言ったら、皆も見たがっていましたよ。恐らく店に入ったら、取り囲まれて、何で作ったどんな装備なのかを一から全部聞かれると思いますのでお覚悟の程を」
ふざけたようにそう言われて、思わず顔を見合わせて吹き出した俺だったよ。
でもまあ、剣匠フュンフさんの名前を知っていたくらいだから、確かに憧れの職人さんが作ったものなら、見たがるのも分かる気がする。
「ええ、いいですよ。なんなら脱ぎますので、好きなだけ見てもらってください」
「いいんですか? そんな事言ったら、本当に身包み剥がされますよ」
俺の言葉に笑ったランドルさんにそう言われて、顔を見合わせてもう一回揃って吹き出した俺達だった。