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ブルーレースバタフライ狩り

「それじゃあ、飯も食ったし場所を変えるか。今度はケンにも頑張ってもらうぞ」

 からかうように笑ったハスフェルにそう言われて、俺は両手を合わせて頭を下げた。

「本当ごめんよ。午後からは頑張るから、芋虫だけは見逃してください!」

 誤魔化すように笑った俺に、ハスフェルとクーヘンも顔を見合わせて笑っていた。

「まあ、誰にでも苦手なものの一つや二つあるさ。気にするな。その為の仲間なんだからさ」

 そう言ってくれたギイも、俺の背中を叩いてやっぱり笑っている。

 申し訳ないとは思ったけど、でもやっぱり芋虫は苦手だからなあ……。

 万一今後も芋虫が出て来たら、俺は遠慮無く逃げさせてもらおう。無理はいけないよな。うん、そうしよう。



 綺麗に片付けた草地を見回して、最後に残った机と椅子を足元に来てくれたサクラに渡した。

 少し前に戻ってきていたマックスに乗り、ニニ達猫族軍団が交代で狩りに出掛けて行くのを見送った。

「こっちだよ」

 ハスフェルの案内で、それぞれの従魔に乗り、ゆっくりと草原の横にあった森を大回りして走った。


「おお、山並みが一気に近づいて来たな。あれがクーヘンの故郷があるっていうカルーシュ山岳地帯なのか?」

「そうです。山のもう少し西側には、カルーシュ高原と呼ばれる高原地帯もありますよ。そのまま南下して、カデリー平原へと続いているんです。この辺りはいわゆる一大穀倉地帯と呼ばれる地域で、二本の川を通じて、ここで作られた食料は遥か遠くまで流通していますよ」

 カデリー平原って、コメを作ってるって言う地域だよな。いつか絶対行ってやる。

 密かに考えていてふと心配になった。

「なあ。ちょっと聞くけど、じゃあその辺りって、従魔達が狩りが出来るところが無いんじゃないか?」

 耕作地帯になっているのなら、逆に言えば自然な森や草地は開発されて無さそうだから、もしも行くなら従魔達の食料を確保してやらないと行けないぞ。

 しかし、俺の質問に、ハスフェル達は揃って首を振った。

「いや、あちこちに森や草地は残っているよ、逆に草地のネズミなどをやっつければ喜ばれると思うぞ。時に、ネズミの大繁殖が起きて、農家からギルドに狩猟の依頼が来る事が有る程だからな」

「ジェムモンスターは?」

「そっちも、地脈の回復した今なら心配は要らないよ。場所によっては昆虫系がかなりいるから、機会があればジェム集めに狩ってやると良い。まあ、お前さんには……無理な事も有りそうだけどな」

 意味深なハスフェルの言葉にギイとクーヘンが揃って笑い出し、俺も堪え切れずに吹き出した。

「芋虫だけは、本当に勘弁してください!」

 俺の叫び声は、草原に響き渡って、また皆で大笑いになった。



「さて、ここが目的の場所だ。地図の位置を確認しておけよ」

 後半は、地図を取り出したクーヘンに言う。

 横からギイが何か言って、地図に二人で書き込んでいる。

 さっきの芋虫のいた場所から森を大回りして裏側に来たから、かなり走ったように見えるけれど、地図で確認して来たら森の東側から西側に来ただけみたいだ。

「ここが、グリーンキャタピラーから羽化した蝶が蜜を求めて集まって来る花畑だ。幼虫の時はグリーンだが、蝶になったらブルーレースバタフライ、つまり青い色の蝶になる。これはこれでなかなか綺麗な蝶だぞ」

 ハスフェルが指差す場所は、縁が少し段差になっている丸い大きな窪地になった場所で、一面に直径50センチ以上はある、マーガレットみたいな白い花が咲いていた。

「ゴールドバタフライの主食の花は珍しい花だから、あれを捕まえるのは大変なんだが、こいつはいつでも咲くし、ブルーレースバタフライもまあ珍しいジェムモンスターじゃ無い。特に、ブルーレースバタフライの羽根は、家の窓に嵌める模様入りの素材として人気が高いんだ」

