それぞれのレース!
「一位でゴールしたのは、前回一位のマシュー選手と馬のメディ! そして第二位も前回と同じバムロン選手と馬のピーキー! いやあ、ゴール前の接戦は、本当に見事な戦いでしたね!」
相変わらず絶好調な司会者さんの解説が会場に響き渡る。
惜しみない拍手と大歓声の中、満面の笑みで手を振る見事に連覇を達成したマシューさん達に、俺達も笑顔で力一杯拍手を送ったのだった。
表彰台の上に立ったマシューさんは、そりゃあもう最高の笑顔でギルドマスターから賞金と勝者の盾を受け取っていたよ。いやあ、おめでとう!
続く二周戦も大いに盛り上がり、こちらは二周戦参加者の中でも常連らしい年配の男性がゴール前の大接戦を制して一位となり、これまた大歓声を受けていたのだった。
そして二周戦の表彰式が無事に終わったところで本日のレースは終了となり、会場は拍手大喝采となったのだった。
「いやあ、楽しかったなあ。やっぱり祭りはこうでなくちゃあな」
また護衛役の冒険者の人達に取り囲まれてテントに戻ったところで、俺は思わずそう呟いて思いっきり伸びをした。
「確かに楽しかったな。さて、ホテルに戻るのはもう少ししてからかな。じゃあちょっと休憩だな」
笑ったハスフェルがそう言い、何故かワインなんか取り出して飲み始めていた。
「ああそうか。ちょっと人が減ってからホテルに戻るって事だな。じゃあ俺も……やっぱりここは冷えたビールだよな」
にんまりと笑った俺が自分で収納していた冷えた白ビールを取り出すと、あちこちから笑う声が聞こえて自分も呑みたいって声が上がった。
当然のように赤ワインやビールを取り出すハスフェルを見て、皆大喜びしていたのだった
「おやおや、ホテルに戻るまでもうしばらくかかるから、ちょっと待っていてねって言いに来たのに、何そんな楽しそうな事をしているんだよ! 人が大忙しで走り回っているって言うのにさ!」
テントにやってきたエルさんが、すっかり宴会の様子を呈しているテントの中の俺達を見て呆れたようにそう言って、赤ワインを飲むハスフェルの腕をバンバンと叩いた。
「そりゃあ悪かったな。まあ一杯やってくれ。どっちがいい?」
にんまりと笑ったハスフェルが、飲みかけていた赤ワインの瓶と、冷えた白ビールの瓶を見せる。
「じゃあ、そのビールをいただくよ」
笑ったハスフェルが瓶ごと渡すと、受け取ったエルさんはその場に立ったまま瓶に口をつけるとグビグビって感じに一気に飲み干してしまった。
ちなみに、あの白ビールのラベルはドヤ顔の俺だったよ。こっち見るな!
「ふああ、これは美味しい。へえ、ビールって冷やすとこんなに美味しいんだね。初めて飲んだよ」
飲み干した白ビールの瓶を見たエルさんが、驚いたようにそう言ってハスフェルを見る。
「ああ、冷えたビールはケンが好きでね。いつもあまりに美味しそうに冷えたビールを飲むもんだから、俺達もすっかり冷えたのが定番になったんだよ。冷やしてないのもあるぞ」
「じゃあもう一本、冷えた黒ビールをもらえるかな。へえ、これはこれからの暑い時期、屋台やお店で売ったら人気になりそうだね」
「まあ、瓶ごと冷やすには冷蔵庫か大量の氷が必要だし、すぐには冷えないからな。だが、店で出すなら数量限定とかで対応するならアリかもな」
笑ったギイの言葉に大きく頷いたエルさんは、冷えた黒ビールをこれまたグビグビと一気飲みしてからそれはそれは真剣な顔で考え込んでしまった。
「確かにそうだね。瓶ごと大量に冷やそうと思ったらそれなりに大きな冷蔵庫が必要だろうから、どの店でもすぐに出来る事ではないね。それに、氷を大量に作れる術者の確保もそう簡単ではないから、これはちょっと商売としてするなら色々と下準備が必要そうだね。だけど、これは絶対に受けると思うなあ」
顔を上げたエルさんは、そう言いつつもまだ考え込んでいる。
「俺としては、冷えたビールを気に入ってくれる人が増えて、店や屋台でも冷えたビールが飲めれば単純に嬉しいですよ。じゃあ期待していますので、頑張ってください」
笑った俺が、もう一本取り出した普通のラベルのビールを見せると、顔を上げたエルさんはそれはいい笑顔で頷いた。
「以前、ケンが教えてくれた冷えたコーヒー。あれも最初こそ驚かれたけど、あっという間に大人気になって、今ではカフェやコーヒーの屋台での夏の定番になったからね。この冷えたビールも是非とも広げようと思うから、期待して待っていてくれたまえ」
おお、以前教えたアイスコーヒー、あれも人気メニューになっていたんだ。
密かに感心しつつ、追加で出したビールも美味しくいただいた俺だったよ。はあ、冷えたビール美味〜〜!
のんびりと宴会を楽しんだ俺達は、それからしばらくして迎えにきてくれた護衛の冒険者の人達にまたしても全員揃って囲まれつつ、人が減ったとはいってもまだまだ大勢の人がいる中をホテルまでマックスに乗って戻って行ったのだった。
そして、またしてもホテルに着く頃には全員揃ってヘトヘトになっていたのだった。
歓声を受けてHPが下がるって、マジでどんなデバフなんだって。
大きなため息を吐いて、思わず脳内で力一杯突っ込んだ俺は絶対に間違っていないと思うぞ!