おはようございます!
ぺしぺし……。
「おう、今日も起きるぞ!」
小さなシャムエル様の手で額を叩かれた俺は、そう言ってすぐに目を開いた。
昨日の朝と同じで、実は少し前から目が覚めていたんだよな。もう完全に遠足当日の子供と同じだって。
「ええ! ケンが二日も続けて早起きするだなんて、一体何事? 今日は絶対に嵐になるって! そんなの駄目だよ! ほら寝た寝た!」
俺が目を開いてシャムエル様を見ると、焦ったようにそう言ったシャムエル様は、ぐいぐいと俺の瞼を無理やり閉じさせて、そのまま瞼の上から目を押さえてきた。
その後ろでは巨大化したソレイユとフォールをはじめとした猫族軍団達も、驚いたように目を見開いて起きた俺を見ていたよ。危ない危ない、うっかり二度寝していたらまた酷い目に遭うところだった。
「嵐になんかならないよ。それより痛いって、目を押さえないでください」
寝転がったまま笑ってそう言った俺は、両手でシャムエル様をそっと捕まえてやった。
そのまま腹筋だけで起き上がった俺は、捕まえたシャムエル様を両手で包んでゆっくりと転がすように撫でながらおにぎりにしてやる。
「何するんだって……ふああ、気持ちいい……」
俺の癒しの手は、当然シャムエル様を陥落させたよ。
「ふふふ、今なら触り放題だぞ」
にんまりと笑った俺は、シャムエル様が我に返る寸前まで、もふもふな尻尾を堪能させてもらったよ。
「あれ、私は何を……?」
セーブルの背中に乗せてやり、立ち上がったところでタイミングよく我に返ったシャムエル様は、そう言いながら起き上がって首を傾げている。
「じゃあ、顔洗ってくるよ」
「はあい、いってらっしゃい。ああ! 尻尾の毛が乱れてくちゃくちゃになってる! 大変だ!」
起き上がったシャムエル様は、俺が満喫したせいで乱れていた尻尾の毛に気付いて、慌てたようにそう言って即座に尻尾のお手入れを始めた。
よしよし、全然気がついていないな。
小さく笑った俺は、そのまま水場で顔を洗い、サクラに綺麗にしてもらってから水槽に放り込んでやった。
それから次々に跳ね飛んでくるスライム達を順番に同じく水槽に投げ込んでやり、水遊び大好きっ子達と場所を交代して部屋に戻った。
まだシャムエル様は尻尾のお手入れの真っ最中だ。
手早く身支度を済ませたところでタイミングよくハスフェルから念話が届いた。
『おおい、そろそろ起きてくれよ〜〜』
『ああ、おはよう。今起きて身支度を済ませたところだ』
『ええ、ずいぶんと今朝は起きるのが早いな。雨でも降ったらどうする』
トークルーム全開だったので、横から驚いたギイの念話も届いて思わず吹き出す俺。
『シャムエル様みたいな事言わないでくれよな。ええと今朝って……』
『おう、昨夜執事から聞いたが、今朝はホテルが朝食を用意してくれているらしいぞ』
『ああ、確か前回もレース当日はそうだったな。じゃあ行くか』
『おう、それじゃあお前の部屋集合な』
『じゃあ、従魔達は部屋に置いておく方がいいな』
笑ったハスフェルとギイ、それからオンハルトの爺さんの言葉に俺も笑って頷く。
って事で、従魔達は何故か俺の部屋に集合して留守番しておいてもらい、人達だけで朝食の会場へ向かった。
「おはようございます。お好きな席へどうぞ」
部屋付きの執事さんの案内で到着した広い部屋には、壁面にずらりと並んだテーブル一杯に大量の料理が並んでいた。
もちろん、ホテルハンプールの料理なんだから、俺の適当料理とは何もかもが違う。
大喜びで、それぞれ好きに取って美味しくいただいたよ。
ちなみに俺達が部屋に入ってきた途端、スタッフさん達が素早く動いてガンガン追加の料理を出してくれたのを見て、思わず笑ったのは内緒だ。
そうだよな。俺達が普段デリバリーでどれだけの料理を頼んでいるのか、調理や配膳担当のスタッフの皆さんならご存知だろうからな。
誰が来ようと絶対に料理が無いなんて状態にはしません! ってホテルスタッフの皆さんの気概が感じられて、密かに感動した俺だったよ。
「おはようございます。いよいよですね」
食後のコーヒーを美味しくいただいていたところで、三周戦に参加する大学教授のウッディーさんとマシューさんが揃って入ってきてすぐ横のテーブルにつく。
「おはようございます。いよいよですね。三周戦、勝ってくださいね。応援してますよ」
笑った俺がそう言うと、お二人は嬉しそうに笑って揃って拳を突き出してきて、もちろん俺達も笑顔で拳を突き返した。
料理を取りに行くウッディーさん達を見送りながら、今日のレースを考えてちょっと遠い目になった俺だったよ。
はあ、あの顔ぶれのレースで、本当に三連覇出来るのかなあ……。