「レースって名前が付いてるのはそう言う意味なんだな。で、何処にいるんだよ。そのブルーレースバタフライってのは?」

 窪地の花畑には、特にそれらしい姿は見当たらない。

「奴らが出てくるには、一定の周期があるんだよ。そろそろ来るはずだから下で待っていよう」

 シリウスに乗ったままのハスフェルが、段差を乗り越えて窪地の中に入って行く。頷いた俺達もそれに続いた。



 巨大なマーガレットは俺の背丈よりも少し小さい程度で、株が横に広がっていくつもの大きな花を咲かせていた。

 マックス達も、それぞれ俺達の周りで広がって待機している。今回は草食チームも、巨大化してやる気満々だ。

 なんとなく皆バラバラに分かれて、花畑の中で待つ事しばし。


「花畑の中にいるのは、従魔達とおっさんばっかり。うう、ちょっとシュールな光景かもな」

 ふと我に返って、今の光景を考えて悲しくなったね。

 なに、この圧倒的な女子不足は。まあ、従魔達は女子率高いんだけどね。



「お、そろそろ来そうだぞ」

「念の為確認するけど、ブルーレースバタフライも攻撃してこないんだよな?」

「大丈夫だ、ちょっと鱗粉が鬱陶しいくらいだよ」

 笑って振り返ったハスフェルは、いつの間にか取り出した布で口元をマスクのように覆っている。

 見ると、ギイとクーヘンも同じようにしているので、俺も慌ててカバンから大きめの布を取り出して鼻と口を覆った。


 何やら、森の方からざわめきが聞こえてきた。

 顔を上げてそっちを見た俺は、思わず悲鳴をあげたよ。

 だって、とにかく物凄い数の青い蝶が一斉に森から飛び出して来たのだ。

「あれだけの蝶がいて、羽根同士が当たらないって凄えな」

「気にするのはそこか!」

 笑ったギイの声が聞こえたが、返事をする余裕は無かった。



 空が真っ暗になる勢いで迫って来たブルーレースバタフライは、次々と花に留まって蜜を吸い始めた。

「羽根は傷つけるなよ!」

 ハスフェルの叫ぶ声に返事をして。ゴールドバタフライよりもはるかに小さな青い蝶の胴体を斜めにバッサリと切ってやった。

 一瞬で胴体部分が消えて無くなり、地面に握りこぶしよりも小さなジェムが転がる。

 最近大きなジェムばっかり見ていたから、なんだかこの大きさが返って新鮮だね。

 そして四枚の大きな羽根がゆっくりと地面に落ちる。

 大きな方の羽根の幅が、約2メートル程で、小さい方の幅は1メートルも無いくらいだ。

 地面に落ちたそれは持ってみると軽くて驚いた。

「ご主人、もらうよ」

 アクアが足元でそう言うので、掴んでいたその羽根を渡してやる。

「うわあ、なんだこれ、手が真っ青になったぞ」

 手袋をしていた左手は、羽を掴んだ部分だけが真っ青になっている。

「うわあ、取れるかな、これ」

 足に叩きつけて取ろうとしたら、そこも青くなった。

 焦る俺を見て、肩にいたシャムエル様がおかしそうに笑っている。

「大丈夫だよ。蝶の羽の色は、花や草と違って染まる事は無いよ」

「あ、そうなんだ?」

「鱗粉が付いているだけだから、後でサクラに取って貰えばいいよ。まあ害はないけど吸い込まないようにね、迂闊に鱗粉を吸い込むと、かなり酷いくしゃみが出るからね」

 確かに、ゴールドバタフライの時も凄かったが、あの時よりも鱗粉は多いような気がする。

 鼻と口を覆っている布は、もう張り付いた鱗粉で真っ青になっていた。


 上空には何匹もの青い蝶達が羽ばたいては花に降りて来て、素早く蜜を吸っている。

 その度に、羽から飛び散った青い色をした鱗粉が舞い散って、辺りはもう酷い事になっている。

 うん、できればゴーグルも欲しいぞ、これは。

「それじゃあまあ、頑張って働きましょうね! っと」

 近くに飛んで来たブルーレースバタフライの羽根を傷つけないように、胴体部分を狙って上下に剣を振るう。

 アクアとサクラが飛び回って、俺や従魔達が叩き落としたジェムと羽根をせっせと拾い集めてくれた。



 ようやく蝶の数が減って空が見えるようになり、残った何匹かの蝶は森へ逃げて行った。

「追わなくていいのか?」

 剣を持ったままハスフェルにそう尋ねると、彼は笑って持ってた剣を収めた。

「森の中は、視界も効かないし足元も悪いからな。また待っていれば出てくるからしばらく休憩だよ」

「これが一面クリアですね」

 ハスフェルの言葉に、クーヘンもそう言って笑っている。


「お疲れさん。俺は喉が渇いたよ」

 笑ってそう言って、俺はマックスの背中の鞍袋から水の入った水筒を取り出した。

 皆も、しばらくその場に座り込んで水分補給をしてた。

「なあケン。さっきの冷たいアイスコーヒーはもう無いか?」

 ギイの言葉に振り向いた俺は、足元のサクラをサッとカバンに入れて、氷入りのアイスコーヒーの入ったピッチャーを渡してやった。

 クーヘンもカップを出したので、昼の残りの砂糖入りも出しておいてやる。

 俺もせっかくだから自分のカップにアイスコーヒーを入れた。

「何かちょっと食いたいな。あ、メロンパンにしようっと」

 自分の分のメロンパンを取り出して、頭上に持ち上げて大きな声で聞いてやった。

「メロンパン、欲しい人!」

「はい!」

 綺麗に揃って三人の手が上がる。

 笑った俺は、メロンパンを幾つかまとめて皿に出してやった。

 三人は大喜びでそれぞれ2個ずつ確保してた。うん。やっぱりよく食うな、君たち。




「お、そろそろ第二弾がお出ましだぞ」

 メロンパンのおやつタイムも終わり、それぞれ座って休憩していたが、水筒を置いて立ち上がったギイの言葉に揃って顔を上げる。

 また、森から沢山の青い蝶が出て来るのが見えたのだ。

「じゃあもうひと頑張りするか」

 立ち上がった俺に、マックスが嬉しそうにワンと吠えて擦り寄って来た。

「じゃあ、あともう少し頑張ってジェムと羽根を集めてくれよな」

 笑ってそう言い、剣を抜いて見上げたその時、狩りから戻って来た猫族軍団が、大喜びで一気に蝶達に飛びかかったのだった。

 呆気にとられる俺達を尻目に、嬉々として暴れまくる猫族軍団は、それ程の時間を掛けずに第2面をクリアしてしまった。



「結局、後半はあんまり俺達の活躍する間が無かったな」

「私なんて、はっきり言って火の魔法を放つ暇もありませんでしたよ」

 俺の言葉に、クーヘンも苦笑いしている。

 さっき以上の数の大量のジェムと羽根が転がる地面を、俺達は揃って笑って眺めていたのだった。



 まあ良いや。取り敢えず今日の狩りはこれにて終了だね。

 お疲れ様でしたー!

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