一位は誰だ!?
「さあ、先頭集団が戻ってきた! 一位は誰だ!」
「いけ〜〜〜マックス!」
絶叫する司会者さんの声を聞きつつ、伏せたまま大声で叫ぶ俺、ハスフェル達も何か叫んでいたけど聞き分ける余裕なんて全くない。
そのまま更に加速した俺達は、一気にゴールへ飛び込んでいった。
そしてそのまま駆け抜けていく。当然だよな。あのスピードでいきなり止まれるわけがない。冗談抜きで、高速道路をバイクで走ってるみたいだったぞ。時速何キロだったんだろう?
「うわあ、全員同時のゴールとなりました。これは凄い! 去年と全く同じ状況ですが、あの時以上の人数だぞ。さあ順位はどうなった! 順位が確定するまで、絶対に賭け券を手放さないでくださいね〜〜!」
マイクを握りしめて絶叫する司会者さんの声を聞きながら、ゴール前を走り抜けた俺達は止まる事なく走り続け、しばらくしてようやく少しスピードを落とした。
もう聞こえてくるのは、観客の人達の悲鳴のような歓声とまだ何か叫んでいる司会者さんの声だけ。
「じゅ、順位は?」
そこでようやく我に返った俺は、慌てたように起き上がり周りを見て悲鳴をあげたよ。
だって、ちょうどすぐ近くに走り込んできたレニスさんとリナさんの二人の胸元とそれぞれの騎獣の鼻先に、緑色のラインが綺麗に刻まれていたのが見えたんだからさ。
「うああ、三連覇の夢はチリと消えた〜〜〜! 俺の賭け券買ってくれた皆さん、ごめんなさい!」
そう叫びながら慌てて自分の胸元を確認する。
しかし俺の胸元には何も刻まれておらず、もう一回悲鳴をあげてマックスの鼻先を確認すると、うっすらと赤いラインが刻まれていた。って事はもしかして、また俺の顔面にラインかよ。
「ええと、赤のラインって確か……」
気を取り直してそう呟きつつキョロキョロと周りを見回すと、馬に乗った笑顔のスタッフさんが銀色の縁取りのタスキを持って駆け寄ってきた。
「残念ながら三連覇はなりませんでしたね。でも見事な走りでしたよ。二位、おめでとうございます」
そう言って、俺に銀色の縁取りのたすきを手渡してくれた。
「あ、ありがとうございます」
なんとかそう答えて、半ば無意識で自分でタスキをかける。
別のスタッフさんが手慣れた様子でマックスの首の辺りに、大きな布を被せてくれた。
そこには大きく第二位、と書かれていて俺は大きくため息を吐いた。
だけどまあ、あれだけの全力疾走でも敵わなかったんだから、これは一位の二人の健闘を讃えるべきだよな。
「他の順位ってどうなったんだ?」
改めて周りを見回すと、アーケル君とボルヴィスさん、それからハスフェルとギイとマールの五人が同じく銀色の縁取りのたすきを受け取っている。
でもって、リンピオとアルクスさん、それからオリゴー君の三人に白のたすきが渡されていた。
「ええと、レニスさんとリナさんが一位で、俺が二位であとは?」
彼らの騎獣にかけられた布を確認すると、アーケル君には二位、ボルヴィスさんは四位、ハスフェルとギイには三位の布が掛けられてあって、もう驚きに言葉も出ない俺だったよ。
でもって、アルクスさんとオリゴー君には五位、そしてマールには六位の布が掛けられていた。
「うわあ、またしても同着の嵐! 大丈夫なのかこれ」
しかも俺が言う事じゃあないかもしれないけど、女性コンビの同着一位ってかなりの大穴なんじゃあないだろうか。賭け券の払い戻しを考えて、ちょっと心配になった俺だったよ。
「それでは、只今より早駆け祭り五周戦の勝者によるウイニングランですよ〜〜!」
ご機嫌な司会者さんの声が響き、ざわめいていた会場だけでなくもう街中が一気に大歓声と拍手に包まれた。
「ほら、一位が先頭だよ」
前回前々回と言われた言葉を、それぞれ金の縁取りの真っ赤なマントを羽織ったレニスさんとリナさんの二人に言ってやる。
「私が、一位……?」
まだ呆然としているレニスさんがそう呟き、リナさんは満面の笑みになる。
「ええ、私達が同着一位よ。ケンさんの三連覇を阻んだわよ!」
その言葉を聞いて、ようやく実感したらしいレニスさんが悲鳴のような声をあげて一号に上から抱きつく。
「ありがとう。ありがとう一号。ありがとう……」
「勝てて良かったです!」
嬉しそうな一号の声を聞きつつ、俺はマックスの首元をそっと叩いてやった。
だって、マックスがもうこれ以上ないくらいに落ち込んでいたんだからさ。
「見事な走りだったぞマックス。勝負は時の運。二位でも立派だって」
「でも、やっぱり悔しいです〜〜〜!」
水を切るみたいにブルブルっと大きく身震いしたマックスは、そう言って悔しそうなため息を吐いてからもう一回大きく身震いした。
そのせいで、首元に掛けてもらっていた順位を表す布がずり落ちてしまって、慌ててスタッフさんが駆け寄ってきて掛け直してくれたよ。ごめんなさい。
胸を張ったレニスさんとリナさんに続き、アーケル君と並んだ俺はゆっくりとウイニングランの為にマックスを進ませて行ったのだった。