早駆け祭り一日目午前中の終了!
「それでは、頑張った子供達にどうぞ温かい拍手をお願いしま〜〜す!」
笑顔の司会者の言葉に、会場は暖かな拍手に包まれた。
十歳以下の子供達のレースは2レースあったんだけど、次のレースも当然大騒ぎで思いっきり笑わせてもらったよ。
無事に十歳以下の子達のレースが終わり、表彰式で高級菓子店のお菓子の豪華詰め合わせを貰った一位になったチサちゃんは、それはそれは良い笑顔で嬉しそうにお菓子の缶を抱きしめていた。
ちなみに猫のミーシャはもう自分の役目は終わったと言わんばかりに彼女の足元に座って、表彰式の間中ずっと身繕いをしていたよ。ううん、この大歓声の前であの平常心でいられる猫のミーシャを本気で尊敬した俺だったよ。
あれがジェムモンスターや魔獣でも、ましてや幻獣のケット・シーでもなく普通の猫だってのが本当に凄いよな。
その後、次のもう少し年長の子供達のレースが全部で5レース行われて、こちらも会場から大歓声と暖かな拍手を送られていた。
あの孤児院出身のリック少年が参加した回のレースはそりゃあもう大いに盛り上がったんだけど、今年はゴール前で貴族の少年と競り合って大接戦となり、リック少年は二位に終わったのだった。
それを見て彼を応援していた会場から大きなため息が起こったのは、まあ仕方あるまい。もちろん、勝者の貴族の少年には大きな歓声と拍手が送られていたよ。
まあ、勝負は時の運だからね。二位でも少し小さくなるけどお菓子はもらえるんだから、また仲間達と仲良く分けてくれればいいね。
そんな事を考えていた俺だったんだけど、いざ表彰式になった時になんとも素敵な展開になったんだよ。
今回、ゴール前で競り勝って僅差で一位となったその貴族の少年が、表彰台に上がって一位の賞品である例の高級菓子店のお菓子の缶を受け取ったんだけど、その直後に笑顔で隣にいた二位のリック少年の手を取り、貰ったばかりの一位の賞品のお菓子の缶を何とそのまま彼に手渡したのだ。
「僕は普段からこれを食べているからね。どうぞ、僕の分のお菓子もお友達の皆さんと一緒に楽しんでください」
笑顔でそう言った少年の言葉を聞いた司会者の人が、大感激してその言葉をそのまま会場の人達にも伝えたものだから当然会場の人達も大感激して、それはそれはもの凄い拍手大喝采になったのだった。
しかもよく見ると、観客の前列に明らかに貴族の人と思われる集団がいたんだけど、その少年の言葉を司会者の人が伝えた途端、全員がとても良い笑顔になって頷きあい、表彰台に上がっている少年達に大きく拍手をしていたのだ。
多分、一位の彼の保護者の方々と思われる。
「ううん、貴族の人にも良い人はいるんだねえ」
貴族との関わりでは、正直言って良い思い出がほぼない俺は密かに感心しつつ、お礼を言って笑顔で握手をする少年達を見ていたのだった。
そして次は、俺のお気に入りの半周を走る混合戦だ。しかもこれは1レースのみで、参加者全員が一緒のスタート。
走る距離は半周だからスタート地点の様子はここからは見えないので、司会者の人が説明してくれるのを聞きながら選手達が走って来るのを待つ。
この半周戦は混合戦と呼ばれる通り、それなりの馬に乗った人達がまずはゴールに駆け込んでくる。
「おお、さすがに速いな」
すごい勢いで団体でゴールしたのを見て思わずそう呟く。
大きな拍手に送られて馬達が下がった直後、犬を連れた駆けっこ組の先頭集団が駆け込んできた。
これは言ってみれば普段からそれなりに走っているであろう人達なので、結構なスピードだし参加者の人達はそれほど息を切らせる事もなく笑顔で犬達と一緒にゴールしている。
年配の人や若い女性も案外いたんだけど、皆アスリートっぽいしっかりとした体格の人達ばかりだ。
まあ、半周なら3キロ弱だから、普段から走っている人にすればそれほどの距離でもないのだろう。
拍手の中、参加者同士完走を祝して笑顔で手を叩き合ったり、犬を抱きしめたりしている。皆、とても良い笑顔だ。
そして、しばらくしてこの混合戦の花形(?)最後尾の団体が犬達と共に駆け込んできた。
とはいえ、こちらはほぼ歩くのと大差ないような速さの人達もいるし、犬も小柄な子やかなり太めの子達もいる。中には、犬を抱き上げて早足で歩いている人もいるよ。
あちこちから笑い声と共に、早くしろ〜〜って声がかけられ、その度に大きな笑い声が起こってもいた。
そして、最後の一人がなんとかゴールしたところで半周戦の表彰式が始まる。
これは、舞台の上では最初にゴールした馬に乗った人達への表彰だけで、舞台前の場所では、犬仲間達によるいつもの勝手に表彰式が行われて、会場は大いに盛り上がっていたよ。
「この、犬仲間大集合的なのどかな感じがすごく良い。できるなら俺もこっちに参加したかったくらいだ」
笑って拍手をしながらそう言うと、周りにいた全員から、お前何言ってんだ? みたいな顔で見られてしまい、揃って大爆笑になったのだった。
ええ、俺的には小さなマックスと一緒なら喜んで半周くらい走るけどなあ。駄目?
思わずそう呟くと、俺の膝の上に座って一緒にレースを見ていたシャムエル様に、割と本気で呆れたような顔で見られてしまい、ちょっと遠い目になった俺だったよ。
いやマジで俺的には、村人その一、くらいのモブ扱いでいいんだけどね。