ウイニングランと表彰式の始まり!
「それでは。只今より早駆け祭り五周戦の勝者によるウイニングランですよ〜〜!」
ご機嫌な司会者さんの声が響き、もう街中の人が全員声をあげたんじゃあないかってくらいのもの凄い地響きのような大歓声が沸き起こった。
真っ赤に頬を紅潮させたレニスさんとリナさんを先頭にして、俺達はさっきまで全力疾走していた街道をゆっくりと進んでいった。
もう、どこを向いても人、人、人で埋め尽くされている。
そして、その全員が俺達を見ている。皆、笑顔だ。
だけど中には賭け券を握りしめて、俺やハスフェル達の名前を叫びながら、馬鹿野郎〜〜! とか、金返せ〜〜! とか半泣きになりながら叫んでいる人も結構いて、苦笑いした俺は声のした方に向かって、ごめんよ〜〜〜! って叫び返してやった。
観客一同大爆笑になったのは言うまでもない。
俺達がウイニングランから戻ってくると、舞台にはいつもの表彰台が設けられていて、舞台前は広い空間が開けられていた。
そうそう、ここから舞台へ色々やりながら上がったんだよ。それで、スライムトランポリンの出し物が生まれたんだっけ。今回はどうなるんだろう……?
表彰式に上がる顔ぶれを思い出して、ちょっと遠い目になった俺だったよ。
「お帰りなさい勝者の皆様! では、表彰式に移らせていただきます。さあ、従魔達と一緒に舞台前へどうぞ!」
満面の笑みの司会者さんの言葉に、頷き合った俺達はそれぞれの従魔から飛び降りて、手綱を引いて舞台前に進んで行った。
一応、レニスさんとリナさんを先頭に順位通りに並んでいるよ。
「では、個人戦の表彰から行いたいと思います。ですがその前に! 今回も、一位をはじめ同着の方が何人もいらっしゃいます。その件につきまして、主催者本部より重要なお知らせがございます。どうぞお静かに!」
一転して真剣な口調になった司会者さんの言葉に、ざわめいていた会場が一気に静まり返る。
今回の主催者である船舶ギルドのギルドマスターのシルトさんが、ゆっくりと進み出てきた。
後ろにはエルさんとアルバンさんの姿も見えている。
「今回も、皆様方ご覧の通り、本当に本っっっっっっっっっっっ当に、もの凄〜〜い大激戦となりました。同着一位に始まり、なんと二位と三位、五位までもが同着で、またしても合計十名が表彰台に上がるという大変な展開となりました。皆さん、賭け券の配当がどうなるのか、気になりますよね〜〜?」
マイクを握りしめた司会者さんの言葉に、静まり返っていた会場が一気にどよめき阿鼻叫喚の嵐になったよ。
まあ、そうだよな。これぞ本当の大番狂わせ、大穴って感じだからな。
そんな事を考えた俺は、もう乾いた笑いしか出ない。
「では、ここで今回の主催者である船舶ギルドのギルドマスターシルトより、詳しい説明をさせていただきます!」
そう言ってマイクをシルトさんに渡す司会者さん。
マイクを受け取りもう一歩前に進み出たシルトさんの背後に、スタッフさんが数名がかりで大きなボードを持ってきて立てた。
「ええ、ご紹介に与りました、船舶ギルドマスターのシルトです。では、配当について説明させていただきます」
そう言ったシルトさんは、背後に立てられた大きなボードを手にした棒で指しながら賭け券の払い戻しについての説明を始めた。
要するに前回と同じく、一位から三位までに入る三人を選ぶ三連複を含め、今回も同着の場合も全て的中扱いとする事になったらしい。
大喜びの観客の人達を見て、これだけの番狂せでも予算的に大丈夫なのかと密かに感心した俺だったよ。
「今回の賭け券の売り上げは、歴代最高だった前回よりもさらに倍増したらしいからね。少々払ってもギルド連合的には痛くも痒くもないと思うよ」
マックスの頭の上に座ったシャムエル様がそう言って笑っている。
「まあそうだよな。賭け事ってのは胴元が一番儲かるように出来ているらしいからさ」
前回クーヘンに言われた言葉を、そのままシャムエル様に返してやる。
マックスの頭の上で大爆笑しているシャムエル様の尻尾をこっそり突っついてやった俺だったよ。
「では、今度こそ表彰式に移らせていただきます! まずは個人戦からですよ! 第六位! 漆黒の従魔を従える冒険者マールとブラックエルクのアントラ! 初出場にして初の表彰台です! いや、本当に見事な走りでした!」
司会者さんの言葉に手を振り、笑顔で舞台に上がっていくマール。
彼は一段高くなった舞台へ上がるのに、当たり前のように階段を使っていたよ。うん、今回は普通に上がろうな。
ちなみに彼の従魔の黒い鹿のアントラは、スタッフさんが彼から手綱を預かっていて舞台前に並んでいる。
「第六位の副賞は、ホテルハンプールが誇る豪華料理が好きなだけ食べられるレストランチケットが十枚!」
笑顔の司会者さんの言葉に、また大歓声が上がっていた。
副賞のチケットが入った大きな封筒を受け取ったマールはとても嬉しそうだったよ。
「では次は第五位です。同着二名、どちらも初出場にして初の表彰台です。順番に参りましょう! まずは上位冒険者にして最近魔獣使いとなった努力家のアルクスとホワイトウルフのロッキー! そしてもう一人の五位はこちらも初出場にして初の表彰台、草原エルフの双子の片割れ、オリゴ〜〜〜! 相棒はホワイトフォレストウルフのパールだ!」
司会者さんの言葉に嬉しそうに手を振った二人も、同じようにそれぞれの従魔の手綱をスタッフさんに渡してから揃って階段を上がって行った。
「第五位の副賞は、ホテルハンプールが誇る豪華料理が好きなだけ食べられるレストランチケットが三十枚! 同着のお二人にそれぞれ三十枚ずつです。もちろん、すべての同着の方々にも同じ副賞が贈られますからね。いやあ。さすがは一流ホテル。太っ腹ですねえ」
分厚い二通の封筒を高々と掲げて見せた司会者さんの言葉に、会場からは大きな拍手が沸き起こっていた。
「第四位は、ここはお一人です! 上位冒険者にして凄腕の護衛人ボルヴィスとオーロラブラウンウルフの亜種セラスだ〜〜!」
笑ったボルヴィスさんも、大歓声に手を振りながら嬉しそうに階段を上がっていった。
拍手をしてその後ろ姿を見送りながら、横目でハスフェル達をこっそり見た俺だったよ。
お願いだから、お前らも普通に階段を上がってくれよな!