三周戦までの時間つぶし
「おはようございます。今日の午前中はどうするんだい? ホテルでゆっくりしていてくれてもいいし、レースを見たいなら、また特別観覧席へご案内するよ」
ホテルハンプール提供の豪華な朝食を美味しくいただき、食後のコーヒーを飲んでいたところで笑顔のエルさんがやって来て俺達にそう尋ねてきた。
「ああ、おはようございます。せっかくなので三周戦も見たいです。構わないですか?」
「はあい、俺達も見学希望で〜す!」
笑顔のアーケル君の言葉に、全員の手が上がる。
「了解。じゃあ全員分の席を用意しておくね。だけどその場合の昼食は、ここで食べるんじゃあなくて会場のテントで用意するお弁当になるけどいいかい?」
「ああ、午前中ここにいたら、昼もここで食べてから会場入りするわけか。ええと、弁当を用意してもらえるならそれで……うん、全員それでいいみたいです」
全員が笑顔で頷いているのを見て、一応代表して俺がそうお願いしておく。
「了解。じゃあその段取りで用意しておくね。ちなみに三周戦の開始時刻は午前の十一時から。五周戦は、午後の三時からだよ。開始時間前になったら迎えに来るから、それまではゆっくりしていてくれていいからね。この部屋は、今日は一日中レース参加者の人達用に解放しているから、ここで美味しいお茶を飲んでゆっくりするもよし、部屋に戻っていてくれても構わないよ」
「そうなんだって。どうする?」
「じゃあ、せっかくだからコーヒーを飲み終わったら部屋に戻ってゆっくりさせてもらうか。三周戦が十一時開始なら、まだかなり時間があるからな」
笑ったハスフェルがそう言い、飲みかけのコーヒーの入ったカップを軽く上げた。
「確かに、せっかくだから従魔達にくっついて休ませてもらうか」
「寝てもいいけど、時間には起きろよ」
真顔のハスフェルに突っ込まれて、思わず大爆笑になった俺達だったよ。
確かに、寝過ごしてせっかくのレースを見損なうとかは悲しすぎるので、絶対に寝ないようにしようと心に誓った俺だったよ。
って事で、食後のコーヒーを飲み終えたところで一旦撤収して部屋に戻った俺達は、何故か全員揃って俺の部屋に集合していた。
「まあいい、それじゃあ何をするかなあ」
さすがに今から料理をする訳にもいかず、従魔とくっついて寝ないのならする事が無くて考えていると、にんまりと笑ったギイがボードゲームを出してきた。
これは以前の俺の世界でもあった、人生の色んなライフイベントを擬似体験しながら億万長者を目指すゲームだ。
「ううん、さすがにこの人数ではちょっと多すぎるな。よし、チーム戦にするか」
笑ってそう言ったギイが、いろんな色の駒を取り出して並べる。
俺はクーヘンと相談して緑色の駒を取った。一応一位のカラーだから、ゲン担ぎみたいなもんだよ。
この人生のゲームは、全員が夢中になるくらいのめっちゃ白熱した戦いになったよ。
そしてここでも俺は何故か恋愛運だけが全く無くて、他の皆が順調に結婚から出産というライフイベントを楽しんで動かす駒に子供を示すアイテムが増える中、俺の駒だけがそれ系のイベントのところに一度も止まれず、ずっと一人だった。
でも今回はチーム戦だから、きっとこれはクーヘンの恋愛運なんだ! そうだ。きっとそうに違いない!
あれ? どうして目の前が滲むんだろう……。
そして、いつも通りに最後のゴール手前のトラップにギイとランドルさんが見事に捕まり、揃って破産して一文無しになり絶叫する二人を見て、先にゴールしていた俺達は大爆笑になったのだった。
「はあ、ボードゲームがこんなに面白いなんて知らなかったです」
「確かに一つ欲しいくらいだな。天気が悪くて狩りに行けない時とかなら、こういうのが一つあれば楽しそうだな」
「確かに〜〜じゃあ、祭りが終わったら収納していても邪魔にならないくらい小さめのを探してみるか!」
ゲーム初心者な新人コンビが、楽しそうにそう言って笑っている。
「じゃあ、売っている店を教えてやるから、好きなのを探すといい」
ゲーム好きなギイが、嬉しそうにそう言って二人に店が何処にあるのかを教え始めた。
どうやらアーケル君達もゲーム好きだったらしく、一緒になってどの店にどんなゲームがある、なんて話で盛り上がっていたよ。
話を聞いていると、この世界のボードゲームってそれぞれの店のオリジナルらしく、街によって売っているボードゲームもそれぞれ違うらしい。
今回遊んだ複数人で遊べる人生のゲームみたいなすごろくタイプのものだけでなく、将棋やチェスみたいな一対一の対戦型のものもあれば、数名で対戦するものもあるし、いわゆるカードゲームも色々あってこっちも大人気らしい。
一応、トランプはどの街でも同じものが普及しているらしく、この場合はカードの絵柄が色々あって、それはそれでコレクションアイテムとしても人気があるんだって。
今度はどの街にどんなゲームを売っていたなんて話で盛り上がる彼らを見て、元いた世界で遊んだスマホのオンラインゲームなんかを色々と思い出してしまい、ちょっと涙目になった俺だったよ。