次のレースは?
「はあ、やっと解放された。よし、食べるぞ!」
まだマックスの髭を握りしめてプルプルしているアルバンさんからそっと離れて料理が並んだ一角に到着した俺は、小さくそう呟いてお皿を手にせっせと新しく追加された料理を取って回った。
「あらあら、そんなに食べるとお腹を壊しますよ」
背後からかけられた笑ったリナさんの声に俺も笑顔で振り返る。リナさんの隣には、笑顔のアルデアさんも一緒にいたよ。
「だって、始まってすぐに挨拶回りで、そのあとは商工会の役員さん達に捕まっていたおかげで、ほとんど料理を食べられていないんですよ」
「同じですね。私もようやく解放されたところです。レニスさんはまだ捕まっているみたいですけれどね」
苦笑いするリナさんの言葉に頷き、揃って同じ方向を振り返る。
エルさんとクーヘンが付き添っているけど、レニスさんの周りには大勢の人達が次から次へと押し寄せてきているみたいで、まだまだ解放される様子がない。
「大丈夫ですか? あれ」
困ったように笑いながらも、一人一人に真剣な様子で対応している彼女がちょっと心配になってそう尋ねたが、二人は揃って笑いながら首を振った。
「エルさんとクーヘンさんがついていてくれますから大丈夫ですよ。彼女はほぼ挨拶しかしていませんって。ちなみに、私も先ほどまでシルトさんがずっと横についてくれていて、ひたすら来る人の相手をしていましたけど、挨拶のあとは勝利を祝ってくれたお礼しか言っていません」
笑ったその言葉に、前回と前々回の祝勝会の時の自分を思い出して、ちょっと遠い目になった俺だったよ。
うん、確かに今回俺のところに集まってきた人の数は今までよりも確実に少なかったから、対応は楽だったな。
「そりゃあ、大番狂せの張本人ですから大人気なのは当然ですよ。お二人の単勝を予想して賭け券を買った人達は、皆さん大喜びしたでしょうね」
「確かに、私達の勝利は大番狂せだったみたいですからね」
「でもおかげで、勝ってもいないのに大儲けさせてもらいましたよ」
嬉しそうなリナさんの言葉に、アルデアさんも苦笑いしている。
そりゃあアルデアさんは自分の分だけじゃあなくて、奥さんであるリナさんの単勝の賭け券も買っていただろうから、大穴を当てているわけだな。結局いくらになったのか、ちょっと本気で聞いてみたい。
ちなみに今までのレースで買った自分の単勝の賭け券、正直に言うと全然換金していないんだよな。
初めての時は、もう記念にしようと思ってそのまま持っていたし、二度目の時は人気すぎて俺の単勝はほぼ配当が無かった事もあってそのままにしたんだよ。でもって、ついに三度目にして賭け券が紙屑になりました。くすん……。
でもまあ、楽しかったからよし! って事にしておこう!
のんびりとそんな事を話しながら食べたり飲んだりしていると、アーケル君達もやってきて一緒に料理を取り始めた。
「商工会の人達に、ケンさんみたいにハンプールに家を買わないかって言われましたよ」
「俺達、王都に兄弟が住んでいてそっちに家があるんですって話したら、すごく残念がられましたよ」
「あれ、間違いなく俺達も囲い込もうとされていたよな」
笑った三人の言葉にリナさん達も困ったように笑っていたから、お二人もそう言われたみたいだ。
「そっか、流れの冒険者でもここに家があれば確実に帰ってきてくれるから、今後のレースへの継続参加も期待出来るわけか。でも、家なんて買わなくてもまたレースには参加するだろう?」
笑った俺の言葉に、リナさん一家が揃って笑顔で頷く。
「確かに、大変ではあったけど楽しかったもんなあ」
「是非ともまた参加したい!」
「毎回参加するかどうかは、ちょっと分からないけどさ」
「え? 参加しないの?」
驚く俺の言葉に、リナさん達が揃って困ったように笑う。
「もちろん参加したいと思いますけど、何があるか分からないのが冒険者家業ですからね」
「遠くにいて、帰ってくるのが間に合わない可能性はあるし、護衛の仕事が急に長引いて予定が狂ってしまうなんて、よくある事ですから」
「あはは、確かにそうですね。でも、せっかくだから頑張って参加してくださいよ」
「そうですね。是非とも二連覇させてもらいます」
「だからそれは俺が阻むって!」
「今度こそ俺も勝つぞ!」
「何を言うか。勝つのは俺だって!」
笑ったリナさんの言葉に三兄弟が揃ってそう言い、俺達は顔を見合わせてハイタッチをして揃って笑い合ったのだった。
うん、当たり前のように、また次も一緒にって笑って言える仲間が大勢いるって、本当に最高だよな。