この後の予定?
「お疲れ様でした〜〜〜! じゃあ俺は部屋に戻らせてもらいますね」
大盛況だった祝勝会がようやく終わり、俺は早々に逃げさせてもらうつもりでそう言って笑って手を上げた。ハスフェルとギイ、オンハルトの爺さんも二次会には参加しないらしく苦笑いしながら頷いている。
「ええ、二次会には参加なさらないんですか?」
かなりお疲れな様子のレニスさんの若干責めるような言葉に、俺達は揃って誤魔化すように笑って首を振った。
「ここに家を買ったとは言っても、俺達は所詮は流れ者の冒険者ですからね。いつもそういうのはクーヘンに全部まとめてお任せしているんですよ」
でも、今回はクーヘンは残念ながら個人戦でもチーム戦でも表彰台には上がれなかったから、その辺りはどうなんだろう?
そう言いながら不意に不安になってクーヘンを探すと、さっき俺を取り囲んでいた商工会の偉いさん達とにこやかに話をしているのが見えてなんだか凄く安心した。
もうクーヘンはレースの勝ち負けに関わらず、ここハンプールにしっかりと自分の立ち位置を見つけているみたいだ。
そう言えば、ギルドの役員もしているって言っていたもんな。
俺の視線に気づいたのか、笑ったクーヘンがこっちに向かって手を振ったので俺も笑顔で手を振り返しておく。
「いつも、そっち方面の付き合いは丸投げして申し訳ない。今回もよろしく〜〜〜!」
俺がわざとらしく笑ってそう言うと、ハスフェル達まで一緒になって笑いながらクーヘンに向かって手を振っている。
商工会の役員さん達と一緒にいたエルさんをはじめとするギルドマスター達が、それを見て揃って苦笑いしていた。
まあ今回もレースの勝者達全員、祭りが終われば街からいなくなる顔ぶれだからな。
なので本来レースの勝者が担当する次のレースまでの間の広報活動やなんかは、恐らく三周戦の勝者のウッディさん達が中心になってやってくれる事になると思われる。
うん。後で改めてウッディさん達には三周戦勝利のお祝いを言って、今後の勝者が担当すべき広報活動を全部まとめて丸投げになるのを謝っておこう。
「そう言えば、チーム戦の表彰式で頂いたあの記念の盾は、クーヘンさんのお店に置いていただくようにお願いしました。帰る家も無い流れ者の冒険者は、仮に大容量の収納袋があったとしても、手持ちの荷物は最低限にするのが基本ですからね」
なんとなく考え事をしながらぼんやりとクーヘン達の方を見ていると、笑ったレニスさんがそう言って肩をすくめた。
その言葉に、一緒にいたリナさん達も笑っている。
ちなみにリナさんによると、リナさんとアーケル君がもらった盾は王都のお姉さんのお店に持って行って飾ってもらうらしい。
でもってボルヴィスさんがもらった盾は、相談の結果バッカスさんのお店に置いてもらう事にしたんだって。
ハスフェルとギイがもらった盾は、いつも通りにこれもクーヘンのお店に置いてもらうだろうから、クーヘンとバッカスさんのお店には、また今回も飾る盾が増えるわけだな。
「確かに、住む家を持たない流れの冒険者なら手持ちの荷物は少ないに越したことはありませんからね。ああそうだ。レニスさんやリンピオ達は高性能の収納袋って持っていますか? 俺達は沢山手持ちがあるので、よければ身内価格で販売しますよ」
ムジカ君達には身内価格で収納袋をいくつか渡したけど、レニスさん達には身内価格での販売をしていない。
もし、それほど沢山持っていなければ手持ちを売ってあげても構わないよ。
そう考えて提案すると、レニスさんが驚いたように俺を見た。
少し離れたところにいてまだまだ追加される料理を山盛りに取っていたマールとリンピオも、俺の提案が聞こえたみたいで、揃って驚いた顔でこっちを振り返っている。
「ここに来る前、俺達は冬中バイゼンにいたんだ。実はそっちでも家、というかデカいお城を買ってさ。リナさん一家やランドルさんも一緒に冬の間そこで過ごしたんだよ。でもって、その敷地内には廃棄された鉱山跡があって完全にダンジョン化しているんだよ。トライロバイトとか恐竜が大量に出るぞ。皆で冬の間中そこに潜って皆で狩りをしたら高性能の収納袋が大量に出たから、手持ちに大量にあるんだよ」
笑ってそう言い手持ちの収納袋を一つだけ取り出して見せた。
「ああ、この冬は収納袋がいくつかのダンジョンで大量に出たって話を聞いた事があります。そのせいで、収納袋の価格が暴落しているんだとか。レースが終われば、いくつか買ってもいいかなってリンピオと話をしていたんですよ」
それを見て納得したように頷いたマールの言葉に、いつの間にか俺達の側にきて一緒に話を聞いていたらしいエルさん達も揃って苦笑いしている。
「一時期ほどの暴落はないけれど、まだまだ元の価格の半額に近いくらいまで下がったままだね。身内価格での販売ならもっと安くなるから、やってくれると言うなら良い機会だし甘えてもいいと思うよ。もちろん、ギルド内でやってくれるなら、金額の査定から支払い手続きまでギルドが責任を持って行うよ」
笑ったエルさんの言葉に、マールとリンピオ、レニスさんも揃って笑顔になる。
「では、お願いしてもいいでしょうか。百倍までの収納袋なら、俺もリンピオもいくつか持っているんですが、時間遅延の収納袋は高性能のが欲しいです」
「私もお願いします。時間遅延の収納袋はまだ持っていないので」
揃って頭を下げる三人に、俺は笑顔で大きく頷く。
「もちろん。じゃあ明日以降ホテルを引き払ってからそのままギルドへ行けばいいな。では、査定と支払いの手続きはよろしくお願いします。あ、そう言えば魔獣使いの紋章を授けてもらった際の支払いもまだだな」
不意に思い出した俺の言葉に、あの時別荘で紋章を授けてもらった魔獣使い達が、揃ってああ、って感じに頷き合っている。どうやら彼らも忘れていたみたいだ。
危ない危ない、危うく神殿への支払いを踏み倒すところだったよ。
「じゃあ、その支払いも兼ねて皆で一緒に明日にでもギルドへ行きましょう。ちなみに、神官様の出張費用は俺がお祝いとして払わせてもらうからな」
「そんなの駄目です!」
「そうです。俺達全員で分割して払おうって言っていたんですから!」
こちらも側にきて一緒に話を聞いていたシェルタン君達が、慌てたようにそう言っている。その後ろでは、アルクスさんも慌てたように首を振っている。
「大丈夫だって。レースには勝てなかったけど、魔獣使い達の師匠としてそれくらいの事はさせてくれよ」
ちょととだけドヤ顔でそう言ってやると、皆それぞれ困ったように顔を見合わせてから揃って笑顔で頷いた。
「ありがとうございます。では、出張費用についてはおっしゃる通りにケンさんにお願いします。紋章付与の代金はそれぞれ払わせていただきますので」
相変わらず真面目そうなアルクスさんが真顔でそう言い、俺に向かって深々と一礼する。それを見た他の皆も、慌てたようにそれに続いて深々と頭を下げる。
「いいから頭を上げてって。じゃあそういう事で。とりあえず今日のところは、俺は部屋に帰らせてもらうよ。二次会に参加する方はどうぞ行ってくださ〜〜い」
誤魔化すようにそう言った俺の言葉に、その場は笑いに包まれたのだった。