ギルドにて
「ああ、来たね。収納袋の査定は、担当者達が張り切って待ち構えているから、いつでも言ってくれれば対応するからね」
ちょうど俺達が揃ってギルドの建物に入ったところで、カウンターの中にいたエルさんが笑顔でそう言って手を振ってくれた。
「はい、よろしくお願いします。じゃあ、まずは支払いの手続きからだな」
そう言った俺は、以前、別荘で紋章付与をしていただいた時に神官様から預かっていた明細を取り出し、そのままカウンターにいたスタッフさんに渡した。
「ええと、この出張費用は俺が払います。それでこっちの紋章付与の代金は、こっちの三人がそれぞれ払います。ちょっと面倒ですが、別々の手続きでよろしくお願いします」
「ああ、構いませんよ。では順番に確認しますね」
笑顔で明細を受け取ってくれたスタッフさんの言葉に、もう一度お礼を言って椅子に座る。
書かれた金額を確認して、それほどの額では無かったので今回は手持ちのお金から支払う事にしたよ。
俺の言葉に慌てたようにレニスさんとシェルタン君、それからアルクスさんが進み出て、紋章付与の代金をそれぞれ取り出してカウンターに置いていたよ。
「では、手続きさせていただきますね。しばらくお待ちください」
それぞれから受け取った金額をしっかりと確認したスタッフさんが早く手続きを済ましてくれて、それぞれに領収書を渡してくれた。
「ありがとうございました。ええと、じゃああとは収納袋の身内販売だな。エルさん、作業するのに、部屋ってお借り出来ますか?」
収納袋の身内販売は、あまり人目があるところではやらない方がいいだろうと考え、まだカウンターの中にいたエルさんに声をかける。
「もちろん、用意してあるからこっちへどうぞ」
振り返ったエルさんが笑顔でそう言い、そのまま彼の案内で奥にある部屋に向かった。もちろん蹄がある子以外は全員の従魔達が一緒だから、かなりの数だよ。
「いやあ、改めて見ると従魔達は凄い顔ぶれだねえ。リンクスにハウンド、恐竜達だけでなく、オーロラ種の従魔だけでもどれだけいるんだって」
従魔達のもふ塊を見たエルさんは、呆れたようにそう言って首を振っている。
まあ、小さくなっているとは言ってもかなりの数だからね。
笑って頷き合い、俺はハスフェルの横へ行った。
「ええと、身内販売用の収納袋って誰が出す? 数は一番持っていると思うから、俺が全部出そうか?」
間違いなく俺が一番数は持っているだろうから、そう思って尋ねると、笑ったハスフェルが収納袋を一つ取り出して見せた。
「ボルヴィスとアルクスも、もう少し収納袋の高性能のを欲しいそうだから、そっちは俺が渡すよ。お前は、新人コンビとマール達、それからレニスさんの分を出してやってくれるか」
「了解。じゃあ、マールとリンピオ、それからシェルタン君とムジカ君、レニスさんもこっちへ来てくださ〜い」
「はあい、よろしくお願いしま〜す」
笑顔の彼らが駆け寄ってくる。
ボルヴィスさんとアルクスさんは、揃ってハスフェルのところへ駆け寄って行っていたよ。
「ええと、何が欲しい? 在庫はどれも大量にあるから高性能なのでも選び放題だぞ」
そう言って、二百倍で時間経過も二百分の一の収納袋を取り出して見せる。
「言ってくれれば、どれでも喜んで鑑定するからね〜〜」
笑ったエルさんの言葉に頷き、数百倍程度の収納袋を中心に大量に取り出して並べた。
好きなのを欲しいだけ取ってもらって、それぞれいくらになるかを鑑定してもらう作戦だ。
目を輝かせたレニスさん達や新人コンビ、それからマールやリンピオが、それぞれの収納袋の中を覗き込んで一つずつ倍率を確認するのを、俺達は笑って見守っていたのだった。
結局、新人コンビは三百から四百倍の収納袋を追加で十個選び、レニスさんは、五百倍で時間経過が五百分の一の収納袋を一つと、二百倍で時間経過が二百分の一の収納袋と、五百、四百、三百倍の収納袋を各十個ずつ選んでいた。
マールとリンピオは、それぞれ五百倍で時間経過も五百分の一の収納袋と二百と三百の収納袋をまとめて二十個ずつ選んでいた。
査定担当のスタッフさんとエルさんが手分けして査定してくれて、提示された評価価格を見て全員揃って驚きの叫びを上げていたよ。
「あの、本当にこんな値段で譲っていただいていいんですか?」
「いくらなんでも、申し訳なくなります」
収納袋の本来の価格を知っているらしいマールとリンピオが、慌てたようにそう言って俺のところへ駆け寄ってくる。
「もちろん構わないよ。言っただろう? マジで大量にあるから遠慮なくどうぞ」
笑ってそう言ってやると、二人だけじゃあなくてレニスさんや新人コンビも大感激していたよ。
だけど、俺やスライム達の収納力は無制限な上に時間停止なので、正直に言うと収納袋って必要無いんだよな。
そもそもベルトに取り付けている、この五万倍で時間経過も五万分の一な収納袋があれば、もうそれだけでも充分過ぎるくらいなんだって。
って事で、それぞれ選んだ収納袋をスタッフさんに確認してもらい、各自の口座から俺の口座に支払うように手続きをしてもらったところで、身内販売会は終了した。
「ええと、このあとはどうする? 俺達は、差し入れをしてくれた店の所を順番に回ってお礼を言おうと思っているんだけど、この大人数で行ったら逆に迷惑になりそうだな」
「そうですね。じゃあここで一旦解散で良いのでは? 私達も、この後は差し入れをしてくださったリストを見て、お店にお礼を言いに回ろうと思っていました。だけど、確かに別行動にして分かれて行った方がお店に迷惑にならないと思いますね」
リナさんの言葉に、皆も苦笑いして頷いている。
「そうですね。じゃあここで一旦解散にしましょう。それで俺達は今夜は別荘に戻りますが、皆さんも一緒でいいですよね?」
マールとリンピオにも、せっかくだから別荘に招待して、いちご狩りとさくらんぼ狩りくらいはやらせてあげたい。別荘を出る時にほとんど収穫したけど、あれから時間が経っているから少しくらいはまた熟しているだろう。
相談の結果、宿泊所に泊まるつもりだったらしい彼らも一緒に、また全員揃って別荘に来てもらう事になり、とりあえずこの場は解散となったのだった。
「じゃあ、順番に差し入れしてくれたお店を回りながら、あのヴェナートさんのサイン色紙を入れられる額を探そう。クーヘンの店に飾ってもらうにしても、額に入っていた方が汚れなくていいだろうからな」
小さくそう呟いた俺は、アクア達が入った鞄を背負い直して、ハスフェル達と一緒に冒険者ギルドを後にしたのだった。