昼食とレース前の緊張感?
「おお、またしても差し入れの山だぞ、凄え!」
三周戦の表彰式が終わったところでエルさんが迎えにきてくれたので、俺達はまたいくつかの班に分かれて冒険者の皆さんに守られつつ一旦テントへ戻ってきた。
昨日と同じく、いや、昨日以上の大量の差し入れの数々がそこには山になっていて、テーブルの上には、それぞれに差し入れてくれたお店や屋台のリストがまとめて置かれていた。
「はい、これが今日の分の差し入れのリストだよ。また代表してケンに渡しておくね。それから、こっちがギルドからの配給のお弁当だよ。まあ、どれでも好きなのを食べてくれたまえ。五周戦が始まる時にはまた迎えにくるから、それまでテントの外には出ないようにお願いするよ。あ、ちなみに手洗いはそっちのテントに用意してあるからね」
連結した俺達のテントのすぐ横に、無理矢理くっつけた状態で別に設置された小さめのテントがあって、そこだけは連結されず、垂れ幕も下げられている。
「もう早駆け祭りへの参加も三回目だから、その辺りの事は分かってます」
笑った俺の答えに、エルさんも笑って頷き手を振ってからテントの外へ出ていってしまった。
「ええと、じゃあまたこれは、貰った人がそれぞれ好きに収納すればいいな。もしも収納袋が足りなければ、大容量の時間停止のを貸すから言ってくれよな」
テーブルの上にあふれんばかりに積み上げられた差し入れの数々を見て苦笑いした俺はそう言い、自分宛の差し入れをせっせと収納し始める。
それを見て、皆それぞれに自分宛の差し入れを確認しながら収納していった。
今回連結されたこのテントは、前回よりもさらに広くなっている。
何しろ俺とハスフェルとギイ、オンハルトの爺さんだけでなく、ランドルさんとクーヘン、それから草原エルフ一家の四人分も全部まとめて設置してくれてあるのだ。
ちなみに、ボルヴィスさんとアルクスさん、新人コンビとマールとリンピオの分も、昨日のうちにお願いしておいたので全部連結してくれてあるので、昨日よりもさらに広くなっている。
リナさんとレニスさんも今は一緒にいるし従魔達もこっちのテントに一緒にいるけど、彼女達用のテントは、二つ連結した状態で俺達のテントと並べて別に設置されている。
そりゃあ女性専用のテントは必要だよ。身支度をするのに、俺達野郎どもと一緒ってわけにはいかないからね。
全員が好きなだけ収納し終えたところで、ギルド配給の豪華弁当を配り、とりあえず食事にした。
だけど、皆緊張しているのかなんとなく動きがギクシャクとしていて不自然だし、そもそも会話が続かない。
苦笑いして、ハスフェル達と顔を見合わせて一つため息を吐いてから立ち上がった俺は、スライム達が用意してくれたいつもの簡易祭壇に蓋を開けた弁当と貰った差し入れを適当に取り出して大きめのお皿に盛り合わせて、冷えた麦茶と一緒に全部まとめて並べた。
「ええと、お昼はギルド配給の豪華弁当と、街の皆さんから貰った差し入れだよ。少しですがどうぞ。いよいよ午後からは五周戦が始まります。出来るかどうかは分からないけど三連覇目指して頑張りますので、どうぞそこから見ていてください。それから事故の無いようにお守りください」
一応神様なんだから、これはお願いしておいてもいいよな。
そんな事を考えつつ、小さな声でそう言って手を合わせて目を閉じる。
いつもの収めの手が俺の頭をこれ以上ないくらいに優しく何度も撫でてくれた後、並べた料理と麦茶を嬉しそうに何度も撫でて持ち上げるふりをしてから、ハスフェル達だけでなくテントにいる全員の頭を順番に撫でてから消えていった。
「ありがとうな。ああ、待っていてくれたんだな。ごめんごめん」
誰も食べずに俺が祈りを終えるのを待っていてくれたので、慌ててお礼を言って席に戻る。
笑顔で頷き合って、お弁当を食べ始めたのだった。
だけど、やっぱり緊張してるみたいでどうにもぎこちない。
誰かが話をしても会話が宙に浮いたみたいで、ろくに続かないし、そもそも話をしているのは俺とハスフェルとギイとオンハルトの爺さんくらいで、クーヘンとランドルさんは苦笑いして黙々と食べている。
普段はおしゃべりなアーケル君達草原エルフ三兄弟が黙ると、こんなに静かなんだ。
シャムエル様に取り分けてもまだまだ食べきれないくらいにある豪華弁当を食べつつ、のんびりとそんな事を考えていた。
さて、午後の五周戦、本当にどういう展開になるのか全く予想がつかないんだけどなあ。
俺の三連覇はマジでどうなるんだろう……?
食事の合間に冷えた麦茶を飲んで、午後からの事を考えて密かなため息を吐いた俺だったよ。