まずは子供達のレースから!
「お待たせしました! 間も無く最初の未成年の子供達による最初のレースが始まりますよ〜〜! 皆様、どうぞこちらにご注目くださ〜〜い!」
のんびり話をしながらくつろいでいた俺達は、その言葉を聞いて慌てて座り直した。
未成年の子供達のレースは、スタートラインもゴールラインも舞台の前にある。走る距離にすれば100メートルあるかないかくらいなんだけど、毎回これがすっごく楽しいんだよな。
スタートラインには、最初のレースに出る子供達が次々に集まってきていてスタッフさん達の指示で所定の位置に並んでいる。
とは言え緊張のあまりその場に座る子や、逆にウロウロと動き回る子。そして子供の言う事なんて聞かずに勝手に動き回る相棒の犬やロバ。当然手綱やリードを持っているので、引きずられてしまう子達もいるのですでにスタート前の時点でかなりのカオス状態だ。
毎回思うけど、あれに平然と対応するスタッフさん、凄いぞ。俺には絶対出来ないと思うな。
「それでは最初のレースとなります。まずは十歳以下の子ども達による早駆けです。さあ、今回の子ども達はどんな活躍を見せてくれるのでしょうか! どうか皆様、参加する子供達に温かい拍手と歓声をお願いしま〜す!」
絶好調な司会者の声に、静かになっていた会場が一気に盛り上がる。
なんとかスタートラインに並んだ子供達は、その大歓声に笑顔で手を振る子達と、びびって首をすくめて小さくなる子達に見事に分かれていたよ。
あの、猫に跨って構える女の子、チサちゃんと猫のミーシャも健在だ。
そして会場中にスタートを知らせる大きな銅鑼の音が響き渡り、子供達の乗った犬やロバそれから仔馬達が一斉に走り出す。チサちゃんも猫に跨ったまま走り出したよ。
とは言え、どの子もトコトコって擬音がぴったりなくらいのスピードだ。
「さあ、最初の早駆けが始まりましたよ〜〜! 今回もニャンコと共に参加しているチサ選手。おお、今回は転ぶ事なく上手く走っていますね。さあ、どんどん行け〜〜! 頑張れ頑張れ! どの子も頑張れ〜〜〜!」
相変わらずの暑苦しい司会者の解説の中、皆真剣な顔で走っている。
仔馬やロバに乗った子達、犬と一緒に走る子達、そして、猫と一緒に走るチサ選手!
今回はスタートの時点では皆かなり上手く走れていると安心したのも束の間、先頭のロバに乗っていた子がバランスを崩してずり落ちるみたいにして落っこち、そのすぐ後ろを走っていた仔馬に乗っていた子達が二人、揃って逃げ損なってロバにぶつかりそのまま続いて転がり落ちる。
そこへ、その後ろを走っていた犬を連れた子達が止まりきれずに更に追突する。なんと、最後尾だったチサちゃん以外の全員が巻き込まれてしまった形だ。
まあ、見事なまでの多重追突事故の発生だよ。
「ああ〜〜これは大変な事になったぞ。豪快に転がり落ちた子もいましたよ。大丈夫でしょうか?」
一応スタッフさんが近くまで駆け寄り泣いている子達に声をかけて確認していたが、どうやら大丈夫だったらしく笑顔で頭上に丸印を作ってすぐに下がった。
一応、レース参加者には、レース中はスタッフさん達であっても勝手に触ってはいけない決まりになっているみたいで、転んでいる子達を起こすような事はしない。
「ああ、どうやら怪我はないようですね。安心しました!」
会場からも、安堵のため息と共に頑張れと声援が起こっていた。
しかし、怪我が無いとはいえ、落馬した子供達や巻き込まれて転んだ子供達はもう大パニックだ。
仰向けに転がったまま泣き出す子や、勝手に走って行ってしまった馬やロバを泣きながら追いかける子。地面に転がったまま、逃げて行った犬の名前を叫びながらジタバタと暴れる子など様々だ。
これ、レースは人と騎馬が一緒にゴールしないと駄目だから、馬やロバだけゴールしてもゴールとは認められないんだよな。もう完全にカオス状態。
その時、猫のミーシャと一緒に走ってきた最後尾だったチサちゃんが、地面に転がる男の子達に追いついてきた。
当然のように、チサちゃんはその子達を避けて走って行ったんだけど、猫のミーシャは転がるその男の子達を平然と踏みつけて進んでいった。
「ああ、ミーシャが倒れた子達を容赦なく踏んで進みます! これは地味に痛い攻撃だ。踏まれているのはジーテン選手とガッシュ選手、そしてグラシュ選手! なんとグラシュ選手は、今回で四回連続でミーシャに踏まれています。もうこれはわざとで確定ですかね? もしかしなくても、ご褒美なんでしょうか?」
司会者の解説に大爆笑になる会場。
そしてなんと、チサちゃんが笑いながらそのまま一位で元気よくゴールして、会場から拍手喝采をもらっていたよ。
「おお、これは見事な大逆転劇! 最後尾だったチサ選手と猫のミーシャがなんと一位でゴールです! しかも、二位以下がまだ誰もいません!」
笑った司会者の言葉にまたしても大爆笑になる会場。俺達も笑いながら拍手をしていたよ。
なんとか起き上がった子達が、ようやくゴールして最初のレースが終わり、会場からは暖かな拍手が沸き起こっていたのだった。
ううん、本気で走るレースも面白いけど、こういうお祭りならではのレースも楽しいよな。
エルさんから貰った差し入れのジュースを飲みながら、もうずっと笑っていた俺だったよ。
そうそう、お祭りはこうでなくちゃね。